あなたが私を選ぶまで


それは交流会が落ち着いてすぐのこと。いつも通り早起きして、いつも通り身支度を整えて、いつも通りに教員室に入ると、スケジュールボードに皆の予定を書いている伊地知を見つけた。他の皆はまだ来ていないらしい。

「伊地知君おはよ〜!今日も一番乗り?」
「おはようございます、廻神さん。今日はお休みのハズじゃ…、」
「え?そうだっけ?」
「ええ、」

言われてスケジュールボードを確認してみれば、私の予定の欄には『休』と書かれた磁石が貼られている。…あれ、今日休み?マジで?休み?

「ここ最近、交流会の為のスケジュール調整に、宿儺の指の回収や神仏関係の任務が立て続きで、休暇を取れていませんでしたよね?」
「それを言ったら伊地知君だって休んでないんじゃない?大丈夫?伊地知君がいないと高専回らないんだから、倒れないでね?」
「交流会も終わって落ち着いたことですし、私も来週は2日ほどお休みをいただく予定です。」
「そっか。にしても私の休みが今日だったとは…すっかり忘れてた。えー、なにしよっかなぁ〜。」

スケジュールボードで皆の予定を見てみれば、悟と傑は任務と授業…パパ黒は体術の稽古か…。他に休みは…、

「あ、建人君も休みじゃん。休み被るなんてすっごい久し振りかも〜!」
「そうなんですか?」
「そうそう。悟と傑は教員室に来れば大体会えるけど、なんだかんだ皆出張続きだったし、建人君は教員じゃないから、教員室まで顔出しに来ないし、」
「それなら、たまには休みが被った者同士で出掛けてみてはどうです?七海さんは特に予定を入れていないと仰っていましたし、誘ってみるのもありかと。」
「いいねソレ、採用!あ、悟と傑と甚爾様には絶対内緒にしてね?間違いなく邪魔しに来るから。」
「勿論です。廻神さんと七海さんの休日は私が死守します。」
「流石伊地知君っ!頼りにしてるよ♡」

ちゅっと伊地知の頬にキスをしてやれば、伊地知はピシリと固まった。かと思えばボンッと顔を真っ赤にしてダラダラと汗を流している。なにその反応、面白っ。童貞丸出しの反応過ぎて笑いそうになったわ。そうと決まれば、だ。お邪魔虫三銃士が来る前に退散!教員室を出て三銃士と会わないようにこそこそと寮の部屋まで戻ると、LIMEを開いてナナミンにおはようスタンプを送ってみた。

「お、既読ついた。」

『建人君今日休みだよね?』
『休みです。』
『いい知らせがあるんだけど聞きたい?』
『聞きます。』
『私も今日休み(・´з`・)チュッ♡』

「お、ウケる、電話来た。」

切り替わった画面には『七海建人』の文字。通話ボタンをスライドしてスマホを耳に当てると、ナナミンのあの心地良いテノールボイスで名前を呼ばれた。

「はーい、しもしも〜?」
『本日のご予定は?』
「なーんにもないっ☆だから建人君に連絡したんだけど、建人君は予定ある?」
『ありません。』
「そ?じゃあ折角だしデートでもしない?」
『……、』
「あれ?もしもーし?」

突然無言になったナナミン。かと思えば、受話口の向こうからゴンッダンッドサドサドサッと物音がした。え、どしたの!?なんの音?!

「建人君!?大丈夫?凄い音したけど…、」
『…ます、』
「え?なに?」
『すぐに準備します。部屋まで迎えに行くので、私が行くまで絶対に部屋から出ないでください。いいですね?』
「え、あ、うん、分かった。」
『では30分程で向かいます。五条さんや夏油さん、伏黒さんにはくれぐれもこのことは内密に。』
「勿論!オシャレして待ってるね♡ダーリン♡」
『…。』
「ちょっと建人君?!そこは『分かったよハニー♡』って言うところでしょ!?ノリ悪い!」
『……大人しく部屋で待っているように。いいですね、ハニー。』
「ンブフッ!」
『ひっぱたきますよ。』

通話を切っていつもの仕事着から私服に着替えるべくクローゼットを開けた。は、良いんだけど…、

「マジ?私ってそんなに私服持ってない系?」

クローゼットの中にあったのは仕事着と、三銃士や子供達が使っていたスウェット、硝子のルームウェアと私のルームウェア…。え、私服は?マジで私服は?ちょっとくらい持ってないの!?どゆこと!?急いで記憶を確認してみれば、…あー…うん、ないですね…私服。いやあったよ!?持ってたよ!?ちゃんと持ってたんだけどさ、気付いたらなくなってるんだけど!?絶対盗まれてるよねこれ!!!誰だよ私の私服持っていたの!!

「…仕方ない、仕事着で行くかぁ〜…。万が一見つかっても仕事着でいれば任務ってことで誤魔化せるだろうし、私服は出先で買えばいいし。」

なんならナナミンとのデートってことで、ナナミンが好きそうな服を選んでもらうのもありなのでは?!ハイ天才現る〜!!!私マジ天才!そうと決まればナナミンが来るまでにヘアアレンジでもしちゃお〜。

「コテどこ置いたっけ……あ、あった!髪巻くの久し振りかも…。」

折角のデートだし、ちょっとくらいオシャレにしたいよね〜。コテで軽く毛先を巻いている内に、あっという間に30分経っていたらしい。ドアをノックする音が聞こえて、使い終わったコテを片付けた。うん、久し振りにやったにしてはいい感じに巻けたかも!貴重品をショルダーバッグに入れて、いつものヒールを履いてドアを開けると、いつも通りのスーツ姿のナナミンがいた。ありゃ、私服じゃないんだ?

「お待たせしました。」
「おはよう、建人君。行こうか。」
「…仕事着なんですね。」
「うん。これ以外の服がなかったから、出先で買おうかなって思って。それに、私服で建人君と歩いてるところ見られてみなよ、悟も傑も甚爾様も、間違いなく仕事ほっぽりだして邪魔しに来るから。」
「それには同感です。…私も同じことを考えて、悩んだ挙句いつものスーツにしました。」
「気が合うじゃん。」
「私服はそもそも着る機会が少ないですし、休みであろうがなんだろうが、緊急で呼び出されることも多い。」
「ほんとそれな。呪術師にも労働基準法作ったがいいよ、マジで。」
「それにも激しく同感です。あなたとデートできると前もって分かっていれば、それなりの服を用意していたというのに…。」
「じゃあ出先で買っちゃう?あ、その時は建人君が私の服選んでよ!私は建人君の服選ぶから。」
「…分かりました。」

そんな話をしながら駐車場に向かっていると、するりと髪を掬われて振り返る。ナナミンは小さく口元を緩めて私を見ていた。ほほう、貴様、浮かれているな!?

