7月8日15時38分
やばい、やっぱマジで超かっこいい。
大袈裟じゃなく氷水みたいに冷たい海の中をぷかぷかと漂いながら、あたしは先生の目を盗みつつ、ずっと向こうで同じく海に入っている集団を眺めていた。あたしらの学校の、隣の小学校から来たというその集団は(臨海学校は市の所有物って話で、今回は市内の小学校がうちを含めて三校、おんなじ日程で旅行に来ている)、学年全員を掻き集めてもせいぜい二十人いるかいないかといった感じで、百人超えの大所帯であるうちの学校とはまるで規模が違う。全部で十個の班ごとにわかれて水泳をしているこっち側に対し、あっちはみんな一つにまとまってささやかに水しぶきなんかあげちゃったりしていた。
なのに、あんなちっちゃい学校なのに、うちの男子が全員束になったところで一勝もできないようなイケメンが一人、いる。超ずるい。
名前は和真クン。ついさっき海に入る前に、和真クンと同小の女子から聞き出した。
和真クンは入校式の時、臨海学校の校歌を歌う場面で伴奏を担当していた。男子が! 伴奏! うちの学校にもピアノを習ってる男子はゼロじゃないけど、表立って伴奏をやるなんてことは今んとこ一切ない。そういうのは絶対女子だ。あたしもそれが当たり前だと思ってたから、男子が伴奏をするってだけで充分衝撃だったけど、その上演奏もめっちゃうまくて姿勢もきれいで顔がかっこいいなんてきちゃったもんだから、もう心臓をぎゅううううっと掴まれてしまった。ほんとに、張り巡らされた血管に締めつけられるみたいに胸が痛くなって、でもそれが全然いやじゃなかったんだから、まったく不思議だった。
波が寄せたり引いたりするたび、素足に絡む砂粒も行ったり来たりしているのがわかる。曇り空の下の日本海は微妙に荒れ気味で、冷えきった海水が時々口に入ったりなんかするとものすごくしょっぱかった。浜にはしなびたわかめが大量に打ち上げられている。
今日の海でのプログラムは「貝を拾うこと」らしい。あたしの班のみんなも、「つめてー!」なんて絶叫しながら海に顔をつけて貝を探している。海中では基本、バディで行動することになってるんだけど、あたしのバディである隣のクラスの千代ちゃんは臨海学校の坂道で転んじゃったそうで、この三日間、急遽海には入れなくなってしまった。残念。そしてつまんない。みんなに紛れて貝を拾うふりをしながら、あたしはもう一度和真クンの方に目をやった。背が高くてお坊っちゃんっぽい独特の雰囲気だからすぐに見つかる。にやにやとゆるみそうになるほっぺたを必死に引き締めて、あたしはざぶんと黒っぽい海にもぐった。
和真クンの小学校はうちと同じ町内にある。町に中学は一校しかないから、あたしは少なくとも三年間、和真クンと一緒の学校に通えるはずだ(向こうが受験とかしない限り。でもうちの町には「中学受験」という文化なんかないに等しく、どんだけ頭がいい子でも普通に公立に進むので、たぶん大丈夫なはずだ)。そう思うと、自然とテンションは上がる。爆上げだ。マジでうれしい。でもきっと、いや絶対ライバルはたくさんいる。ぼうっとしてないでがんがんアタックしなきゃ、他の女子に盗られるに決まってるんだ。そんなの死んでもやだ。
ああああっ。もう! もどかしいったらない。とにかく早く、中学生になりたい。
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