2022/11/24

X29 HEAVEN TASTE

プトにネイル塗ってもらう話。
後輩夢主で付き合ってない。

* * *

若葉色の液体をハケにとり、適量を取る為に小瓶のふちで調整する。
彼女の手のひらをしっかりと握り、狙いを定めた。……ネイルを塗って欲しい、と頼まれるのは本当に久し振りだ。

上から下へと爪のラインに沿う様に、丁寧に筆を進める。淡い色合いの塗料なので、ニ度塗りした方がきっと綺麗に発色するだろう。

「クリプト先輩、上手ですね」
「……女兄弟がいてな。やらされてたんだ」
「器用だからって理由でお願いしたんですけど、まさか経験者とは……妹?さんとは仲がいいんですね」

オフの日に面倒な頼み事をしてくる様な不躾な後輩の言葉だと言うのに、不覚にも涙腺が熱くなる。一拍間を開けて、「ああ」と返すと「そうなんですね」と彼女はニコニコと嬉しそうに笑った。

今更ながら顔の近さに気付いて、俺は妙に気まずくなった。
この距離のミラに化粧が濃くないか、なんて言って睨まれるのは慣れっこだが、今目の前にいる女の瞳は馴染み深い緑色ではない。知らない色を彩る睫毛は長く、繊細だった。これも付け睫毛をしたミラとは違う。
その下にある唇の色も同じピンクだが、微妙に透明感や血色が違う様に見える。

一つ一つミラとの違いを確認する度に、家族ではない異性の手を握っている事実が身に沁み、照れが混じってきた。
俺は指先に集中を向け、ひたすら健康的な爪を染め上げた。

「……出来たぞ」
「うわ、上手です!クリプト先輩に頼んで良かった!これからアジャイと会うんで自慢しちゃお」
「……ライフラインに頼めば良かったんじゃないか」
「アジャイは医療従事者なので、全く塗らないんですって」
「成る程」

満足気に緑色にコーティングされた爪を眺める彼女を見て、そこまで大喜びしてくれるなら悪い気もしないな、なんてぼんやり思っていると彼女は口元を緩めながら言った。

「それに、好きな人色に染まりたいものじゃないですか」

頬から耳まで桜色を咲かせた彼女の顔を見て、俺の皮膚の下が疼いた。きっと、開花の季節を待ち望んでいるに違いなかった。

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カド