ラン・アウェイ・フロム・マイ・ライフ[1/4]


 



不況なんか不況なんか嫌いだ

今まさに終わらんとする夏休みを前に私の心は一足早く朽ち果てる枯れ葉のようにしおれきっていた。

私の名前は萩原彰道と言うことにしておく。

とてもではないが本名をお知らせできないサブカルチャー的な世界に身を浸すオタクである。

さらに言えば表紙を見せるだけで警察に厳重注意されかねないうっすいペーパーバックを自費出版しており、その細々とした売上全てを全国各地の戦場で散財してご先祖様には見せれない笑みを浮かべている腐女子である。

私は今まさにその戦地から、辛勝に等しい戦果と共に車で帰宅しているところだった。

地方でのイベントは不景気の煽りを受けて空席が目立ち、新刊も余りなく、参加者の財布の紐も硬い散々な有様だった。

一つ前に参加した大イベントでは精々少し空いてて買い物がしやすい、といった程度だったが地方は露骨に景気が悪い。

大イベントでの大散財の補填のためにスペースが安い地方イベントに片っ端から申し込んだが、この調子だと諸経費差っ引いて一回に数千円しか利益が出ない計算になる。

幸いレイヤーさん方の送迎バイトやどさ回り用に受けた委託本販売があるので赤字にはならないだろう。

売れ残った在庫本と余り実りなかった戦利品が仲良く同居する段ボールが助手席で揺れている。

後部座席では駅で別れたレイヤーさんから預かったコスや小道具が衣服が立てるべきではない不協和音を奏でている。

可能な限り検問には引っ掛かりたくない積み荷である。

しかしお駄賃をいただいた以上はしっかりお運びせねばならんと思う程度には真面目なので、錨槍のレプリカがシートにうっすら傷を付けても涙を飲んで我慢した。

早くアパートに帰ろう。

もう数時間車を飛ばし高速を走っているのだ、あと少し走れば愛しいPS3と戦国BASARA3をプレイできるスペシャルな時間が待っているのだと自分自身を鼓舞する。

例え残り少ない夏休みと言えどゲームだけに時間を費やせばその充実感の密度は指数的に跳ね上がる。

明るい明日を夢見て疲労感を押してハンドルを握り直しカーブを曲がる。

だが、その悲劇は避けようがない罠を仕掛けて私を襲った。


がんっ


フロントガラス越しには何も見えなかったが、感じたこともない衝撃が車体を襲った。


「え」


何かをはねたわけではなく、何かをタイヤで轢いたのだと判断できたのは短いながらに車を運転してきた経験則だった。

まれに目に見えにくい強化プラスチックなどのゴミなどが路上に散乱していることがあるが、今の衝撃はそれを踏んだ時の感覚に似ていた。

だが衝撃の大きさが違いすぎた。

車体が瞬時に右に傾ぎ、ぐにゃぐにゃとした感覚がハンドルから伝わり、フロントシャフトとサスが金属の金切声をあげる。

浮かれた頭から一気に血の気が引いた。

よりにもよって、高速走行中の4WDではない軽自動車の右前輪がパンクしたのだ。

パワーアシストされているはずのハンドルがとられ、咄嗟に踏んだブレーキも感覚がおかしくなっていた。

一秒単位で絶望に向かって時間が進む。

もう一度とどめをさすような衝撃が走った時、フロントガラスに映ったのは、カーブの前方で横転したトラックと、荷台からぶちまけられた積み荷とそれに足を取られて次々に止まる車の姿。

そして道一杯にザラメのように落ちている透明な尖った落下物。

ブレーキの意味さえなく、地雷原に車が突っ込むのと、コントロールを失った車がカーブで横転するのを、私はぼんやりした加速した思考で眺めているしかなかった。

走馬灯として浮かんだのは家族の顔でもなんでもなくBASARAの武将達であったことは、本当に墓まで持って行く秘密となってしまった。




萩原彰道、死亡。



 


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