※注意※
※チャラい及川と冷たい夢主※

 及川と付き合って1週間が経った。
 2人並んで歩く帰り道で、相変わらず女生徒に名前を呼ばれてはにこやかに手を振る及川に
「彼女いるのにそういうことしちゃうんだー」
 と私は唇を尖らせた。
「まぁみんなの及川さん的な所があるからね」
 及川はうっとりと自分の額に手を当て罪深そうに言う。
「俺は俺が一人なのが残念で仕方ないよ。俺がいっぱいいたら世界中の女の子を幸せに出来るのに」
 一気に全身の力が抜ける。
「馬鹿なの?」
 自分でも驚くほど冷たく響いた言葉に及川はけろりと笑った。
「でも実際そうじゃん」
 私は前に向き直り、思わずため息を溢した。
「やっぱ無理かも……」
「え? 何が?」
「及川と付き合うの」
「え? なんでよ」
 及川が驚いたように声を上げる。
「最初からわかってたことだけど、いざ経験すると流石に辛い」
「え? 何が? さっきから全然話が読めないんだけど」
 この人は本気でそう言っているのだろうか。
「じゃあもし私が他の男に、私がもう一人いたら貴方と付き合ってたのにって言ってたらどうする?」
「はぁ? そんなのどうするも何もナマエちゃんが一人だろうと二人だろうとナマエちゃんはみんな俺のものだよ」
「何そのジャ◯アン的発想」
 もう一度大きなため息が溢れた。すると、そんな私の手を及川はぎゅっと握る。
「え?」
 見上げれば、その笑顔は眩しいくらいに無邪気で。
「俺はこんなにナマエちゃんのこと好きなのに、何が問題なの?」
 この既視感。だめだ。騙されちゃいけない。確か告白された時もこんな会話をしたような気がする。
「でも、それと同じくらい他の女の子のことも好きなんでしょ?」
「だからさっきから何言ってんの? そんなことないない。好きな人はナマエちゃんだけ」
「さっき言ってたことと違う……」
「さっき?」
「世界中の女の子と付き合いたいってやつ」
「あぁ、あれね。それはね、付き合いたいってわけじゃなくて、俺がいっぱいいたらそうやって世界が平和になるのになってだけ。実際は一人しかいないんだから俺はナマエちゃんのものでしょ? 分かる?」
「うーん、分からないけど、とりあえず、及川のすごい自惚れっぷりは理解できた」
「できれば俺がどんなにナマエちゃんが好きなのかを分かって欲しかったんだけど……」
 及川は困ったように笑い頬をかく。
「ナマエちゃんも俺のこと好きなんでしょ?」
 私は未だ納得できないままであったが、そう聞かれると頷くしかない。
「俺もナマエちゃんが好き。じゃあ問題ないよね」
 問題ないのだろうか。
 及川は嬉しそうに笑う。

 この時の私はまだ知らない。
 こういうやり取りをこれからも何度も交わし、挙句付き合っては別れ、付き合っては別れということ繰り返しながら結局その足でアルゼンチンの地を踏むことになることを。