「巻き髪も似合っていますね。」
「んふふっ、でしょ〜?久し振りに巻いたけど結構いい感じにできたの。デートだからね♡」
「…ありがとうございます、私の為に。」
「どういたしまして♡エスコートよろしく、ダーリン♡」
「任せてください。」
「そこはほら、『任せてくださいハニー♡』でしょ?!」
「言ったら笑うでしょう。」

駐車場に着くと、ナナミンは車の鍵をポケットから取り出した。いつの間に車を借りたんだろう、準備いいな〜。

「伊地知君から、空いている車を借りておきました。」
「流石建人君、準備いいね!」
「それに加え、五条さんが任務に発つ時間、夏油さんが授業に出る時間、伏黒さんが授業を放棄して新台入れ替えで出掛けるであろう時間も、伊地知君に確認済みです。」
「甚爾様の予定まで確認してるところに建人君の本気度を感じる。しかも授業を放棄する前提なの笑えるんだけど。」
「久し振りに理玖さんと2人きりで過ごせるのですから、これくらいは当然です。」

クイッとサングラスを押し上げたナナミンが、助手席のドアを開けてエスコートしてくれた。運転席に乗り込んだナナミンがシートベルトを締め、エンジンをかけてゆっくりと動き出した車。特にどこに行こうなんて決めずに高専を出たけど、ナナミンはどこか行きたいところあったりするかなぁ。運転するナナミンの横顔を見つめながらそう思っていると、視線を感じたのかちらりとこちらを見たナナミン。

「そんなに見つめてもなにも出ませんよ。」
「ふふっ、」
「特に目的地も決めずに高専を出ましたが、行きたいところがあれば遠慮なく言ってください。」
「うーん、特にないかなぁ…。建人君は行きたいところある?」
「気になっているお店はありますが…、」
「じゃあそこに行こうよ!エスコートしてくれるんでしょ?」
「ですが、この時間から営業しているかどうか…、」
「どこどこ?私調べるよ!」

ナナミンが気になっているのはビアガーデンらしい。告げられた店名をスマホで検索してみれば、お昼から営業していると書いてあった。昼からビアガーデン…オシャンじゃん…!!

「いいじゃんいいじゃん!折角だし、真っ昼間から飲んじゃおうよ!」
「飲めば車を使えなくなります。」
「建人君、私を誰だと思って?」
「…まさか、理玖さんの術式で飲酒運転を可能にするとでも…、」
「いや、流石に犯罪…!術式使って飲酒したことをなかったことにするとか、そんな感じじゃないかな?使ってみないと分かんないけど。」
「…それは勿体ない気もしますが、車を置いて帰るわけにもいきませんので、理玖さんの術式に期待します。」
「期待されちゃいまーす!」

信号で停車した隙に、カーナビにビアガーデンの住所を入力し、走ること1時間ほどで新宿に到着。有料駐車場に車を停めて降りると、アパレルショップが開く時間まで映画を見て時間を潰すことにした。上映中の映画の広告ポスターを見ていると、気になる映画のポスターを見つけた。ポスターの端の方で、縦半分にカットされたカラフルなタイツ姿の男が写っている。こ、この男は…!

「センターメン…!?」
「…なんですかそれ。」
「えっ、建人君知らない?!笑う犬のアレだよアレ!センターメン!」
「……、」
「嘘でしょ、これがジェネレーションギャップ…?」
「1歳しか変わらないのになにを言っているんですか。」
「え、建人君見たい映画あった?!ないならちょっとこれ見てみない!?この映画めっちゃ気になるんだけど…!ていうかこれ映画なの?!なんの映画なの?!」
「私はなんでも。理玖さんが見たいというなら、この映画にしましょう。センターメンというのも少し気になります。演じているのは…、��羽史彦…?」
「��羽史彦…?え、なんだっけ…どっかで見たような…、」

えー、どこだっけ…?単行本に出てたかなぁ?私がこの世界で死んでから17巻以降の単行本は読めてないんだけど…、

「あ、」
「…どうしましたか、」
「あ〜いや、なんでもない、気のせいかも…!」

待って待って待って!?夢の中で単行本を読んだ時の記憶を思い出して気付いた…!��羽史彦って17巻に出てたキャラじゃん!?しかも死滅回游泳者って書いてなかった?!え、てことは敵!?でもなんか五分五分とか七三とか言ってなかった!?ほんとに、五分と五分か!?え、えっ、どっち!?ねえどっちなの!?待ってそもそもこの��羽って人は敵なの味方なの!?ていうか戦うの!?どういう術式?!お笑い芸人でしょ?!え〜〜〜めちゃくちゃ気になるじゃ〜〜〜ん!セレクトして続き読めたりしないの!?試しにやってみるか!?セレクト!

【そのセレクトは拒否されました。】

「は!?」
「今度はなんですか。」
「あ、いや、ごめん、なんでもない…!」

ちょっと待って、セレクトを拒否ってなに!?誰が拒否してんの!?神様仏様!?なんで!?1回死んじゃったから!?そういや過去の神の子の記録にも、1回死んだら単行本の内容を読めなくなったって言ってたよね?!うわ〜〜〜!!!死ななきゃよかったわ!!って、今はそんなこと言ってる場合じゃない!映画だよ映画!��羽が出てる映画、どんな映画!?

「とりあえずチケット買おう!建人君、飲み物とかどうする?買う?」
「では、アイスコーヒーを。理玖さんはどうしますか?」
「映画と言えばポテチとコーラでしょ!」
「映画館でポテチはやめてください。」

映画のチケットと飲み物を買うと、スタッフの案内で上映会場へ向かった。最後尾で、ど真ん中の席をとった私たち。他に観客はちらほらいるみたいだけど、満席というわけではないらしい。まあ、まだ朝の9時だしね!…上映時間が近付くと、スクリーンには予告映像が流れ始めた。ナナミンは優雅に足を組んで、スクリーンを真っ直ぐ見つめている。いいねぇ、いいねぇ!流石ナナミン、絵になるねぇ〜!!私の視線を感じたからか、ナナミンは小さくフッと笑って私を見つめ返した。映画を見る時は、流石にサングラスを外すらしい。私を愛おしそうに見つめる顔が、スクリーンの光でハッキリと浮かび上がっている。

「そんなに見つめられると穴が開きます。」
「建人君の顔に穴が開くなんてホラーじゃん!!!」
「…映画館ではお静かに。」
「ごめんなさい。」

映画が始まると、私もナナミンも静かにスクリーンに集中した。映画の内容は、まあ…うん…、

「えっ、建人君あの映画の意味分かった…?」
「いいえ、全く。」
「あの超人先生って一体何者…、」

映画の内容は全くもって意味不明だった。��羽の演じる超人先生という教師が、学校で起きる怪異の謎を解きながら、学校中を笑いの渦に巻き込もうと奮闘する、いわゆるコメディホラー映画だったわけだけども…。いや、それにしてもだよ?!

「授業で大喜利…今度私もやってみようかな?」
「学長に怒られても知りませんよ。」

なんとも言い難いB級映画だった。うん、これは…DVDが出たら生徒の呪力鍛錬用に買おうかな…。ゆじたんが使ってたあの地下室に常備しててもいいかも…。映画館を出た私たちは映画の感想もそこそこに、洋服を買いに新宿駅周辺をぶらぶら。目に留まったマネキンが着ている服につられて店に入ると、まずは私からナナミンに着て欲しい服を選んだ。

「う〜ん、建人君といえば落ち着いた雰囲気あるし、着る物も落ち着いてるイメージだなぁ…。」
「…、」
「あ、このセットアップいいんじゃない?カーキもいいけど…あ、こっちのネイビーもいいなぁ…。」
「…、」
「いやちょっと待ってよ、建人君といえばスーツってイメージ強いし、上下同じ色のセットアップだとまたスーツっぽさが…。いっそ半袖にしてみるか?ていうか私の中で建人君が半袖着てた時の記憶って子供の頃の記憶だしなぁ…。シンプルな半袖1枚でもありだよね、逞しい腕とか出てると私が嬉しいし。ていうか建人君の私服姿とか私が嬉しいだけじゃん、ヤダえっち。なんて罪な男なの七海建人…!」
「…、」
「そういえばさ、小さい頃の建人君はザ・お坊ちゃまみたいな恰好だったよね!あの頃の建人君はめちゃくちゃ可愛かったなぁ〜!懐かしい…!覚えてる?呪霊に向かって「えいっ!」ってやって祓ってたんだよ〜?可愛いよねぇ〜?」
「いつの話を…。」
「建人君がまだこ〜んなに小っちゃかった頃の話!あんなに可愛かった建人君がこんなに大きくなって…、お姉ちゃん嬉しい…!」
「たかだか1歳しか変わらないでしょう。」
「1歳でも私の方がお姉さんです〜!」
「その言動が既に子供です。」
「なによぉ!私で童貞捨てたくせに!」
「……理玖さん、そういった話をするにはかなり声が大きいです。そして場所も、」

ナナミンは私の口を手で塞いで、人差し指を自分の口元に当てた。額に青筋が立っている上に、めっちゃ怖い顔で睨まれた、ウケる。ちらっと店内に視線を向ければ、ショップ店員のお兄さんとバッチリ目が合って、慌てて逸らされた。お兄さん、絶対私とナナミンの過去になにがあったのか考えてるでしょ。なんならどういう想像したのかちょっと聞かせてもろて!

