STORY TITLE
かなり長めの文章のひとかたまり。
創作の書き出しに使用してもらっても一部を切り取って使用していただいても煮るなり焼くなりどうぞ。
偽りの希望を描き終えた場所が始発点。ここは人類すべての始まりと終わりの場所だった。
何も知らされなかった子どもの頃の記憶は、淡い乳白色の結晶となり少し大人になった自分へと降り注ぐ。一瞬だけきらめいたその輝きは、瞬く間に消え果てて己の過去をすべてを消し去っていく。
その記憶をかき消されないために子どもだった頃の少女はただ一生懸命に走り、己の無力さと不甲斐なさを噛み締めながら、夜明けが永遠に来ない夜空に向かって大きな声をあげて泣き叫んだ。
ひとしきり泣き叫んだ後、手のひらからこぼれ落ちていった無数の記憶の欠片を拾い集めようとするが拾ったそばから崩れ落ちていき、そしてあのとき幸せだったと悟ったのは手のひらからすべてこぼれ落ちたあとのことだった。
どんよりと曇った冬の空から降る雨は、行く手をさえぎり視界を真っ黒に塗りつぶしていった。
冷たいその雨は少女の身体に突き刺さりどこまでも追いつめていく。地獄から地獄へと移るその戦いの嵐は、真っ赤な血と純白の涙に濡れて銃声が響く先に光は戻らずその物体はただぐずぐずに朽ち果てるのみ。
無数の命が流れる様を傍観者として見つめていた亡霊はようやく出番が来たかと戦場を彷徨いはじめ、その足音に死神は呼び寄せられる。何も知らない少女は己の言動が終幕となることも知らず、花が咲き乱れていたかつての始まりに辿り着くと誰も開くことの出来ない門を羽にふれるようにそっと開いた。
その先にあるのは果たして破滅への序章か、人類の進化か。そうして少女の旅の最後の幕があがった。
放浪の先に見えたのはつかの間の安息。漆黒の闇から伸びた手は少女の首にゆるく手をかけ、決してその手を離すことはない。
命を握られたまま目指した先に広がるのは純白の雪原だったが、少女が足を踏み入れた途端その場所は焦土となりはてる。真紅に縁取られた炎が一瞬で舞い上がり、昨日までそこにあった平穏をすべて消し去って焼き尽くしていく。
逃げ惑う人々に向かって泣きながらそんなつもりじゃなかったのと呟くものの、その言葉が聞こえることはなく死神は躊躇なく引きちぎっていった。
行くあてなどとうになく、ただ己を受け入れてくれる場所が欲しかっただけなのに。こうして少女の願いは永遠に叶うことなく、よどみ流れる時間に身を委ね次の目的地へと歩を進めるしかなかった。
星が流れると願いが叶うんだよと優しい声で囁いた己と同じ境遇だった老人はその運命を少女にすべてかぶせて地獄へ安らかに吸い込まれていった。初恋だったその心を裏切りという冷たい刃でずたずたに切り裂かれた結果、残ったものは猜疑心と孤独だけ。
かつて青く透き通っていた湖面は血と硝煙に覆われて、湖面を覗き込んだ少女のつくられた笑顔を映しだすことはなかった。それでよかったのかもしれないと長くため息を吐いたあと、傍らに眠る老人に冷たく目を向けて踵を返す。
もう二度と振り返ることはない、ぬくもりなんて求めるものか、出会わなければよかった、奥底にひそんだ想いに蓋をしてその残り香に終止符を打つ。この記憶が少女の運命の折り返し地点、旅の始まりをしめしていた。
偽りの妄想に塗り固められた孤独な少女が瞬きした瞬間にうつった惨劇の雨は何色だったのだろうか。かつて一番のお気に入りだった母がよく差す紅の色は今ではもう顔を歪めるほどに見飽きた色となり、体の表裏を這いずり回って片時も離れることはない。
とうの昔に記憶の中に封じ込めたはずのあの夏の日の暖かさは未だに忘れることが出来ず、ふとした拍子に心の中で甦り、開け放たれた扉から覗く木漏れ日の柔らかな光と子守歌を口ずさみながら撫でてくれた優しげな手に酔いしれた日を鮮やかに思い起こさせるが、もうあの日には戻れないことは知っていた。
この前に進むことしか出来ないトンネルの終わりには何がみえるのだろうかと、未来の自分に向けて遠慮気味に問いかけてみるものの白い闇から伸びる手はその問いを嘲笑うかのように少女を瞬く間に捕らえ、離すことなく次の地獄へと誘うのであった。


Template by MEER Material by Suiren
戻る表紙