2022/07/09
ときめきを一振り、さあ召し上がれ
今原夢。
ラーメンを食べに行くお話。
* * *
火傷しそうな位に熱いスープと麺を、尖らせた唇から吐き出す生温い息で冷ます。
口内に収めるまで、あと少し。至福の時間だ。
もっちりとした麺に口元が緩んだ。続けて濃厚に違いない味玉を箸で割り入れ、口まで運ぶと思わず「んー!」と声が出た。それ程までに美味しかった。
そんな私を見て勢い良く麺を啜っていたカイリさんが箸を置いて笑った。
「な、美味いだろ?その満足そうな顔が見たかったんだ」
「いや、本当に美味しいです!……ラムヤも来れば良かったのに。これは食べないと一生の損です。食べると人生変わる、間違いない」
本日は部隊メンバーであるカイリさん、そしてラムヤと試合後に食事をする約束をしていたのだ。かなり乗り気だったというのに、ラムヤは急用が出来たらしく残念だ。
早口でラーメンを絶賛する私にカイリさんはニヤリと含みのある笑顔を浮かべた。
「あのさあ、実はラムヤの奴には遠慮して貰ったんだよね」
「……それってどういう意味ですか?」
カイリさんとラムヤは頻繁に口喧嘩をしている。でも、それは仲の良さから来るじゃれあいみたいなものだ。
私の知らない所で喧嘩していて、今日試合後に食事に誘ったのはその事を相談したかった、とか。ううん、分からない。
チラチラとカイリさんの顔を盗み見ると「本当に貴女は分かりやすくて可愛いな」と笑われた。その言葉の所為で素直に頬が熱くなる。
「狙ってる人がいるってラムヤに言ったらさ、快く送り出してくれたよ」
「えっ」
流石の私もそこまで鈍感じゃない。睫毛を瞬かせているとカイリさんの顔が少しだけ寄せられた。
「豚骨ラーメンじゃ格好付かないからさ、今度は洒落た店で飲まない?2人で」
強い意思を持つ彼女の瞳がキザにきらめいた。その輝きに惹かれた私は気付けばコクコクと頷いていた。
だって、星の引力には敵わない。