2021/05/28

苺色のテーブル

プト夢
いちゃいちゃしてるだけのオチのない日常話

* * *

テーブルの真向かいに座るテジュンが、フォークで苺を突き刺した。
そのまま大きな一口で苺を収めると、テジュンの皿にあったケーキは綺麗に無くなる。

「美味しかった?」
「ああ」
「私もここのケーキ大好き!また買ってくるね」
「それは楽しみだな」

普段から複雑な作業ばかりして脳味噌を働かせているからか、テジュンは意外と甘い物が好きだった。紅茶を勧めても、必ずブラックコーヒーとセットだけれど。

「あ!ねぇ、口の側にクリーム着いてる」

彼の厚い唇の側に、わずかながら白いクリームが付着していた。テーブルを挟んでいるので私が拭うのは少しばかり無理がある。
届かぬ指を最大限に伸ばして「ここ」と位置を教えるが彼は動こうとはしない。

「取ってくれないか」

そう言うテジュンの顔は楽しそうで、控えめに口の端を吊り上げていた。
決まってこういう時のテジュンは私が希望を叶えるまで楽しげにニヤニヤ笑うだけで、自ら解決しようとはしない。

椅子ごと彼の座席に近付いてから、口元のクリームを指先で拭おうとすると彼は目を軽く閉じた。それが褒美を待つ子供の様で可愛く思える。年上の男性に持つ感想ではないかもしれないけれど。

そっと人差し指で拭い、付着したクリームを私の口に運ぶ。

「綺麗になったか?」
「うん。ごちそうさまでした」

茶化すように言うと、頭を優しく撫でられた。大きくて、金属片が付いた彼だけが持つ特徴的な手が好きで、自然と目蓋が降りてくる。なんだか、安心する体温なのだ。

目を閉じていても、すぐ近くに居る彼の気配は分かる。
私の前髪と彼の前髪が混ざり合う感覚に擽ったさを覚える。鼻先にちょんと触れるのはきっと、彼の鼻先に違いない。
彼を少しでも多く感じたくて自然にスリスリと顔を猫の様に擦り付ける。もしかしたら化粧が落ちてしまうかも知れないけれど、そんな心配よりも今を堪能したかった。

私の動く顎をテジュンが掬い上げる。近くにあった体温は離れるとクスリと笑った。

「顔、真っ赤だ」
「……そういうのはいいから」
「もう一度目を閉じてくれ」

彼の言葉通りに目を瞑るとそっと柔らかい感触が目蓋に、鼻に、最後に唇に降りてくる。
顎に掛けられていた手が私の頬を包み込む。
目蓋をゆっくりと開けると、彼の黒褐色の瞳が私の顔を覗き込んでいた。

「ご馳走様」

満足気に笑うテジュンに何も言えなくなる。
照れくさいのと、言葉にし難い温かい何かで胸が詰まったからだ。

「……うん」

なんとか目を逸らし言葉を絞り出すと、揶揄う様に彼は笑った。

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カド