誇示




脂汗をかき、足を滑らせて派手に転んだ百鬼丸を、多宝丸は鼻で笑った。
「四八箇所も、手足だけでなく目も鼻も皮膚も、暑さや寒ささえも奪われ、か……」」
「き、きさま、何のつもりだっ」
「飯を食わせてやれとおやじからの命令だ。ただ食わせてやるだけじゃ面白くないだろ」
「っこのォ……」
「安心しろ。まだ殺すな、とは言われている」
多宝丸は、なぜあの父がここまでこの男に執着するのかがわからなかった。薄汚い浪人を招いただけでなく、一室を与え無礼を見逃すとは、自分をも凌駕する何か想像もつかない理由があるに違いない。何不自由なく育てられてきた後継としての立場をコケにされたようで、始終虫が収まらなかった。
「俺はきさまのようなヤツが嫌いでね」
「気があうな、お、俺もだ」
痺れ薬を盛られた百鬼丸は刀を抜こうとしたが力が入らない。上質な畳の上に無残にも寝転び、辛うじて肘をついて頭を起こしているだけだ。
「残りの三十箇所、確認してやるぜ」
「っバカッ、やめろっ」
抵抗する百鬼丸の両脚は、指先で開かれるほどに力が抜けている。錨模様が血で薄汚れた着物を捲り上げ、下帯を解くとそこには鞣した皮で作られた男根のようなものが付いていた。
「ふふ、フフフフ……アーッハハッハ! ハハ、ハハハハハッ!」
「う、な、何がおかしいっ」
「おかしいに決まってる、妖怪らはきさまの男根や玉まで奪っていったとは!」
「随分と嬉しそうじゃねぇか」
「手足や目ならわかるが、わざわざきさまの男根なぞ欲しがるような、滑稽な物の怪もいるんだな」
「クソ、きさま、痺れが取れたら、た、たたっ殺してやるッ」
「マァそう怒るな。俺は今最高に気分がいいんだ。どうだ、きさまが味わったことのない快楽というものを教えてやるぜ」
「生憎だが、まに、間に合ってらぁ」
「その作り物の魔羅で?」
「よっぽど、っ、死にてぇようだな」
「今この瞬間に斬らぬことをありがたく思えよ、どれ」
多宝丸は油を指先に纏わせ、百鬼丸の後孔に沿わせた。
「!?」
「感覚はあるようだな、ほら」
「なにを、ッウ」
「衆道の経験はあるか」
「んなわけ、アッ」
肘ががくりと崩れて、百鬼丸は畳に完全に背をつけてしまった。まだ力が入らず身体中がビリビリと痺れ、それだけでなく触れるものすべてが過剰に感じてしまう。頭だけは普段と変わらないようなのがかえって辛く、今自分の体に何が起こっているのかが、いつもの数十倍もの感覚によって脳に届けられてしまう。多宝丸の中指が弱々しい抵抗に逆らいながら挿入され、排泄感に似た異物感に、思わず声が漏れてしまった。
「ンアア、な、なに」
「フフフ」
「ッウ、そこ、触んなぁっ……!」
「殺すよりマシだろう」
「この、鬼畜がっ、ぁあ」
返事の代わりにぐち、と音を立ててもう一本指を後孔に挿れられ、百鬼丸は腰を浮かせた。
「ンァ、アアっ」
後孔は熱く、弱々しく多宝丸の指を締め付けている。指の腹が擦っていくところすべてが藁の棘が刺さったかのようにチクチクと感じ、百鬼丸は自身の腰の奥が重たく熱くなるのを感じていた。
「下はどうなってるんだ」
作り物の男根を外すと、下に小さな穴が空いていて、そこの穴はヒクヒクと震えている。
「お前、女か?」
「俺、は、女、じゃねぇっ」
「じゃあこの穴はなんだ」
