※女体化ネタ。本編(2021.8.22)の高校生五色と大人五色の間の話です。
性別に関して何か主義主張をする意図はありません。フィクションとしてお楽しみください※

 煙の中で、白鳥沢の紫のスカートがひらりとはためく。煙が薄れると、そこには私と同じ制服を着た女子高生が立っていた。彼女は五色くんそっくりのおかっぱ頭かと思えばストレートの襟足はサラリと背中まで伸びている。眉はキリッと上げられているにも関わらず可憐だ。
「ご、五色くん?」
「はい!」
「え? 五色くんなの?」
「はい!」
「工……自分の体見たほうがいいよ……」
 彼女が下を向いた瞬間、外で鳴く蝉もびっくりするぐらいの絶叫が響き渡った。

「五色くん、スカートでそんなガニ股になっちゃダメだよ」
 腿までしかないスカートから覗く長い足がひし形の形を作っていたので、慌てて注意したけど、癖のない髪の毛を両手でぐしゃぐしゃに掴んだ五色くんには届かなかったようだ。
「お、俺……俺……」
 ガニ股のまま、幽霊でも見たかのように顔面を蒼白にした五色くんはさっきからそれしか言っていない。大丈夫? と天童くんが聞く声も聞こえていないようだった。
 性別が変わってしまった五色くんは不憫に思うけど、私の関心はつい、別の方に向いてしまう。
「女の子の五色くん、すごいナイスバディ。モデルさんみたい……」
 女の子五色くんは羨むを通り越して見惚れちゃうくらいなのだ。身長は高校生五色くんくらいある上に、袖や裾から覗く手足はスラリと長く伸びている。胸は細身の体に合わせて控えめな膨らみを持ち、シャツから透けるウエストラインはキュッとくびれていた。眉の上で切り揃えられた前髪は奇抜だが、このプロポーションと組み合わせればセンスの塊にしか見えない。フリルの付いたメイド服のような可愛いお洋服を着せてもいいし、細身のパンツに白Tだけ、といったカッコいいお洋服を着せてもサマになるだろう。きっとライダースーツだって着こなせちゃう、スーパーモデルだ。
 素敵だなぁ、と脳内で着せ替えをしながら、ついつい五色くんの全身を舐めるように見てしまう。
「見ないでください!」
 体を両手で抱えた五色くんは私に背中を向けて真っ赤な顔だけをこちらに向けながら、まるでセクハラを受けた女性のように声を上げた。
 あれ? でも、これは、”まるで”ではなくて。
「もしかして私セクハラしちゃってる?」
「うん、そういうのはアウトだね」
 天童くんに赤い旗を上げられてしまった。ごめんね、五色くん。
 
「俺、これからどうやって生きていけば……」
 五色くんは、お先真っ暗、みたいな顔をして、華奢になってしまった両手を眺めていたので、その手を両手で包み込んであげた。やっぱり守りたくなる女の子の手だ。
「大丈夫だよ! 五色くん!」
「へ……?」
「私が色々教えてあげるから!」
「そういう問題じゃありません!」
 また、叫ばれてしまった。今日は五色くんに叫ばれてばっかりだ。私そんなに悪いことばかりしてるのかな。
 涙を潤ませた五色くんがじっと私を見つめる。
「俺が女の子になっても、ちゃんと俺のこと、男として見てくれますか……?」
「うん、見る見る! 大丈夫だよ!」
 私が答えると、五色くんはほっとした様子で肩を落とすので、その小さな肩を抱きしめたくなってしまった。でも園児五色くんを抱き上げて嫌がられてしまったことを思い出して、グッと堪えた。同じ轍は踏みません。
 偉い、私、と自画自賛していると、天童くんが隣で、工はそれでいいんだ、と鼻で笑っていた。何がそれでいいの? と思っていると、目の前でまた白煙が上がった。