「事実じゃん。」
「TPOという言葉をご存じですか?」
「あ〜、ほら、そうやって私のことバカにして〜。」
「余計なことは言わなくて結構です。早く決めてください。」
「ンまっ!なんて冷たいのかしら!お母さん悲しいわ!」
「いつから理玖さんが私の母になったんですか。」
「ついさっき。」
「冗談はその辺にして、早く決めてください。」
「建人君が冷たい…理玖ちゃん泣いちゃう。」

ぐすんぐすんと泣き真似をすると、ナナミンは小さく舌打ちをした。

「あなたが五条さんだったら本気で殴っているところでした。」
「悟には当たんないでしょ。」
「ええ、ムカつくことに。そして今、私は自分の発言に後悔しています。」
「え?なんで?」
「…今理玖さんを独り占めしているのは私だというのに、他の男の名前を出してしまった…。」

ナナミンが私の頬に手を添えてそう言った。ひゃだっ!この子、私が悟の名前出したことに嫉妬してるの!?自分で悟の名前出しちゃったもんね?!なんかごめんね!?ヤキモチありがとちゅちゅちゅっ♡

「私が異性に服を送るのは、建人君が初めてだよ。どう?嬉しい?」
「…意外ですね。」
「でしょ?決めた!建人君にはこれ着て欲しいな!」

まあ、マイエンジェルメグエルがまだ小さい頃に、津美紀の分も一緒に買ってあげたことあるけど、これは内緒にしておこう。私が手に取ったのは、ベージュの薄手の七分丈ジャケットと白のカットソー、ジーパンと白のスリッポンスニーカー。やはりナナミンと言えば、こういったシンプルなコーディネートが合うよねぇ〜!!試しに試着を勧めてみると、大人しく試着室に入っていくナナミン。…サイズ大丈夫かな…。だってナナミン、腹筋6LDKだし、二頭がいいね!チョモランマ!だし、大胸筋が歩いてるもんなぁ…。一応もう少し大きめのサイズで探しておこうかな…?

「理玖さん、」
「はーい?」
「…すみませんが、もう2サイズほど大きめの物をお願いします。このサイズですと少々肩幅が…、」
「肩に小っちゃい重機のせてんのかい!」
「なんの話ですか。」
「こっちの話。あ、すみませーん、これください!」
「ありがとうございます。」

店員さんがタグを切った新品の服を用意してくれたので、ナナミンはそれに着替えて支払いを済ませた。本当は私が買ってあげようとしたんだけど、ナナミンに断られちゃった。いつものスーツはショッパーに入れてもらい、次は私の服を選びにメンズ店を出る。ナナミンはどんな服を選んでくれるかなぁ〜。ちょっと楽しみ♡

「…理玖さん、この店に入ってみても?」
「いいよ〜!」
「では…、」

ナナミンのあとに続いて店内を見て回ると、ナナミンはワンピース売り場で立ち止まった。お、なにかいいの見つけたのかな?

「…こちらはどうですか。」
「お〜!いいね、可愛いこれ。」

白地に小花柄が入ったリゾートワンピースを、私の体に宛がうナナミン。なるほど、そう来たか。確かにナナミンっぽいね。あの三銃士だったら絶対、ミニスカとかミニワンピースみたいな丈が際どくて、露出が多い服を選ぶだろうけど、ナナミンは流石…ロング丈だ!もうほんと、私を露出狂に仕立て上げるあの変態三銃士に、ナナミンの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ…!!

「試着してみる?」
「…ええ、お願いします。」
「はーい!あ、覗いちゃや〜よ♡あ、それとも一緒に入る?」
「覗きませんし、入りません。」
「ちぇ〜、つれないの!」

受け取ったワンピースを手に試着室に入って、早速着替えてみる。…うん、我ながらなんでも似合うな?なにを着ても着こなしてしまうこの美貌…!流石私だわ。神様仏様に感謝だね!試着室のカーテンから外に顔だけを覗かせると、カーテンの目の前にいたナナミンと目が合う。

「ジャジャ〜ン!どう?」

カーテンを開けてその場でくるりと一周してみると、ナナミンは小さく口元を緩めて頷いた。

「よくお似合いで。やはり私の目に狂いはなかった。」
「でもさ、本当にロングワンピースでよかったの?もっと短い丈のほうがセクシーじゃない?」
「分かっていませんね、理玖さん。あなたが露出をすればするほど、私の機嫌が悪くなります。」
「ふ〜ん?どうして?」

ナナミンは眉間に皺を寄せて「わざと聞いているでしょう」と私を見下ろした。まあ、分かっていても聞きますよそりゃ。ナナミンの口から聞きたいもんね♡

「フーッ、」
「教えてよ〜建人君♡理玖ちゃん分かんなぁい♡」
「…正直に言えば、好きな女性が露出して喜ばない男性はいません。ですが、私はそういった格好をするなら2人きりの時がいい。それに…、」
「それに?」
「…いえ、私からは以上です。サイズも問題なさそうですし、値札を切ってもらいましょう。それから、そのワンピースに合いそうなサンダルも何足か選びました。履いてみてください。」

ナナミンが試着室の前にサンダルを何足か並べて置いたので、鏡を見ながらサンダルを履き比べてみた。その間、ナナミンからワンピースを購入すると聞いた店員さんが、新品のワンピースを用意して値札を切ってくれた。

「これ可愛いかも。あ、待ってこっちも合う!え〜、めちゃくちゃ迷うんだけど、建人君はどっちが合うと思う?」
「…こちらの白いサンダルが良さそうですね。」
「ほんと?じゃあそれにしよ!すみませんん、これもお願いします!」
「ありがとうございます、すぐにご用意いたします。」

店員さんから値札を切ってもらったワンピースとサンダルを身に着け、お会計をしようと仕事着を手に試着室を出た。けれど私よりも先に、いつの間にかナナミンがレジの前に立っている。まさか…!

「こちらでお願いします。」
「ちょうどお預かりいたします。」
「あ、ちょっと建人君…!自分で払うのに!」

ナナミンがスマートに支払いを済ませてしまったあとだった。流石、原作者も認める男!大人オブ大人ナミン!紳士過ぎて惚れてまうやろ〜♡ていうかもう惚れてるんですけど!

