ナマエちゃんが侑を好きなんは知っとった。ナマエちゃんの話は全部侑の話やったからな。侑もナマエちゃんが好きなんは分かっとった。
 ええねんええねん。俺はナマエちゃんのええ友達でおるから。ナマエちゃんには幸せになって欲しいからな。
 侑にナマエちゃんを幸せに出来るとは思わんけど。

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 ナマエちゃんのことで侑と喧嘩した翌日。登校途中にナマエちゃんとばったり会うた。会うなりなんなりナマエちゃんは心配そうに俺を見上げる。
「その傷どうしたの?」
 俺の顔にはかすり傷がいくつかできていた。たいしたもんやないし、いつものことやから、今更誰かに突っ込まれたりせーへんのやけど、ナマエちゃんは毎回こうして心配してくれる。
「喧嘩した。あのアホと」
 それを口にするとあの間抜け面が頭を過った。ナマエちゃんお前のこと好きやでと言った、俺に似ても似つかんあのアホ面や。
 今思い出しても腹立つわ。こっちの気も知らんで。
 アホか。あいつ。アホやな。ほんましゃーないアホやで。俺の片割れのくせにようそんなオツムになってもうたでな。
 あかんわ。あいつのこと考えとったらめっちゃ腹立ってきた。
 ナマエちゃんはなんであんなアホが好きなんやろな。ほんでなんで俺やないんやろな。
「また喧嘩したの? なんで?」
 ナマエちゃんはやっぱり心配そうに見上げてきた。
 ほんまになんでか聞きたいんはこっちやわ。
「見解の……相違?」
「何それ」
 ナマエちゃんが可笑しそうに笑う。
 ほんま可愛ええな。俺の隣ではこんなにわろてんのに。ほんまなんでなんやろな。
 でも、もうええねん、俺は。その横顔を見てるだけで。
 達観っちゅうやつやな。
「ナマエちゃん」
 この続きを言えば、もう取り返しがつかんって分かっとった。けどもう、ええねん。ほんまにもうええねん。ナマエちゃんには幸せになってもらいたいからな。
 口に溜まった唾液を飲み込んで口を開く。
「あいつアホやからはっきり言わんと伝わらんで」
「え? な、なんのこと?」
 そう言ったナマエちゃんの目はめっちゃ泳いどった。漫画か、と突っ込むとこやったわ。ほんま可愛ええなぁ。
「ばればれやで、ナマエちゃん」
「そっかなぁ」
 ナマエちゃんが照れ臭そうに笑う。胸がズキンと痛んだ。
 けど、ええねん。ほんまに、ええねん。って俺は何回ええねんって、言うたら気がすむねん。なんだかんだで未練たらたらやんけ。ダサいな。せやけどほんまにええねんって感じやねん。ほんまに。こうやって笑うナマエちゃんの横顔を見てるだけで。幸せやねん。
 ナマエちゃんはありがと、と一言だけ言った。そして赤らめた顔で優しく微笑む。
 やっぱ可愛ええな。

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 まぁ、でも侑はいつかナマエちゃんに愛想尽かされて振られるんやろけどな。侑の場合そこまでがセットやからな。何年双子やってきたと思てんねん。生まれてこの方ずっとや。はは。双子やからな。当然やろって一人で何言うとんねん俺……寂しなるわ。まぁ話戻して、なんやっけ。せやせや、侑が振られた後の話や。侑が振られて、次ナマエちゃんに好きな男が出来たらって話や。そん時はまたちゃんと応援したんねん。俺はナマエちゃんのええ友達やからな。ほんで侑はめでたくお友達降格っちゅうわけや。ざまーねーな。そん時がきたら指差してわろたろ。