2021/02/07

夢見る隣人

クリプト夢
運命の恋を妄信するクリプトと現実主義な夢主
無自覚に気持ち悪いタイプのクリプト

***

一目見て、予感がした。
声を聞いて、確信を持った。
微笑みかけられて、恋に落ちた。

どうやら俺は運命の人と巡り合ったらしい。


「君を愛しているんだ。……一目見た時から運命だと思ったんだ」

即刻、俺は行動に移した。
同僚としてやって来た彼女の情報を得るのは、立場的にも俺からすれば容易い事だった。
彼女の行く先々にドローンを用意しては徹底的に追い、監視活動を行う。

好きな食べ物、気になっている店、よく飲んでいる紅茶のブランド、得意な武器に苦手な武器、更には目指す目標。
彼女に好意を持たれそうな、話が盛り上がりそうな会話のタネになりそうな事は、全て洗い出したと言っても過言では無い。

何度も足繁く彼女の実験室に訪れては彼女の好きなスイーツを差し入れしたし、さぞ試合中に気付いたとでも言う様に、彼女が苦手な武器の特訓をする約束を取り付けた。
結果、俺と彼女は明らかに他の同僚達とはまた違う近しい関係性を持つ事になった。

一度話し出せば、尽きる事のない雑談で盛り上がった。恐らく彼女も無理をして話題を作ったりはしていないだろうと、思う。それ程に俺達の距離は縮まっていた。

頃合いを図り続けたが、今ならきっと「はい」と返事をを貰えると信じ、宝石の様に艶々と輝く苺のタルトと、彼女が淹れたミルクティーが出揃ったタイミングで俺は愛の告白をした。

「本当ですか?冗談では無く?」
「冗談なんかじゃない。君は俺の運命の人なんだ」
「クリプト先輩みたいな素敵な人に、愛してるなんて言われたら嬉しいです」

頬を薄桃色に染めてはにかむ彼女を目の前にして、内心、油断すれば叫び出してしまう程の歓喜に打ち震えるが努めて冷静さを装う。

「その、じゃあ、俺達は……」
「……気持ちは本当に嬉しいんですけれど、付き合うとかは無理なんです」

まさかここに来て「ノー」と言われるとは思わず、体が硬直する。

「……何故?」

やっとの事で、震える唇を宥め彼女に問う。

「母星の事が落ち着くまでは、恋愛とかする気は無くて。多分色々と終える頃には子供も望めない歳になると思います。それに……私、自分がやりたい事ばっかで恋愛とか不向きなタイプです、きっと」

彼女の故郷の厳しい現状については勿論把握していた。そして彼女の責任感も。それを理由に断られてしまうと正直な所、打つ手は無い。

それでも、運命の二人ならば乗り越えられる筈だと俺は信じているし、きっと彼女もそう思っていると心のどこかで信じていたのだ。

「そうか……。でも、俺は君の側に居ると安らぎを感じるんだ。……一度断られた身で願うのは傲慢かもしれないが、今後もこうして君と二人で過ごすのを……許してはくれないか?」

今はタイミングが合わなかっただけなのだ。
彼女が俺を必要とする時が来るまで、再度、時期を見計らう必要がある。

「よかった。気不味いと思われて話せなくなったら嫌だな、って思ってたんです。クリプト先輩より話が合う人なんていませんから」

春の陽射しの様な、暖かい微笑みを彼女は浮かべる。その顔に思わず、ホッとした。
俺達は結ばれる運命にあるが、それでも彼女に少しでも嫌悪感を抱かれていたら一生立ち直れないだろう。

「そうか、ホッとしたよ。これからもよろしく頼む。……さ、折角の紅茶が冷める。頂こう」
「そうですね!ふふ、今日買って来てくれたタルト、雑誌で見てからずっと食べてみたかったんですよ」

嬉しそうにタルトを口に運ぶ彼女の姿は、どこかあどけなく思え、益々愛おしさが募る。
俺はずっと、この幸せそうな顔を、横で見ていたいだけなのだ。

何より、俺以外の奴が彼女を此処まで幸せに出来る筈がない。

だからこそ、彼女は俺の運命の女性に違いないのだ。

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カド