「建人君、自分で払うって〜、」
「いいえ、ここは私が。折角のデートなのですから、私に払わせてください。」
「え、好き。」
「知っています。」
「ありがとう、建人君。全部大事にするね?」

ナナミンの腕に胸を押し付けるように腕を絡めると、きゅるん♡とナナミンを上目に見つめる。ナナミンは深く息を吐きながら、「当たっています」と小さく漏らした。当てているのだよ、七海くぅん!店員さんに仕事着をショッパーに入れてもらうと、駐車場に戻ってショッパーを車に詰め込んだ。お腹もいい感じに空いてきたので、ナナミンが気になっているというビアガーデンへ。ゲーゲルマップ見ながら歩こうとする私の腰を、ナナミンがグイッと引き寄せて止めた。

「歩きスマホはやめてください。危険です。」
「ごめんなさ〜い。」
「店の場所は先程調べたので、私が把握しています。」
「流石、できる男だね、建人君♡じゃあ道案内よろしくぅ!」

ナナミンの腕に腕を絡めると、2人でビアガーデンに向けて歩き出した。駐車場から歩くこと徒歩10分ほどで到着したのは、歌舞伎町タワー。その中にあるビアガーデンまでエレベーターで上がると、スタッフの男性が私たちを笑顔で迎え入れた。

「いらっしゃいませ、2名様でしょうか?」
「はい。」
「テラス席と店内でお選びいただけますが、どちらがよろしいですか」
「どっちにする?」
「理玖さんのお好きな方で。」
「え〜、どうしよう、迷うなぁ…。テラスもいいし、店内もオシャレでいい感じだもんね。」
「ありがとうございます。今日は天気も良く風も穏やかなので、テラス席もおすすめですよ。」
「では折角なので今日はテラス席で。次に来た時に店内で過ごしましょう。」
「そうしようか〜!テラス席で夜まで飲んで、変わりゆく景色を楽しむのもまた一興!」
「そういう楽しみ方もありでしょう。テラス席でお願いします。」
「ありがとうございます、ご案内いたします。」
「お願いしまーす!」

店員さんの案内でテラス席に向かう。店内は天井が高くて落ち着いた雰囲気をしていて、スタイリッシュな内装とゆったり目に作られた座席。おまけにオープンキッチンになっていて、店内のテーブル席だと石窯とバーカウンターも見えるらしい。案内されたテラス席も広くて静かな端のテーブル席に通されると、ナナミンのエスコートで椅子に座った。店員さんが広げてくれたメニューを受け取って、ナナミンと2人でメニューを見ながら唸った。

「どれも美味しそう過ぎて選べないんですけど…。」
「悩みますね…。」
「こういう時ってさ、やっぱりお手頃な値段のコースから楽しむべきなのかな?次に来た時はコースのランクを上げていく的な。」
「それは人それぞれ好みがあると思います。ですが、初めからランクの高いコースを選んだとして、グレードダウンしても満足できる店と、そうでない店はありますから難しいところです。」
「え、だよね、どうしよう、余計迷っちゃう〜。」
「コース料理でなくてもいいのでは?単品メニューのほうが、時間を気にせずゆっくりと食事もアルコールも楽しめるでしょう。」
「…天才?」
「普通です。」

折角のビアガーデンをのんびり楽しむために、単品メニューで注文することに決めた。注文するメニューを選んでいると、ナナミンの背後から近付いて来る見覚えのある男の姿に思わずサッとメニューで顔を覆う。え、え、なんでここにいるの!?私の様子を見たナナミンが「まさか…」と呟いた。ナナミンも気付いたらしい。固まる私たちをよそに、

「よお、」

その男は私の隣の椅子を引いて、どかりと座った。テーブルに頬杖をついて私の顔を隠すメニューを掴んだのは…、

「と、甚爾様…奇遇ですね!どうしてここに?」
「見覚えのあるいい女が、男と2人で歩いてるのを見ちまってな。何処の馬の骨と浮気してんのかと思って、邪魔しに来たってわけだ。」
「フーッ、」
「浮気だなんて人聞きが悪い…!そもそも私は誰とも付き合ってないですから。」
「あれだけ俺に結婚しろって言ってたくせに、悪い女だな。」
「子供の時の話ですけど!?ていうかなんで隣に座るんですか?甚爾様、今日は子供たちの体術の稽古入ってましたよね!?」
「言っただろ、邪魔しに来た。」

そう言って、パパ黒はナナミンに視線を向けた。ナナミンはサングラスを外しながら長い溜息を吐いている。ヤバい、なにこの修羅場。この場合どっちが間男!?いやどっちとも付き合ってないけどさ?!

「すみません理玖さん、私の判断が甘かったようです。」
「いやいや、私のほうこそなんかごめん。」
「俺を撒ける奴がいると思うか?」

パパ黒はニヤリと笑って私を見つめる。ヤダなにこの人、かっこいいんですけど!!って、今はナナミンとのデート中なんだから、早くパパ黒をなんとかしないと…。と言っても、今からご飯食べようってタイミングでどうしたものか…。ご飯奢るから見逃して♡とか言って聞いてくれる人じゃないよなぁ…。

「今から飯か?」
「そうですけど、甚爾様も食べるつもりですか?」
「ああ。邪魔しに来てるんだから当然だろ。奢れよ。」
「…奢れば大人しく帰ってくれるんですか?」
「建人君ダメ。甚爾様に一度でも奢ったら、死ぬまで集られるから。」
「よく分かってんじゃねぇか。おい、」

パパ黒は手を挙げて、待機していたホールスタッフを呼んだ。あ、嫌な予感がする…。だってパパ黒一回もメニュー見てないもん!!

「はい、お決まりでしょうか。」
「この店で一番高い肉。」

ほらねーーーーー!!!あ、あ、ナナミンの眉間にどんどん皺が寄っていく…!!!ごめんねナナミン…!なんかごめん、ほんとごめん!!

「ちょっと甚爾様、流石にそんな注文の仕方は…。ていうか、店の雰囲気見てくださいよ。絶対にスウェットで来ていい店じゃないですから、今日は出直したほうが「飯食うのに服装は関係ねえだろ。」甚爾様、TPOという言葉がありましてね?ご存じですか??」
「理玖さん、その言葉はブーメランです。」
「だまらっしゃい。」
「俺は金を払う気がねえが客だ。」
「ヤダこの人ジャイアニズムの人だ。」
「金っつーのは、持ってる奴こそ使うべきだろ。」
「さては伏黒さん、新台入れ替えで負けたんですね?」
「……、」
「甚爾様、いくら負けたんですか?」
「俺はまだ負けてねぇ。」
「それ、負けた人が言うセリフですよ。」
「なんでもいいだろ。腹減ってんだから飯くらい奢れよ。稼いでんだろうが。」
「あなたも非常勤講師として十分な給料を貰っているハズですが、」
「手持ちがねえ。」
「やっぱり負けてるじゃないですか。」

私たちのやりとりを、店員さんが困った顔で見ている。うん、本当にごめんなさいね?!とりあえず注文するか…パパ黒もお腹が膨れれば帰るかもしれないし…。単品で注文しようって話だったけど、それだとパパ黒の胃袋が満たされるまで注文が続くこと間違いなしだから、ここはコース料理にして頃合いを見て帰ってもらおう。そうしよう、うん!!

「えっと、すみません…とりあえずこのコースを人数分お願いします。」
「かしこまりました。お飲み物はこちらからお選びいただけますが、」
「折角だし、ボトルでワイン頼んじゃおうか。」
「いいですね。」
「ワインだなんて洒落たもん、いつから飲むようになったんだよ、」
「成人してからですよ。甚爾様は酔えないから飲まないですよね?」
「……グラスは人数分にしろ。」
「えっ、飲むんですか!?酔えないのに!?」
「たまに飲むくらいが丁度いいんだよ。」
「…では、グラスも人数分お願いします。」
「かしこまりました。」

注文を終えると、パパ黒は背凭れに腕を掛けて足を組み、私を横からじろじろと見つめた。刺さる視線に顔を向けると「ハッ」と鼻で笑われる。なんじゃい。

「理玖にしては大人しい格好だな。」
「このワンピースですか?」
「ああ。もっと胸も足も出せばいいだろ。」
「んまっ、これだから甚爾様は…!建人君の爪の垢を煎じて飲んでください。」
「……おい、七海が買ったのか。」
「…だとしたら、なにか問題でも。」
「ハイそこ、火花バチバチしないの!大体、私の私服を誰かさんたちが勝手に持って行くからいけないんですよ。」
「俺は知らねぇよ。」
「嘘おっしゃい!」