「っうう」
親指の先で穴をなぞられるとより百鬼丸の腰が震える。女と違いポツンと開いただけのその穴は、ほんのすこし蜜を溜めていた。
「見てみろ、濡れている」
「っは、しらねぇっ」
腕で顔を隠すことも叶わない、瞼を閉じてはいつ斬られるかわからない。百鬼丸はそこからは目を背け、ただジッと多宝丸の顔を見た。片目が潰れている多宝丸と、視界は一緒のはずだ。隙があるはず、その隙を狙ってこいつを殺す、と睨みつけた。
「そんなに欲しいか」
「きさま、絶対、斬るっ」
「斬れるもんなら斬ってみろ」
多宝丸は百鬼丸の腰を抱えうつ伏せにし、ついでに腰帯を解き首にかけ、両肩と手首を縛った。紐を手に取り、ぐいっと引っ張る。
「ぐ、げほ、ぐうっ」
「どうだ?」
「ぐ、ふ、っ」
「あまりジタバタすると締めあげるぞ」
苦しさが百鬼丸の脳を鈍らせる。緩められた手綱に体を預け、畳に頬を押し付けた。多宝丸は袴を緩め、百鬼丸の膝を立てさせ尻を高く上げる。
「おい、やめろっ」
「うるさい」
百鬼丸の後孔に多宝丸のそそり勃つ男根が当てられ、油の滑りとともに中に押し込まれる。
「ぐ、ぁ、ああ、あゔっ」
「ふ」
「っい、って、ぇっ」
「すんなり、入るな。間に合ってるとは、この事か」
「なんの、ああっ」
「魔羅がないからコッチで楽しんでいるのだろ?」
「ちが、ちからが、入らない、だけだっ」
「嘘をつけ」
ずずずずっ、と奥に挿される。百鬼丸の腹の奥から惨めな声が漏れ、多宝丸はそれを聞いて笑った。
「ぅうう」
「っは」
「あ、ああっ」
男根を引き抜かれ、また奥に突き立てられる。熱く硬いそれが百鬼丸の肉をえぐっていく。
「もっと締めろ」
「むり、だっ、ああっ、引く、なっ」
「俺に指図するな」
「ああううっ」
「中に、どうだ、悦いところがあるか?」
「しらねぇ、ッ」
「さては物の怪にとられたか」
「うるせ、っ」
「達することもできないとは、哀れな男よ」
「ふぁ、ぁ」
「いや、男かどうかもわからんな、っ」
多宝丸のそれが激しく挿し込まれるたびに腰の奥が痛いほど刺激され、百鬼丸は体が熱くなるのを感じていた。下半身の肉がぶつかり合い、ばちんばちんと音がする。
「ぁう、ああっ、あ」
「ふふ、ふふっ」
「う、グゥ」
唇を噛んで耐えようとするが、思ったように力が入らず、多宝丸のひと突きひと突きに合わせて勝手に声が漏れてしまう。百鬼丸は息を止めようとした。腹のなかをかき回されながら、苦しさの中で、多宝丸の男根を受け入れている自分の後孔の熱さだけが、どくどくと上ってくる。
「どうだ、犬のように尻を突き出し、俺に犯されている気分は」
「んん、ン、んっ」
「声、出せ」
「ぃ、ヤダっ」
「フゥ、そんなに、苦しいのが良ければッ、望み通りにしてやる」
多宝丸がぐいと紐を引っ張ると、百鬼丸の上体が反り、顔が真っ赤になった。
「ハァ、うぐ、ハッ、はっ」
口を開け、舌先を出し、わずかな空気を吸い込もうと百鬼丸は懸命に息をする。死を感じた体は焦り、五感すべてを総動員させ、力が入る。自然と後孔が男根をきゅうきゅうと締め付け、中に挿入っているその形を克明に覚え、百鬼丸の脳に伝わってしまった。
「ぁあ、ハァ、は、は」
「首を絞められる、のがイイのか」
「は、はぁ、ハッ」
