プロンプトくんと初めまして

キャンプ続きだったここ数日、やっと街に入ってモーテルに泊まれる事になった。イグニスにご飯のリクエストができるのは良いけど、やっぱ硬い地面に張ったテントよりふかふかのベッドで寝たいよね〜。



「オレとノクトは202号室、グラディオとプロンプトは203号室だ」



レストランで夕食を食べて皆はまだ喋っている中、オレは汚れた体を洗いながして一刻も早くベッドにダイブしたくて、モーテルのフロントで鍵をひとつオレに手渡しながらイグニスが言っていた言葉を思い出してレストランを出た。もらった鍵はポケットの中だ。



「あっ、すげえ星!今日天気良かったもんなぁ」



すでに闇に包まれた空には数え切れない星達がキラキラと姿を現していて、条件反射というか、撮ろうかなとか考える前にカメラを手にして夜空を仰いだ。
数枚シャッターをきってモニターに映し出された夜空を確認する。やっぱり夜空をそっくりそのままの綺麗さで残せるほど高性能のカメラじゃないから、大きな星くらいしか映っていなかった。



「うーん……良いカメラが欲しいなぁー」



王都を出てたくさんの風景を映すようになった今、より写真への興味は強まりこだわりを持つようになってしまって、愛用のカメラでは物足りなさを感じる。首を捻りながら同じように手に持つカメラを眺めながら再びモーテルへ歩き始めた。



「ノクトに相談…しても無理して買っちゃいそうだし、1人で討伐依頼行けるわけもないし…」



何とかカメラ代を稼げる方法が無いものか、普段使わない脳みそを動かす。自分の趣味の為だけにわざわざ仲間を危険な目に合わせたくもない。
そうこうしている内にモーテルに着き階段を上がる。廊下の突き当たりに202と書かれたプレートが見えて、203号室はその手前かなとドアノブに手をかけた……相変わらずカメラを眺めながら。

ガチャリ

扉の開く音がしたすぐ後に、自分以外の声が聞こえた。ーー部屋の中、から。



「わっ、びっくりした」

「え?ーーっ!!す、すみませんでしたあああ!!」



ぱっと顔を上げると目の前には女性がいた、それも着替え中で下着姿の。オレは慌てて勢いよく頭を下げると彼女を見ないまま踵を返して部屋を出た。

おかしい、203号室は自分が泊まる部屋のはず。オレが逃げるのは違うんじゃないか。部屋を間違えた?いや、202号室を見てからドアを開けたから正しいはず。ーー…待って、開けたドアのプレートは見てない!
カメラばかりを気にして肝心な自分の部屋かどうか、確認していなかった事に気付く。

さっきは全く働かなかった脳みそがフル回転してものの数秒で経緯を理解してしまうと、とりあえず部屋を間違えて女性の下着姿を目撃してしまった焦りと恥ずかしさにレストランへと走り出す。心臓はバクバクとうるさく、手には汗がじんわり湧き上がりカメラを落としてしまいそうだ。



「うわあああノクトー!!」

「っなんだよ、うるせーな」



バタバタと騒がしく店内に入ると皆は先程と変わらずテーブルで談笑していて、慌てたオレに気付くと目を丸くした。



「どどどどうしよう、女の人の部屋入っちゃった!」

「は?入る部屋間違えたのか?」

「きっ着替え中のぉ…」

「ヒュウ」

「…謝ったのか、プロンプト」

「一応………」



バカじゃねえのって顔のノクト、口笛を鳴らすグラディオ、唯一助けになってくれそうなイグニス。さすがイグニス……



「とりあえず、その女性に謝罪してこよう。どんな女性だった?」

「どんなって言われても……」



すごく怒ってる感じではなかった。っていうかむしろ、一瞬しか見てないけど表情はぽかん、って感じの…知らない男に部屋入られて下着姿を見られた女の人の驚き方じゃなかった気がする。スタイルは良くてウエストはきゅって締まってるのに胸はちょっと大きめで…腹筋割れてたなぁ……って!何考えてんだオレ!!



「プロンプト?」

「あっごめん!えっと…たぶん204号室のーー「あっいたー!」へっ?!」



イグニスに声をかけられて少し熱くなった頬もそのままに部屋番号を言いかけた時だった、またあの声が聞こえた。数分前の、驚いているようで平然とした女の人の声。



「探したんだよー、金髪くん」



どうやら女の人は俺の背後まで来ているみたいで、皆彼女を見上げている。そして明らかに"金髪くん"というのはオレの事…だよねぇ…。



「…プロンプト、噂の彼女がお迎えだぜぇ?」

「………」



グラディオがにやにやしながらオレに視線を向ける。早く顔を合わせろって言いたいの?!もー!グラディオは仲間を守ってくれるんじゃないのかよおお!

…でもいつまでもこうしていられないし…
振り向いた瞬間ビンタされるのか、怒鳴りつけられるのか、それとも慰謝料を請求されるのか……うぅぅ怖い。それでも意を決して立ち上がりくるりと体を180度回転させた。
そこにはあの女の人が、まさかのニッコニコな笑顔で立っていた。…今度は服を着て。



「さ、さっきはすみませんでした!部屋を間違えて…」

「いいよー別に。ハンターやってると裸なんて気にしてらんないし」

「へえ、あんたハンターなのか」

「こんな小さい女でもね。これでも結構ここらでは腕利きなのよ?」

「すげえ…!」



グラディオが関心したように声を上げれば、ふふんと得意げに腰に手を当てて笑う彼女。思わず俺も感嘆の言葉が漏れてしまう。なるほど、ハンターだからあんなに筋肉ついてたんだ……ってだから!思い出すなオレ!!



「そんな事よりさっ、キミなんて名前?わたしはなまえって言うんだけど」

「あっオレ、プロンプトっていいます!」

「プロンプトくんか!ねぇわたし好きになっちゃった!すごく可愛いんだもんっ」

「へっ?」



どういう意味、なんて聞く暇もなく気付いたら体に軽い衝撃を受けていて、小柄な彼女に抱き着かれていた。
もう1度グラディオの口笛が聞こえた後、オレの頭は思考回路は完全に停止してしまったんだ。





to be continued...



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