高専に帰ったら皆の部屋を抜き打ちチェックしてやるんだからっ!ふんすっ!なんて話をしている内に、注文していたワインとグラス、前菜が届いた。グラスに注がれた赤ワイン。3人で乾杯をして香りを楽しんでから一口飲んでみれば、口内に広がる芳醇な香りとタンニンのコク。うん、美味しい。

「久し振りに飲んだけど、ワインも美味しいね。」
「ええ。香りもいいですね。」
「そういえば、建人君は交流会での子供たちの頑張り見てくれた?」
「ええ、勿論です。」

コース料理が届くのを待つ間、交流会の話や、最近祓った呪霊の話をしていた。パパ黒は非常勤ではあるけど講師だから、稀に子供たちの引率で任務に参加することもある。3人で情報交換がてら子供たちの話をしたり、珍しい呪具や呪物の話をした。料理が運ばれてくるとワインはあっという間に1本、2本と空いていき…、

「…これぇらんもんめらっけ?」
「10本目です。理玖さんはもうやめた方がいい。チェイサーを、」
「やらあ!まらのむんらはら〜!きょうはぶれいこ〜なのら。」
「真昼間から酒に酔うとはいいご身分だな、理玖。」
「うるはい、おやふみなんらはら、らにしへもい〜〜にょ!」
「なんて言ってんだ?」
「料理もいただきましたしボトルも空になりましたから、そろそろ出ましょうか。」
「やらーっ!まらのむ〜!」
「ですが理玖さん、」
「らっへ…、しぇっかく、れーと…、」
「…フーッ、」

パパ黒が強制参加しちゃったけど、今日はナナミンとデートしてたんだし、もうちょっと楽しみたいもん…。パパ黒は余裕そうな顔をしてるし、ナナミンも顔色一つ変わってない。畜生…!

「とーじしゃま、ここればいばい!」
「あ?なんで俺だけ、」
「きょーは、けんろくんとのれーとらの!らからばいばい!まらあひた!」
「イヤだね。俺はとことん邪魔させてもらうぜ。」

パパ黒はそういうと、私の肩をグイッと抱き寄せた。うおお、おまっ!今頭揺らすなっ!

「まっ、ゔッ、っぷ、」
「理玖さん?!」
「…………れるかとおもっ…、うぅ、」
「おい、ここで吐くなよ。飲み込め。」
「……らいじょ、らいじょぶ、しぇりぇくちょ!」

【あなたは泥酔しています。選択してください。選択すると呪力を100消費します。(残り呪力:280)】
【1.アルコールを分解する 2.アルコールを分解し、排出する 3.アルコールを分解しない 4.アルコール分解せず、排出する 5.排出する 6.なにもしない】

いや待て待て待て待て、分解するは分かる、分かるよ?いや排出ってどっちから?!上?!下!?あと分解せず排出するってつまりどういうこと!?飲んだワインまんま出るってコト!?怖くないかそれホラーじゃん!!5番なんて特にどういうこと!?マジでどっちなの!?上なの下なの!?てかせめて排出するタイミングを教えて欲しいんですけど!?

「理玖さん?大丈夫ですか?」
「便所行くか?」
「伏黒さん、お手洗いもしくはレストルームと言ってください。」
「らいじょ、うん、うん、」

イヤでもこのままじゃ吐くかもしれないし、なにもしないという選択肢はなし…だとすれば…、1番!

【1.アルコールを分解する を選択しました。呪力を100消費しました。(残り呪力:180)】

わ、え、え!?すご!吐き気も腹部の膨張感も頭痛も、全部なくなったんだけど!?凄くない!?

「理玖さん?」
「あ、うん、大丈夫。酔い覚めた!」
「術式使ったのか。どうなってやがる。」
「イヤもうほんとビックリした、マーライオンになるかと思った…。久し振りのアルコールでワインって調子に乗っちゃダメだね、」
「じゃ、追加であと10本頼むか。」
「甚爾様は遠慮という文字を辞書で引いて来てください。」

お腹もいっぱいになったことだし、パパ黒にはこの辺りでお暇してもらおうかな。元々はナナミンとのデートだし、そろそろナナミンの機嫌も…ああほら、心底嫌そうな顔でパパ黒のこと見てて草。よし、そうと決まればセレクト!

【あなたは伏黒甚爾を帰らせようとしています。選択してください。選択すると呪力を150消費します。(残り呪力:180)】
【1.宝くじを当てる 2.競馬を当てる 3.競輪を当てる 4.ボートレースを当てる 5.パチンコを当てる 6.スロットを当てる 7.全て当てる 8.なにもしない】

マジかよ。セレクトってホントになんでもできちゃうじゃん…!!!いやぁ、これは7番一択じゃないか?!なにやっても当たるから行ってきな〜って言えばいい!?そういうことだよね!?よっしゃ、任せろ!!7番!

【7.全て当てる を選択しました。呪力を150消費しました。(残り呪力:30)】

「甚爾様、今から私が軍資金を渡します。」
「あ?」

財布から取り出した5万円をパパ黒に渡すと、パパ黒は怪訝そうな顔を私に向けた。でもその手はしっかりと5万円を掴んでいる。

「この5万円で好きに稼いできてください。これから全ての賭け事に勝つこと間違いなしです。神の子の私が言うんだからそうした方がいい。」
「……なにをした、理玖。」
「ズルしました。てへぺろっ☆」
「…ハッ、要は…邪魔者は消えろってことか。」
「言い方…。まあでも、甚爾様としても今日の軍資金分は確実に取り戻せる上に、それを上回る額の儲けが出ること間違いなしなので、私を信じて行ってらっしゃい!」

べちんっと背中を叩けば、パパ黒は渋々といった顔で立ち上がった。やっぱりお金は欲しいらしい。私が渡した軍資金の5万円をスウェットのズボンに押し込むと、気怠そうにうなじを掻きながらテラスから出て行った。よし、これでナナミンと2人きりになれたわけだけど…、

「ありがとうございました、理玖さん。」
「本当にごめんね、建人君…。甚爾様がこんなに粘るとは思ってなかったから…。もっと早くこうしておけばよかったなぁ…。」
「仕方ありません。私も警戒不足でした。」
「とりあえず出る?車は私が運転するから。」
「ええ、そうですね。」

ナナミンが伝票を掴んで立ちあがった。2人でテラス席を抜けてレジに行くと、ナナミンが支払う前に財布からクレジットカードを…、

「「ふっ、」」

どうやらナナミンも同じ考えだったらしい。2人でカルトンにカードを置いてしまい、顔を見合わせて噴き出した。いやぁ、ほんとにいい男だなナナミン…。スマートナナミン…これぞ大人オブ大人…!

「ここは私が。」
「さっきもそう言って出してくれたじゃん。私の方が年上だし上級なんだから、たまには後輩に奢らせてよ〜。」
「いいえ、デートなので私が出します。すみません、こちらで支払いをお願いします。」
「かしこまりました。」
「ありがとう建人君、体で返すね♡」
「TPOと言う言葉をご存じで?」
「やだそれ今日2回目じゃん!」

会計が終わって歌舞伎町タワーを出た私たち。このあとはどうするつもりなのかとちらりと視線でナナミンを窺えば、ナナミンも私を見ていた。うん、直接口に出さずとも、その顔に書いてあることは分かっている。

「とりあえず行く?」
「…ええ。ですが、突然のことで予約もできていません。」
「それは気にしないでよ!私が急に誘ったわけだし…!この辺りで良さそうなとこあるかなぁ…。学生時代に任務で行ったホテルもあった気が…、と思ったけど、別のところに行こうか。」
「ええ、是非ともそうしてください。」

ナナミンは私が言わんとしたことが分かったらしい。任務で行ったってことは私の他にも誰かがいたってことだと察したみたいだし。顔が凄くイヤそうでウケる。ごめんね悟!!!私もうっかり誰と来たか言いそうになったわ、危ない危ない…。ナナミンと腕を組んでホテル街を歩き、良さげな雰囲気のホテルを見つけて中に入った。ナナミンって歌舞伎町で遊ぶイメージなかったけど、歌舞伎町のホテルで良かったかな…なんて何回か思ったけど、ナナミンの機嫌は少し良くなったみたいだからそのまま部屋を選んでエレベーターに乗り込んだ。狭いエレベーターの中で腕を組んだままナナミンを見上げれば、ナナミンの手が私の頬をするりと撫でた。

「期待した顔をしていますね。」
「他にどんな顔してて欲しかった?」

私の言葉の答えはナナミンからのキスだった。



...