おかしい、どうなってるんだ、と百鬼丸は思った。苦しさの中に、腰に散々溜まった何かが、周囲から身体の芯に集まってくる。ぞくぞくとありもしない身体中の隅々から熱くて冷たいような、身体を震わせる何かが集まってくる。
「っ、ぁう、は、は」
反り返る雁首、熱く硬い竿、後孔をこじ開ける亀頭が、全てが百鬼丸にとってはじめての経験であり、はじめての感覚であった。血が逆流し、五臓を引きずり出されそうな、この感覚を、なんと形容したらいいか百鬼丸はまだわからず、押し寄せる波に体を預けるしかない。
「ん、おかし、ぅ、は、ぁ、ァアアッッ……!! ゥッーー!! 」
「ん、ンッ」
「ァ、ア、ア、アーー……! ……!」
後孔をきつく締め付け、反らせた背中がビクビク震える。義手と義足がカタカタ音を鳴らし、百鬼丸は、目の前が真っ白になりながら、全身の筋肉を収縮させていた。小さな穴から白濁が勢いよく吐き出され、畳にへたり込んだ百鬼丸の股間を汚していた。勝手に収縮した腰の筋肉のせいで焼水が溢れ、精の匂いと畳の焼ける匂いが部屋に充満する。
「死んだか」
「いき、てらぁ」
「なんだ、まさか、初めて」
「っ悪い、か、っう、ぁ、あ」
紐を緩めた多宝丸は百鬼丸の腰を抱き、ゆさゆさと揺さぶる。頬を畳に擦り付けながら百鬼丸はもはや多宝丸のなすがままになっていた。力が入らない、薬のせいだけではない、と思いながら、生まれて初めて感じた死にそうなほどの悦楽に、百鬼丸は混乱していた。男に無理やり暴かれて、それでも感じたさっきの出来事はなんだったのか。身体中が、もう一度、知りたい、と震えている。
「ぁ、あっ、ああっ、う」
きゅうきゅう締め付ける後孔を、多宝丸は真後ろから見ていた。今まで出会った誰よりも強そうな男を喘がせているのが、他ならぬ自分自身であることは多宝丸を興奮させ、胸を熱くした。乱れる百鬼丸の長い髪を掴み、引き寄せる。
「っうう、うぐぅっ」
「きさまを今、犯しているのは誰だ」
「っ」
「答えろッ」
「しらね、クソがっ」
「そうか、ならいい、勝手に泣いてろっ」
多宝丸は百鬼丸の髪を離し、百鬼丸が放った濃ゆい精を後孔に塗りたくった。腰を抱えてゆっくり、ゆっくり何度も奥に打ち付け、百鬼丸の体が小刻みに震える。
「っあああ、あう、ああっ」
「フ、ゥ」
「やめ、あっ」
多宝丸は百鬼丸の腰を回し、仰向けにさせる。紅潮し汗をかき、涙を浮かべた百鬼丸を見て、より一層血が集まるのを感じた。肘を百鬼丸の顔の横につき、その顔をじっくりと見る。
「おい、百鬼丸っ」
「ファ、あ、ああっ」
「いい、顔、してるぜ」
「やめ、あう」
「やめていいのか?」
「んんっ」
根元を押し付け、さっき吐精した穴の周りをぐじゅぐじゅこすった。
「ひぁ、あ」
「ずっと、出してなかったんだろ、一気に全部出してしまえ」
「あう、ぁあ」
「ほら。どこを、して欲しい?」
多宝丸はずるずる、と百鬼丸の顔を見ながら抜く。その表情が一瞬快楽に歪む瞬間を見逃さないように。
「ンンッ」
「ここか?」
百鬼丸が呻いた部分を亀頭で押し付ける様にゆっくりと捏ねた。じくじく痛いようなほぐすような快感がそこから熱く上ってくる。達したばかりの体がもう一度、もう一度、とそこを締め付けてくるので、多宝丸も奥歯を噛んで耐えていた。
「ッ、そんな、締めるなって」
