※盗撮などの犯罪となる行為の描写があります。それらの行為を容認、推奨する意図はありません。フィクションとしてお楽しみください※


「これ、北さんに怒られてる双子」
 倫くんがスマートフォンを見せながら言った。
 
 夏も終わり、肌寒くなってきた頃。私たちはバス停で互いの熱を分け与えるかの様にくっつきバスを待っていた。木枯らしが吹くと、より一層体を密着させて二人して肩を上げる。互いに互いの同じ動作を感じて、その度に飽きもせず「寒いね」と顔を見合わせた。
 バスが来るまでの間、私たちは顔を寄せて、倫くんのスマートフォンで倫くんが撮影した写真を振り返っていた。倫くんは画面を指でスライドさせながら写真を次々と表示し、その時のことを話す。
「これは落書きされてる昼寝中の侑。そしてこれが落書きの完成図」
 相変わらず倫くんは無表情だけど、声の調子からして楽しそうなのが伝わってくる。私もこうやって倫くんが撮った写真を見るのは離れている間の時間を共有しているみたいで楽しかった。
「これはまた乱闘中の双子」
「頻繁に乱闘が起こるバレー部って」
「やばいよね」
 倫くんは次の写真に移ろうとして画面をスライドさせる。そして、「あっ」と声を上げた。続いて私も「あ!」と声を重ねる。倫くんがすぐに前に表示していた写真に戻すが
「また隠し撮りしてる!」
 私はばっちりとその写真を見てしまった。倫くんのスマートフォンを持つ手を引き寄せ、指でスワイプさせて先程表示させた写真に戻す。私が友達と話している姿が画面に映っていた。
「いつの間に撮ったの。しかもこれ変な顔してるし」
「可愛いよ」
「可愛くないよ」
 もう一回スワイプすると、今度は私が階段を登ってる姿を下から撮っている写真が現れる。
「なにこの写真!」
 私は慌ててゴミ箱マークに指を伸ばすが
「ちょっだめ」
 倫くんがスマートフォンを私から引き離した。両手で隠す様に持ち私から遠ざける。
「人の写真勝手に消そうとするとか信じられないんだけど」
「いや、それ私の写真だから」
 私は倫くんのスマートフォンに手を伸ばすが、倫くんが片手に持ち替えその腕を高く伸ばす。倫くんの必殺技だ。こんな風にされたら届くはずがない。背伸びをして、時にはジャンプしながら必死に手を伸ばす私を倫くんはただただ見下ろすだけだった。
「別にいいじゃん。俺が一人で見るだけなんだし」
「そう言う問題じゃない」
「じゃあどう言う問題?」
「なんか……恥ずかしい」
「もっと恥ずかし姿俺に見せてるじゃん」
 倫くんがふっと笑う。
 何想像してるの! そう言う笑顔いらない!
「とにかくだめ! 消して!」
 私が頬を膨らませると倫くんは「わかったよ」とスマートフォンを差し出す。私は例の二枚の写真を削除し、また新たに現れた私の写真も削除した。するとまた私の隠し撮り写真が出てきたので
「何枚撮ってるの。全部消しちゃうからね」
 と、削除ボタンを押し続ける。
「別にいいよ。ちゃんとバックアップとってるから」
 私は手を止め視線を画面から倫くんに移す。倫くんはいつもの感情のない表情で口を開いた。
「パソコンとハードディスクとクラウドの三つ」
 この後私は真顔の倫くん”の”両頬をめいっぱい引っ張った。
「厳密に言うと、クラウドサービス三つ使ってるからバックアップの数は五つね」
 もう一度めいっぱい引っ張った。