エレベーターが階に停まると、私は理玖さんの手を引いてカードキーに書かれた部屋番号を目指した。電子ロックにカードキーを添え、ガチャリと聞こえた開錠音にドアを開ける。彼女の手を引っ張って部屋に引き込むと、ドアに背中をぶつけないように手を添え、噛みつくようにキスをした。私がそうすると分かっていたかのように、理玖さんは私の胸板に手を添えて応えた。理玖さんからのデートの誘いには驚いたと同時に、久し振りに2人きりで過ごすことができる事実にガラにもなくはしゃぎそうになった。おかげでテーブルに蹴躓いてしまった上に、理玖さんのおふざけに付き合ってしまうほど浮かれてしまった。理玖さんの周りにはいつも人が溢れていて、私はそれを遠くから眺めるだけだった。生徒たちや友人らに囲まれて笑う彼女を見ているだけで、私の胸は不思議と安心するのだ。今日も彼女が笑って過ごせる世界でよかったと。いつだったか、私がまだ高専に上がる前に再会した彼女は、涙を流して私に「大丈夫って言って」と力なく縋った。あの頃の理玖さんはどうしてか、目を離せばふらりとどこかに消えてしまいそうなほど儚い存在だった。だからこそ、私は彼女の傍にいたいと思って自ら高専を選び、辛く苦しいこの世界の現実を理解した上で、彼女の傍に居続けようと呪術師として生きる道を選んだ。唇が離れて自然と見つめ合えば、涙に潤んだ瞳が私を捉える。彼女の瞳には不思議な魅力がある。見つめられれば目が離せなくなり、まるで心を鷲掴みにされたように私の胸を高鳴らせるのだ。

「建人君…、」
「理玖さん…、」
「ここでするの?」
「あなたが望むなら、ここでも、ベッドでも、」
「抱っこして?」

両手を広げて甘える姿は私よりも1つ年上だということを忘れてしまいそうなほど、幼くあどけなくてズルいと思う。きっと理玖さんの我儘を聞く男は、高専関係者のみならずごまんといることだろう。それほど彼女の存在が、声が、瞳が、仕草が、人を惹きつけてたらしめているのだ。そして私もその内の1人である。彼女の体を姫抱きにしてベッドに向かえば、理玖さんは私の首裏に腕を回したまま期待した目で私を見つめた。その視線に焼かれながらもベッドに彼女の体をそっと預け、キスをしながら彼女のサンダルに手を伸ばした。そっと脱がせたサンダルをベッドの下に並べ、私もスニーカーを脱いでベッドに上がれば、私を待っていたとばかりに彼女の手は私のジャケットに伸びて、ボタンを外しはじめた。

「そういえばまだ、意味を話していませんでしたね。」
「んぇ?なに?」
「私が理玖さんに服を贈った意味です。」
「…男が女に服を贈る意味と同じ?」
「ええ。」

私が言いたいことを理解したのか、それともすでに感づいていたのか、理玖さんはにんまりと口元を持ち上げて満足そうに笑った。

「それじゃあ、やっぱり私も建人君にこの服を贈りたかったなぁ?自分で買っちゃうなんて勿体ないことしたと思わない?」
「いいえ。私は私の意思で、あなたの前でしか肌を見せませんから。」
「わぁなにそれ、えっちだ。」
「なんとでもどうぞ。それよりも、今から私に抱かれるという覚悟はできましたか?」
「とっくの昔にできてるよ。」
「…それは結構。」

ジャケットを脱ぎ捨てた私を見て、理玖さんは体を起こした。ジャケットに続き、シャツのボタンを外す彼女の細い指。開けたシャツの隙間から私の肌に唇を寄せ、上目に見つめられ煽られる。私の胸板を滑った指先が臍に下り、ベルトのバックルに触れた。その手を掴んで止めれば、ねだるように私を見上げる彼女の瞳。

「まずは私から、」
「あっ、」

彼女の体を引き寄せて後ろから抱き締めると、耳元で低く囁くように名前を呼ぶ。私の声をその耳に焼き付けるように。後ろから回した腕でその体をしっかりと抱き締め、こめかみにキスをしながら彼女の隠された双丘に優しく触れた。もどかしいほど優しく、焦らすように。私に触れて欲しいと彼女から求めるように。

「んっ、」
「理玖さん…、」
「ぁ…はぁ…、建人君…、」

私の胸板に凭れて身をよじる彼女の姿は目に毒で、既に重たく熱を持つ私のそこに彼女も気付いていることだろう。これは我慢比べに近い。私の理性が勝つか、彼女の誘惑が勝つか…。ワンピースの上から彼女の膨らみの先端を探るように撫で、指先で擦るように刺激していく。同時に形のいい耳の輪郭を唇で啄み、わざと息を吐きかけてやれば、私の腕の中でくねくねと身を躍らせる理玖さん。漏れた甘く魅惑的な吐息で名前を呼ばれ、ぐんっと引っ張られてほつれ掛けた理性の糸。なんとかそれを結びなおして、お返しとばかりにその耳に低く囁いた。

「どうしましたか、理玖さん。」
「んもう…っ、あっ、ヤダぁ…、焦らすのやめて…ッ、」
「焦らしてなどいません。」
「ンぅ、っは…あぁっ、」

左手で膨らみの先についた蕾を可愛がりながら、右手で彼女の下腹部を撫で回した。そのまま太ももまで下った右手で、長いワンピースの裾を焦らすようにゆっくりと引き上げていく。理玖さんは我慢ができないとでもいうように、自ら裾を掴んでたくし上げた。露わになった柔らかそうな太ももを撫で回しはするが、彼女の望むそこには触れない。

「ん…も、お願い…ッ、」
「なんです、」
「ッは、あ、もう…、触って…ッ、」
「どこに、どう、触って欲しいんですか。」
「ぁッ♡」

耳に触れた吐息にぶるりと震えて甘い声を漏らす理玖さんを愛おしいと思う反面、この姿を見れるのは私だけでないということに嫉妬してしまう。理玖さんの特殊な術式が関係して、誰とも正式な交際をしていないことは私も知っているし理解している。故に彼女を思う者たちを拒めずに、体の関係があることも事実。私もその内の1人であることも重々承知しているが、なれることならば理玖さんの特別になりたい。…そう思っているのは私だけでないことも勿論知っている。だからこそ、そんな彼女との逢瀬を邪魔されまいと気を配ったにもかかわらず、伏黒さんに見つかってしまった。結果的には諦めて退散してくれたものの、私と理玖さんがこうして2人きりで過ごしている事実を知って放っておくような男ではないだろう。私に見せつけるように上書きされるに違いないが、今この時だけは私だけが彼女を独り占めできる事実をありがたく思う。長く焦らされた体が疼いてしかたがないのか、理玖さんは私の右手を掴んで自らそこに導いた。私の手を、ショーツ越しの蜜壺に擦りつけて身をくねらせる姿に心が躍る。

