少女の空想の果て
かつては朗らかな笑いが絶えなかったその屋敷は今ではその面影なく少女のすべてを血に染め、不吉な笑いがこだまする。
違うんだ、そんなつもりじゃなかった、本当だよ、そんな空虚に満ち足りた言葉はもう聞き飽きた。
懐かしい友人との再会は思っていたほど心弾むものではなく、まざまざと自分との違いを見せられているようで永遠と刃が心を抉りとるようだった。
果たしてそれは嘘だったのだろうか、何が本当だったのか永遠に答えの出ないその問いの正解を知っている貴方はもういない。
偶然のいたずらがもたらしたその悲劇は、偽りの仮面を張り付け腹を漆黒に染めて談笑する者たちの尊厳を躊躇なく踏みにじった。
あの冬の寒い日、ショーウィンドウに飾られていた純白のドレスを見て頬を染めていた少女は、この夏の暑い日、血塗られた真紅のドレスを纏ってにこりと悪魔のように微笑んだ。
とうの昔に朽ち果てるはずだったあの夢を必死に追いかけていた少女時代の甘くほろ苦い想い出を懐かしむのは今日で最期にしましょう。
鳥のような自由を語るその巨大な妄想に男は共感し、操り人形となって一緒に策略と陰謀の渦巻く劇を用意した。
星の神隠し
物理法則をすべて無視するこの空間に一度足を踏み入れれば二度と戻ることは出来ないというのになぜここに来ることを望んでしまったんだろうね。
宝石色した玉手箱の中には何が入っているのか知りたい気持ちは分かるけど、きっと後悔するからやめておいた方がいいと思うよ。
無数の星が流れるその景色に綺麗だねと一つの星を指さして祈りを捧げていた友はその日を境に誰も姿を見なくなった。
君が手に入れたものと引き換えに失った物を指折り数えようとすれば果たしてその両手の指で足りるのか疑問だね。
夢などないさと自嘲気味に笑んだ君がまばゆいばかりのあの舞台にたって満面の笑みを浮かべていることをあのとき微塵でも想像出来ただろうか。
霧の奥底で眠るのは悪魔が手招く呪われた未来かそれとも君がここに来るまでに手放していった取り返せない過去かどちらだろう。
きっと君は僕の告げた途方もない夢物語をずっと死ぬまで信じていてくれると思っているよ、だって永遠を約束したものね。
昔から自分にだけ見えるあの鏡の向こう側にうつる赤色の星空は何だろうと思っていたが、いま目の前に広がる空間を見てああこれだったのかと悟ることが出来た。
月光だけがみた真実
青白い月の光がてらしだした君のやせた横顔には、幼いあの日に語っていた希望の光は消え失せその欠片も見ることは出来なかった。
今では手の届かない幻想に思いを馳せて今日も月の下でウォッカを飲みながら千鳥足で空虚な虚像の世界へと足を踏み入れる。
光が届くことのない純粋無垢な黒檀の瞳を向けられた大人は問いかけられた質問に一体なんと答えればよかったのでしょうか。
あの月が見えなくなった日に罪を侵した貴方にわたしの気持ちは永遠にわかるはずがないってことぐらい知っているでしょう。
月の下で音を立ててはしる列車に乗った少年が辿り着くべき場所はどこなのか誰にも分かるわけがなくただ亡霊は彷徨うしかなかった。
新月のあの夜に湖水に辿り着いた少年はその日から満月になるまで毎日その場所へ足を運んで神が住むといわれる月に懺悔し続けた。
まだ美しいものを見て動く心があったのかと自分でも驚くほど彼の日常は灰色の疑心で塗りつぶされていた。
どんなにその月の光から逃げようとしても侵した罪は君を追いかけ続け贖いの夜は必ずやって来る。
復讐を太陽へ捧ぐ
老婆が語った理の連鎖は途切れることなく永遠に未来の人を苦しめ続ける。
あのとき異様な黒い光を放つ太陽を背にして現れた君はいつものように笑って手を差し伸べたが、その手をとることに違和感を覚えた第六感は正しかったと言えるね。
憎しみに支配された自分ではもう呼び慣れたその名を口にすることはできず、ただ太陽に向かって吠え続けそしてその叫びが君を切り裂くのも時間の問題。
混沌と恐怖に満ちあふれたこの世界に果たして救いの神が現れると本気で思っているの。
嫉妬と憤怒の連鎖が続く限りこの世界は止まることなくひたすら贖いを求めこの大地を彷徨い続けるのだろう。
生き延びる糧として復讐の道を選んだことを後悔し涙したことは本当にないと断言できるのかい。
君の握るグラスにほんの少しの毒を盛ったけれど、そのことを容易く看破した君は凄絶な笑みを浮かべて一気に飲み干した。
失われた物は果たしてどんな大きさだっただろうかと悩むものの、もはやばらまかれた罠に気づく余地はなくそして君の世界は変わっていった。
人形世界の彩り
別々の道をがむしゃらに歩んでいた二人の世界は本来交わるはずはなかったのに、偶然のいたずらが重なった結果違う運命を導き出したのである。
きらきらと輝く無色透明な石ころに価値を見出して磨いてあげたのは一体誰だと思っているの。
逃げようと引かれた手に連れられて鳥籠の中から出てきたことを後悔したことは一度だってないし、そしてこれからだって一生変わらない。
行くあてなどどこにもなく、どうせどこに行っても同じことなのに逃げられると本気で思っていたのですか。
逃避行の末に辿り着いたその先に見えるものは希望の光かそれとも絶望の光か、はてさてもしどちらか選べるとしたらどちらを選ぶのだろうね。
感情を持たない綺麗なお人形に必死に話しかけることを滑稽だと思ったことは一度だってありはしないよ。
急に世界を壊して語りかけてきた君の言葉の意味がよく分からなかったけれど、無垢に笑ったその顔を見たとき動くことのなかった心がどくんと音をたてた。
幸せそうな顔をしているくせにもう決して目を開くことのないその姿を見てこんな結末を迎えるなら会わなければよかったと掃き溜めに向かって絶叫した。
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