※死に関する表現あり※

 幾度となく重ねた体。
 その度に、俺の下で、彼女が何かを求める様に腕を伸ばす。俺はその腕を自分の首に巻き付け、押し付ける様に唇を重ねた。
 どんなに求めても足りなくて。彼女は逃げる様に。俺は、駆り立てられる様に。互いの身体を喰い漁り、蝕んでいく。

「夕……」

 彼女が苦しそうに俺の名を呼んだ。その瞳に俺は映っているのだろうか。
 最後に残ったのは、快楽と、疲労と。虚無感――




 彼女が眠りについた後、俺は彼女の額に唇を落とした。
 すると、その大きな瞳がゆっくりと気怠そうに開かれる。

「わりぃ、起こしちまった」

 俺の言葉に彼女は弱弱しく首を横に振り、儚げに笑う。その笑顔に胸の奥がちくりと痛んだ。

「俺も寝るわ」

 まるでその痛みから逃げるかのように、横になり、瞳を閉じる。
 すると、彼女からぽつりと零された一言。

「ごめんね」

 僅かに鼓膜を揺らすような、そんな弱弱しく発せられたその言葉を、聞こえない振りができるほど強くはなれなくて。

「なんで、お前が謝るんだよ」

 聞かなくてもわかっているくせに乱暴に答えた。
 謝らなければならないのはどちらだろうか。握った拳はいつだって無力で、噛んだ唇はいつだって上手く動いた試しがなかった。
 すると隣で彼女が息を殺して泣いているのが分かった。
 その姿は飽きるほど見てきたのに痛みはいつだって新鮮だ。
 彼女を引き寄せ、きつく抱きしめる。
 そして、今にもあいつを追いかけ消え入りそうな彼女の華奢な腕を握り、祈りにも似た言葉を吐くのだ。

「ナマエ、愛してるぜ」

 そうだ、この気持ちはずっと変わらない。お前があいつを好きになる前から。そして、お前があいつと結ばれた後でさえも。
 痛みなら、ずっと昔から抱えてきた。
 それでも、この気持ちは変わらなかった。そして、これからだってきっと、一生かけたって変わらない。

『俺が、代わりになってやるよ』

 あの日、いつまでも泣きながら過去を求める彼女にそう言った。今その手を掴まなければ、彼女もこのまま消えてしまうのではないかと思ったからだ。
 そして、悲しそうに首を横に振る彼女を、無理やり、自分のものにした。
 その日から俺は決めたんだ。
 彼女の覚めない夢を喰い漁り、蝕んで、共に堕ちていこうと。
 例え、その瞳に俺が映ることがなかったとしても。
 それでも、俺は――

『ナマエ、愛してるぜ』


夢喰い