「早く…、触って、ここ、」

目に涙を浮かべて上目に私を見つめる理玖さん。ワンピースを脱がせて下着姿にすると、彼女の体をそっとベッドに仰向けに寝かせた。フロントホックのブラジャーを外せば、締め付けから解放された柔らかそうな乳房が揺れて酷くいやらしい。ピンと存在を主張する先端にそっとキスを落とす。甘い声を漏らして更なる刺激を求める彼女の姿を目に焼き付けながら、焦らすように舌で舐め上げて転がし、啄むように吸いついた。

「あっ♡あ、はぁッ、んっ♡」
「期待していたようですね、」
「んぅっ、だってぇ…、」
「始めからその気で私をデートに誘ったんですか?」
「うん…っ、ダメだった…?」
「…いえ、デートの相手に選ばれて光栄です。選ばれたからには、あなたを満足させたいと思っています。」
「建人君…、」

キスをしながら両手で彼女の乳房を弄び、ゆっくりとくびれから下腹部に、下腹部から太ももへ下っていく。彼女の両足をそっと広げると、ショーツ越しでも分かるほど濡れたクロッチ。指先で押すように撫でれば、いやらしく立った水音。

「ここまで濡れてしまっては、替えのショーツが必要ですね。」
「それも、買ってくれるの?」
「ええ、勿論。私だけがそれを脱がせる権利を得るわけですから、いくらでも贈ります。」

ショーツをするりと抜き取り、蜜壺から溢れる蜜を舌で舐め上げれば、甘く漏れた彼女の甲高い声。理玖さんの体は不思議なことに、蜜のように甘くて眩暈がするほどいい香りがする。甘く熟した果物のように蜜を垂らし、かぐわしい香りで周りの者を魅了する。そして一度知ってしまえば、二度と他には手を出すことも目移りすることもできない。それほどまでに彼女は魅力的であり、誰しもが彼女を求める理由も分かる。蜜壺の上で今か今かと期待に震えるその小さな突起に吸いつけば、私の頭は彼女の両手にグッと押しつけられた。しかしそれは苦ではなく、むしろ私を求めてくれている事実に嬉しく思う。優しく舌で転がし、ピンピンと弾くように舐めては吸いつき、緩急をつけるように刺激を与える内に甲高く上がった甘い声。くたりと力の抜けた彼女の太ももを肩に乗せて両手の指を絡めて握ると、再び赤く膨れたそこを気の済むまで舌で可愛がった。

「あぁッ♡あっ♡待って♡イったばっかりなのに…ッああぁ♡」
「知っています。」
「あっ、ぁっ♡建人君ダメッ♡吸っちゃダメッ、あ…ッぅう♡」

ダメと言いつつも、腰を揺らして刺激を求める姿すら愛おしい。優しくそれを啄んで吸いつけば、漏れる声を我慢しようと呻くように上がる声。それすらも愛おしくて堪らない。ピクピクと震える太ももに挟まれながら、泉のように溢れ出た蜜を止めることすらできず啼く彼女の姿を目に焼き付けた。シーツにじわじわと広がるシミ。止まらない蜜で指を濡らして蜜壺を塞いでみれば、私の指にきゅうきゅうと絡みつく柔らかい肉壁。この中に早く挿入りたいと思いつつも、それは自分勝手な欲というもの。彼女が私を求めてくれるまで、彼女の体を悦ばせることに心血を注ぎたい。ザラつく内壁を探り当てれば弾む腰。優しくトントンと指でタップするように愛撫しながら、同時に彼女の太ももや蕾に啄むようなキスを落としていく。すぐに上がった甘い声と、刺激に震える艶やかな裸体。いやらしく立つ水音を聞かせながら太ももの間から視線を注げば、私の指はさらにその柔らかく温かい肉壁に包まれた。涙を浮かべながらも蕩けた眼差しが私を見つめ返している。見せつけるように太ももを舐め上げて理玖さんの弱い一点をじわじわと責め立てていくと、シーツの上で身をくねらせた彼女は後ろ手に枕を掴んだ。

「ぅあ゛あッ、ダメッ、イくッ♡イくぅうッ♡ぅやあっ♡」

ビクビクと腰を弾ませて絶頂に震える彼女の体は、いやらしくも美しい。噴き出した飛沫を浴びながら愛撫を続け、その体を快感の深い波に攫わせようと追い込んでいく。息を詰まらせるほど追い込まれた彼女が逃げようとすればするほど、私という深みにハマっていく姿は見ていて飽きないというもの。私の名前を呼びながら私を求めるその姿に、結びなおした理性の糸が少しずつ緩んでいくのを感じた。

「も、だめっ、はやくッ♡けんとくん、はやくキてぇ♡」

そういって私に向けて手を伸ばした理玖さんを宥めるようにキスを落とせば、彼女の方から私の舌に吸い付いてきた。それほどまでに私を求めてくれている事実に嬉しく思いながらも、ガッツき過ぎないようにと自身にブレーキをかけ続ける。ここでみっともなくガッツいてしまえば、彼女を知っている他の男たちと同じである…そう自分に言い聞かせた。舌を絡め合いながらも愛撫はやめなかった。肌を擽るように指先で撫で、指の腹で優しく蕾を撫でまわす。敏感になった彼女の体は、私から与えられる僅かな刺激ですら大袈裟に拾い上げるらしい。自ら私の腰に足を回して、早くとねだるようにその入り口を私の腰に宛がう姿すら美しく愛おしいと思う。そこまで彼女に心酔してしまっている哀れな自分を慰めようと、ベッドボードに置かれた備え付けのスキンに手を伸ばした。

「やだぁ、つけないで…っ、」
「…ですが、」
「サイズ、どうせあわないでしょ、」

図星。手に取ったスキンは私にはかなり窮屈なサイズだった。しかしながら、男のエチケットとして避妊は必須。…そうはいったものの、学生時代に既にスキンを付けずにまぐわった日のことを思い出し、どうするべきか少し悩んだ。私が挿入を渋っていると察したのか、理玖さんは自ら私の熱を掴んでその入り口に宛がうと、またしてもねだるように艶やかな唇でその二文字を紡いだ。「キて」と。

「本当にいいんですか?」
「だいじょうぶだから、キて…?」
「…万が一のことがあれば、」
「ねえ、おねがい、いいからキて…、」
「…理玖さん、」

自ら私の剛直を受け入れた彼女は、うっとりとした顔で私を見上げて艶のある甘い息を漏らした。私を包み込んで絡みつくその中は、さらに私を奥へと招くように収縮を繰り返していた。腰を押し沈めてその誘いに乗ると、彼女の体を押し潰さないようにゆっくりと覆いかぶさる。彼女の中が私に馴染むまで、互いに唾液を塗りつけるように舌を絡め合った。

「理玖さん、」
「んぅ、」

ゆっくりと抽挿を繰り返して彼女の体を揺さぶった。その度に上がる嬌声が心地よく、私の脳をどろりと溶かしていく。深みにハマっているのは私の方だった。理玖さんという深みにハマって、情けなくも飢えた獣のように一心不乱に腰を打ち付けた。荒く漏れた私の息遣いにすら、彼女は興奮してくれるらしい。覆いかぶさった私の頬を撫でながらうっとりと「きもちい?」と聞かれ、返事の代わりにその唇をキスで塞いだ。なんと情けない。あれほどまでに固く結んでいたハズの理性の糸は、今では嘘のように解けてどこかに流されてしまっている。ズルい人だ…本当に…。

「けんとくんっ♡すきっ♡すきぃっ♡もっと♡」
「理玖さんっ、」
「ああだめっ、イくッ♡イくぅッ♡んぅう〜〜ッ♡」
「…足りない、」
「あ゛うッ♡っぐ、らめっ♡いまらめえッ♡」

