2023/08/06
Gin and Lime
クリプト夢
酒の勢いで告白するプト
* * *
火照り、赤に染まった大きな手のひらが重ねられた。
熱源に視線をやった後、私は顔を上げる。緊張で僅かに顔を強張らせるクリプト先輩の瞳は潤んでいた。
彼の黒褐色の目を覗き込む様に見つめ返す。瞳だけでも充分物語っていたけれど、私はどうしても直接的な言葉が欲しかった。
「俺と、付き合ってくれないか」
酒の所為なのか、照れている所為なのかは分からないけれど、クリプト先輩の頬は尋常じゃなく真っ赤で、まるで熟れた林檎みたいだった。
年上の、立派な成人男性だと言うのに、あまりにもうぶな反応を見せるクリプト先輩が可愛い。
胸の中にとろとろとした甘酸っぱい想いが流れ込んで来て、耐えきれず私は笑った。
精一杯可愛らしい笑顔を浮かべたつもりだけれど、ニヤニヤと自然と緩むだらしない口元は上手く誤魔化せただろうか。
「よろしく、お願いします」
固く指先を繋ぎ直すと、クリプト先輩は目線を手のひらから、私の顔に移す。
途端、肩の力が抜けたらしいクリプト先輩はふにゃりと椅子に体重を預けた。眉根に寄っていた皺も何処かに消え去って、代わりに口角がゆるく上がっていた。
「幸せだ、今」
「私もです」
お互いにしばらく何も言わなかった。ただ、目の前にいる愛しい人が自分のものになったという幸福感に満たされていた。
「ねぇ先輩」
「……その呼び方は、今度から辞めてくれないか」
折角、恋人になったのだから。照れてるらしい彼は今にも消え入りそうな声でそう言った。
彼の口元にそっと耳を近付けると、レジェンドネームでも、こっそり調べたヒヨンという名前でもない、真実が告げられた。
「二人きりの時に呼ばせて貰いますね」
「ああ、楽しみにしてる」
心地よい歓談の声が背後から聞こえて来る。雰囲気のあるバーで彼の名前を初めて呼ぶのはとてもロマンチックに思えたが、今回は残念ながらお預けだ。
それでも、二人だけの秘密というのが私の体を芯から熱くさせて、どうしようもない位に彼が欲しくなる。
「じゃあ、私からも改めてお願いしていいですか?」
「なんだ?」
「また、お酒が入ってない時に好きって言って欲しいです」
私の言葉に彼は分かりやすく動揺した。赤く染まりっぱなしの顔を一度隠した後、観念した様に言った。
「約束しよう」
そう言うと、彼はライムが浮かぶカクテルに口を寄せた。