1.君と話したい!

僕たちの鎮守府に加賀さんがやってきた。
随分待ちわびていた彼女が、やっときたのだ。
彼女は正規空母という艦種の中でも最高峰の能力を持っている。すでに鎮守府には赤城さんや瑞鶴らも居るが、彼女が加われば、戦力はもっと向上する。彼女を迎えるために、提督に成りたての鎮守府で何回資源を枯渇させたか…


今回、僕の願いが叶ってやっと、彼女がやってきたわけだ。


…だけど、彼女は僕とは一切口を聞こうとしないし、仲良くなる気もないようだった。

彼女のことは提督になった時から知っていたし、追い求めていたので、彼女の性格は自分ではよーく、わかっているつもりだ。彼女が一人でいることを好んでいるのもわかっているつもりだった。
でもだからといって、ろくに話もできない状態で出撃なんてしたら、いくら強い彼女でも、作戦がうまく伝わらずに大敗することは確実だろう。

だから僕はどうしても彼女とコミュニケーションを取りたいと願った−−。


−−−−−−−−−−−−−−−

「加賀さん加賀さん!次の出撃のことなんだけど!」
「新しい艦攻を加賀さんに乗せてあげたいと思って…!」
「艦載機の調子はどう?」

加賀さんとコミュニケーションを取れるようにするために、
僕はまず、執拗に彼女に話しかける作戦をとった。

「加賀さん加賀さん…………」
「・・・・・・。」

しかし僕の努力も虚しく、彼女は口を固く閉ざしたままだった。

「提督もあきないなー!堅物さんは置いておいて、私と飲もう!!」
「ごめん、隼鷹、今はそっとしておいてくれ…。」

彼女の完全無視に落ち込まされて精神がズタボロになった僕は、この後ほぼ1週間塞ぎ込んでいた。



次に僕は、加賀さんと仲のいい、赤城さんに相談することにした。

「赤城さん、加賀さんとコミュニケーションを取れるようになりたいんだけど、どうしたらいいかな。」

「ひゃひゃはんふぉ、へふっへ?(加賀さんと、ですって?)」

赤城さんは何かを口に含みながら、こっちに睨んでいるかのような目を向けて言った。ただ、ハムスターのように頬を膨らませる今の彼女に睨まれても、何か癒しを感じるだけだ。


「へいほく、ひゃひゃさんほなひゃほくなほうっへひふのへふか?
(提督、加賀さんと仲良くなろうっていうのですか?)

はのじょ、ひむむひゃひいひゃら…
(彼女、気難しいから…)

は!ひょふだ!ほんほふぁはひはひっひょにふひへひっへはへはひょうか?
(あ!そうだ!今度私が一緒についていってあげましょうか?)」



………………。

何やら彼女が僕が加賀さんと仲良くなるのには好意的であるようだが、
僕には彼女が何を言ってるのか皆目検討もつかなかった。


もしかしたら、何か手伝ってくれる風なことを言ってくれているのかもしれないが、彼女と何かしようとすると必ず良くないことが起こってしまう事を思い出した(うちの鎮守府の赤城さんはドジっ子なのである)


自分から助けを求めておいて失礼極まりないが、謎の言葉を発しながら食べ物をほおぼる彼女を置き去りにして、僕はそっと部屋を出た。



困り果てた僕が最後にとった行動は、彼女を出撃させないというものだった。

これには僕としても如何なものかと思ったが、コミュニケーションがとれないまま戦闘に出るより遥かに安全策といえた。



彼女を出陣させないようにしてからは、彼女の様子はあきらかに変わった。

流石に彼女の性格からして、プライドが許さないのだろうか、何度か僕の方を睨んでいるような仕草が増えた。(と言っても、表情は変わらないが)

僕は彼女が動くまで待つことにした。



彼女の出陣をさせないようにしてから3日が経ったとき、彼女は提督室へやってきた。3日と聞くと早いような気もするが、彼女にとってはやはり苦痛だったのだろう。

「……な……」
「え?」
「……なぜ、私を連れて行かないのですか。」

彼女は消え入りそうな声でしかしいつもと変わらない淡々とした声で話したが、それが何処か寂しげにも見えた。
そして、いつもは崩すことのないその表情を崩し、彼女は唇を少し噛み締めて言った。

「私は……私は必要なくなったのですか?」

やってしまったと思った。あぁ、僕が素直に話していればこんな勘違いも起こらなかっただろうに…
気が付くと僕は彼女の両肩に手を置いて、「そうじゃない!」と叫んでいた。
彼女は驚いた様子で目を見開いて顔を上げた。
「そんなことあるわけないじゃないか!僕があなたを手に入れるのにどれほど苦労したか!
だけどいざ君を運用するとなると、話をすることもできなくて……!!」

腹の底から今までの気持ちがこみ上げてきた。声も震えていた気がする。

「この鎮守府には加賀さんの戦力が必要だ!でも!これからはさらなる強敵も出てくるだろうし、今まで以上に大変になるだろう!だから!僕は君とちゃんと話しておきたかった…!

…………僕は君とちゃんと話しがしたかったんだ!!」



僕は今までの気持ちを全て吐き出した。言えるのなら最初から言えばよかったじゃないか、僕の意気地なし。加賀さんはいつもの顔色で僕の顔を見つめていた。

「………それは、」
「?」
「……それは、戦闘を有利にするためだけのものですか?」

加賀さんの質問が頭の中を駆け巡った。僕は戦闘の為だけに、加賀さんと仲良くなったんだろうか。
純粋に加賀さんと話したかったのではないか。仲良くなりたかったのではないか。
…本当は、加賀さんのことが好きなのではないかーー。

そう思った時、僕は顔が熱くなるのを感じた。

「………提督?」
「あっ、そのっ」

急に呂律が回らなくなったことに、更に顔が熱くなる。

「………提督、私はあなたとお話ししたかったです。たとえ、あなたが提督じゃなくても」

早口だったが、彼女の声ははっきりと耳に届いた。

え、それってどういう意味だろう。
心臓の音がうるさくなる。



しかし、彼女はそれだけ告げると、提督の部屋から出て行ってしまった。

去り際の彼女は何処か微笑んでいるようにも見えたが、気のせいだったかもしれない。








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