「勝手に、締まる、バカッ」
「ああ、いいんだな」
「っ、クソ、畜生っ、ぁあ」
「もう、諦めて、全部感じたら、どうだっ」
「ん、ンッ、ハァ、ああっ」
意地も何もかもかなぐり捨てて、生まれて初めての快楽に身を沈めたい。百鬼丸にはその欲望を消し去ることはできなかった。
「ぁあ、クソ、っ」
多宝丸の動きが止まる。今にも射精しそうになり、我慢するために腰を引いた。体を起こそうとした時、百鬼丸の腕がわずかに伸びて、腕に触れる。
「バカ、や、やめ、るな」
「は?」
「続け、ろっ、多宝丸っ」
「百鬼丸……」
「できねぇのか……お、俺を満足させるくらい、っ、おさむらいさんには、簡単だろッ」
「ッ……!」
多宝丸は百鬼丸の両足を大きく押し上げ、むき出しの後孔に上から打ち付ける。ばちんばちん、と皮膚がぶつかる音が湿った空気の部屋に響いた。
「あああっ! あっ、アアッ」
「っう、く」
「まっ、あうっ、死んじま、ああっ」
「こっちも、だっ、ッウ」
多宝丸はえぐるように何度も突き立てる。押さえつけられた体は未だ言うことを聞かず、百鬼丸は息を吐いてばかりで吸うことがままならない。苦しさの中に、先ほどの感覚がいきなり百鬼丸を襲った。
「また、あっ、むり、あ、あああぁ、アアーーッ……!」
百鬼丸は両足をガクガク震わせながらぴゅるぴゅる、と精をこぼした。それは多宝丸の根元と毛を白く汚し、滑りを増した男根がより深く入るのを手助けした。きゅうきゅう締めつけられ、多宝丸ももう限界だった。
「ああ、あぐうっ、あぅ」
「う、っ……! くっそ、ぁ、あ」
「ぁ、うぁあ、あぁ」
「あ、く、ううっ……! ぐっ……!! ……!」
体を丸め、百鬼丸の首元に額を寄せて、多宝丸も射精した。精は勢いよく体内に流れ込んだが、百鬼丸にはそれを感じるほどの余裕はなく、ただ自分の中にあった硬いものが震えるのを感じた。ぐりぐりと奥まで押し付け、中身を全部出した後、多宝丸は体の力を抜いた。多宝丸の耳に百鬼丸の鼓動が聞こえる。
「ッ、フゥ、はぁ……」
「ハァッ、ハァ、ぁ」
「……フゥ、抜くぞ」
モタモタしていたら殺されるかもしれない。多宝丸はずぽりとそこから抜き、滴れる白濁をじとっと見た。百鬼丸は汗と涙と精で顔も体もぐっしょりと濡れていた。
「行水でも、フゥ、してきたら、どうだ」
「お前の、薬が、消えたらな」
「フ、フフ」
「悪趣味、め」
「欲しがったくせに」
「……」
身なりを整えた多宝丸は、刀を腰に刺し、立ちあがった。百鬼丸はまだ力が入らず、辛うじて起き上がり、腰回りを隠した。
「水と布を持って来させる」
「フン」
「ついでにその着物も洗え。血の匂いが染み付いてるぞ」
「俺は匂いがわかんねぇ」
「そいつは結構」
多宝丸は背を向けることなく、ちらりと見ながら襖に手をかけた。
「……百鬼丸、しばらく寝ていろ」
ピシャリ、と襖が閉じられ、百鬼丸はハァと大きくため息をついた。ぐるぐると脳が回っている感じがまだ続き、畳に頭を預けるとウトウトと眠たくなってくる。天井の美しい透かし彫りを眺め、次に会ったらただじゃおかねぇ、と、呟きながら眠りに落ちた。






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