※R15、軽度の性描写を含みます※

 深い湖の底にある泥にでも溶けてしまった気分でいたら、体を揺さぶられた。
「ナマエさん、起きて」
「んー……」
 背中からかかる工くんの声。とりあえず返事はしてみたものの、意識はまだ泥の中。遠くでチュンチュン鳥の鳴く声が聞こえたような気がした。
「起きてくださいよー」
「あとちょっと……」
「それさっきからずっと言ってますよ」
 不満そうな声色が返ってくる。
 そうだったかな。今初めて起きた気がするんだけど。
「今、何時?」
「もう、十時です!」
 えー。まだ、十時じゃーん。全然寝てていい時間じゃーん、と思っていると、シャアっと勢いよくカーテンの開く音がして、瞼の裏が白くなる。やめてっと目を手で覆った。
 なんで工くんは、朝からこんなに元気なんだろう。社会人の私よりも忙しくしているはずなのに。平日は、大学の講義と練習。土日は、試合。
 若さか。若さなのか。二つ歳が違うだけでこんなにも差が出るものなのか。
「起きてくださいよ。せっかく今日、ナマエさんと休みが被ったのに……」
「そうなんだけど……」
 と、言いつつも、工くんに背を向け手で守られた目は瞑ったまま。
 きっと、ほっぺたパンパンに膨らませて拗ねているんだろうなぁとリスになった工くんを想像していると、再び体を揺さぶられた。
 社会人になりたての頃は、私も工くんと休みが被った日は、飛び起きていた。休みの日が毎週、固定して土日という私と違って、工くんの休みの日は不定期。こうして休みが被るという日はなかなか貴重だからだ。工くんと一日中一緒にいられるこの一日を無駄にしてなるものか、というモチベーションだけで起きれていた。
 けれど、最近は仕事が忙しく。朝は毎日眠く。今日も瞼は重い。ふぁー、っと大きなあくびをすると、閉じていた目から涙が染み出る。
「お昼には起きるから……」
「もう、お昼になっちゃいます!」
「まだならないよ……」
 そう言って朝の光から逃げるべく布団に潜ると、もー、と拗ねた声が聞こえてきた。
 可愛いなぁ。でもごめんね、と口に出したのか出していないのか、よく分からないまま再び泥の中に沈んでいく。
「起きてって」
 後ろでベッドが沈む気配がして、工くんも寝るのかな? と思っていたら、後ろからお腹に腕が周り、体が後ろに引っ張られていった。背中が工くんの体に密着すると、暖かくて、心地がよくて、そのままいい気持ちで安心して泥に溶けていく。
「もー……ナマエさんのばか」
 バカでもなんでもいいです。とぼんやりとした頭の中で返すと、腕に回されていた手がもぞもぞと服の下に入ってきた。えーって思ったけど、無視していると、五本の指の腹でそっとお腹をなぞられる。くすぐったい。でも、まだ起きないもん、と目を瞑ったままでいると、暫くお腹をなぞっていた手が胸にまで伸びてきて、ナイトブラの隙間から手を入れられ、ふにふにと胸を揉まれ始めてしまう。
「ねー、起きて」
 耳元で囁かれて、かかった甘い吐息に肌が泡立った。その間もずっと、工くんの大きな手は私の胸を包んでいて、工くんの手の動きに合わせて、胸が揺れ動くのを感じる。でも、起きないもん、と粘っていたら、胸の先をキュッとつままれてしまった。
「んっ……」
「可愛い、ナマエさん」
 そのまま胸の先を転がされ、工くんの反対の手がズボンの中にまで入ってきてヒンヤリとした手が内腿にペタリと添えられたかと思えばすっと撫でられる。
「あ、やめっ……」
 首筋まで、生温かな舌でなぞられ、とうとう目を開けてしまった。
「もう! 寝れないじゃん!」
「やっと起きてくれた!」
 振り返ると、ぱっと笑顔を咲かせた工くん。
「起きたんじゃなくて、起こされたの」
 寝返りを打って工くんの方を向くと、おはよーごさいます、と言った工くんに、唇を押し付けるようなキスを二度された。チュッチュッと、軽いリップ音が鳴る。離れた工くんは、再びニコッと笑い、好き、ナマエさん、と言ってぎゅっと私を抱きしめ、私の胸に顔を埋めた。
 起きただけで、こんなに喜ばれると、だんだん、ぐーたら寝ていた自分に罪悪感が湧いてくる。
「なかなか起きなくてごめんね」
 朝日で天使の輪ができているおかっぱ頭を撫でてあげると、いいですよ、と返ってきた。
 こういう時しか見れない、工くんのつむじを眺めながら、そろそろ起きるか、と決意する。せっかく、休みの日が被った貴重な日なのだし。
 布団を出ようとするが、工くんは私の胸に顔を埋めたままだった。
「起きないの?」
「シタくなっちゃいました」
「えー? せっかくお休み被ったんだから起きようよ」
「ナマエさんがなかなか起きないからです」
 ダメですか? と、甘えるような声で言った工くんに上目遣いで見上げられる。可愛すぎて、ダメと言えない。口をつぐんだままでいると、再び、チュッチュッと音を立てて、唇を押し付けるようなキスをされる。こんなに可愛いキスでお願いされると、ますますダメと言えない。なんて、思っていると、下唇を吸われる。そして、離れたかと思えば、また、角度を変えて吸われ、甘噛みされる。大人のキスに移行した! と思っていたら、上唇をペロリと掬い取られ、吸われる。口が空いてしまうと、柔らかな舌が入ってきて、背中に回っていた工くんの手は、私のお腹をつたいだし、ビクビクと体が震えてしまった。
「ナマエさん、可愛い。もうダメって言えないでしょ」
 吐息を色っぽく滲ませながらそう囁いた工くんに完全にノックアウトされてしまった。未だお腹をなぞる工くんの肩にしがみつき、漏れそうになる声を必死に抑えて、生意気って言ってやったら、生意気でもなんでもいいです、と微笑まれながら返され、大きな手は再び胸に。優しく胸を揉まれながら、再びキスを重ねられると、ぼーっとしてしまう。
 せっかく休みが被った日なのにと思ったが、せっかく休みが被った日なのだからと、そのまま工くんに任せてしまった朝でした。