私の背中に爪を立てて縋り付く彼女の体を、繋がったまま抱き上げた。対面座位になったことでさらに深く私を受け入れたからか、理玖さんは苦し気に唸るような声を上げながらも、ビクビクと絶頂に震えた。押し付けられた柔らかい双丘に顔を埋め、優しく啄むようなキスを落とす。ぢゅっと強く吸い付けば、朱く咲いた欲の華。私が咲かせたこの華が、彼女の柔肌で永遠に咲き続けてくれたならどれほど幸福なことだろうか。私だけの女神であり続けて欲しいと願えば願うほど、手に入らない彼女の心。愛おしくも、酷く恨めしい。理玖さんへの愛はとめどなく溢れるばかりなのに…、

「愛しています、理玖さん、」
「あッ♡うれしぃ♡もっといって…♡」
「…愛しています、」
「わたしもっ、けんとくん、あいしてるッ♡」

私の愛に応えてくれるならば、早く私を選んでほしい。言うだけ無理な話なのは分かっている。…今はただ、彼女のすべてを独り占めできていることを幸せだと思うことにした。背中に感じたヒリつく痛みすら幸せであると。

「もっと…っ、」
「理玖さん、」
「うあ゛ッ♡そこすきっ♡おくしゅきッ♡」
「んっ、…クソッ、」

久し振りの行為だったせいか、私を締め付ける彼女の中に呆気なくも果ててしまった。私の吐き出した熱を受け止めてピクピクと震える彼女を抱きしめる。汗ばむ互いの肌が張り付く感触すら、不思議と心地よく感じた。互いに軽く弾んだ息のまま見つめ合ってキスをすれば、理玖さんは私を煽るようにくすりと笑った。

「もうおしまい?」
「…冗談を、」
「あんッ♡」

私よりも細く薄い体をベッドに転がして四つん這いにさせると、誘うように揺れる彼女の柔らかい尻たぶを叩いた。後ろからその体を貫いて、細いくびれを掴む。終わりなわけないでしょう。料理で言うなればメインディッシュであるこの行為が、たったの一口で終わるなど。

「あうっ♡あっ、あ゛っ、きもちいッ♡けんとくんっ、すきっ♡もっとシてっ♡んあぁッ♡もっとぉ♡たりないッ♡」
「煽るのがお上手で。」
「んふっ♡」

他の男と比較するような含みのある笑いに、私の眉間に皺が寄る。強引な行為は少々気が引けるが、そうなるように私を煽った理玖さんが悪い。煽りに乗じて後ろから激しく攻め立ててやれば、前のめってシーツに縋り付くその体。煽られたからにはいくら止めるように言われても止める気はない。悲鳴にも似た声を上げる彼女の後ろ姿が、ますます私を煽っているように思えた。絶頂にしなる体に休ませる暇など与えない。肌がぶつかり合うたびにだらしなく漏れる声と、嬉しそうに私を締め付ける彼女の中。普段の上品で美しい彼女の姿からは想像できないほどのこの淫らな姿を、私以外の男にも見せていることが腹立たしい。その怒りをぶつけるように腰を打ち付けてやれば、悲鳴を上げた彼女の中から噴き出した飛沫がシーツに降りかかった。

「…変態。」
「あ゛ゔっ♡」

ベッドに押し付けるように彼女に覆いかぶされば、強すぎる快感から逃げようとするその体。それを許すまいと脇の下から腕を通してホールドすると、彼女の中はまたしても悦んだように私を締め付けた。耳元で「逃げるな」と低く囁くだけでも、今の理玖さんには刺激が強すぎたらしい。

「ごめんなさっ♡んやっ♡あ゛ッ♡イくッ♡イ゛ぐッ♡」
「イきたいですか?」
「ゔっ、んうッ♡イきたいッ♡イ゛きたいっ♡」
「今は私のことだけを考えること。他の男を少しでも思い浮かべたら許しません。いいですね?」
「はぃ♡ごめんなしゃっ♡けんとくっ、ごめんなしゃい♡」
「…よろしい。」

ぽろぽろと流れる涙をキスで拭い、彼女の奥をめがけて杭を打つように深く腰を打ち付ける。シーツを握りしめるその手を下から握って指を絡めれば、私の手の甲に食い込む彼女の形のいい爪。髪の間から見えた赤くなった耳を啄み、荒くなった息を吐きかけるだけでもその口から漏れる嬌声。キスをねだる唇を横から塞げば、私を見つめる蕩けた瞳と目が合った。




目を覚ましてすぐ、私の腕の中で静かに寝息を立てている理玖さんが目に入った。はて、何度彼女の中で果てただろうか。途中で退室時間を迎えたが、何度も利用時間の延長をした気がする。布団の隙間から見えた彼女の胸元には、私が咲かせた朱い華が咲き誇っていた。起こさないように時計を探して時刻を確認した私は、4時半と表示しているデジタル時計に額を抑えて溜息を吐いた。…やってしまった…。深夜の4時半である。高専に戻らなければ明日…いや、日付的には今日の任務に支障をきたすかもしれない。すぐに仕事のことを考えてしまうところが、私の悪い癖だろう。スマホはどこに置いただろうか…。そうだ、脱ぎ捨てたジャケットのポケットに…ということは床に放ったままだろう。伊地知君は私と理玖さんが2人で出掛けていることを知っているし、伏黒さんは私と理玖さんがデートをしていたことを知っている。…とすれば、彼女を溺愛してやまない五条さんと夏油さんにも、私と理玖さんが一緒にいることは知られているハズ…。

「フー…、」

高専に戻ったら面倒なことになりそうだ…。今から理玖さんを起こして身支度をするとなれば、部屋を出るのは何時になるだろう…。有料駐車場に車を停めていたことを思い出して、駐車してから何時間経っただろうかと頭の中で計算する。

「…んぅ…、」
「…フッ、」

私の腕の中で小さく身じろいだ理玖さんに自然と頬が緩み、考えていたことが一瞬でどうでもよくなってしまった。

「…理玖さん、」
「ん…、」
「起きてください、高専に帰りますよ。」
「…んぅ〜…、」

子供のようにあどけない彼女の寝顔が見れたことを嬉しく思う。起こしたくない気持ちはあるが、私も彼女も仕事がある以上そうは言っていられない。名残惜しさに後ろ髪を引かれる思いで理玖さんの肩を優しく揺さぶった。眉間に皺を寄せて瞼を震わせた彼女を愛おしく思いながら、その瞳が私を映すのを待つ。

「…ん…、もぉあさぁ…?」
「ええ、高専に戻る準備をしなければ、」
「…んぅう…もうちょっとねたいよぉ、」
「私も同じ気持ちです。ですが、理玖さんは子供たちの授業があるのでは?私も任務が入っています。」
「…うぅ…、」
「理玖さん、」
「ん…わかってる…、」

ゆっくりと体を起こした理玖さんに続き、私も体を起こした。2人で浴室に向かい、シャワーを浴びて身支度を済ませると、ホテルの部屋を出て車を停めていた駐車場を目指した。理玖さんが先に車に乗り込んだのを確認し、精算機の案内に従って料金を支払うと、運転席に乗り込む。助手席で既にシートベルトを締めていた彼女は、目の前のグローブボックスを漁っていた。

「なにかお探しで?」
「充電器ないかなって。私も建人君も、部屋に戻って充電してる暇はないだろうからさ、」
「…そうですね。なければ近くのコンビニで買いましょう。」
「あ、あった!1本しかないから交代で使う?建人君のスマホ貸して。」
「どうぞ、」

ポケットから取り出したスマホを彼女に渡し、私はシートベルトを締めて車のエンジンを掛けた。そしてふと、トップ画面に設定していた写真がなんだったかを思い出したが…時すでに遅し。

「…あ、」
「あ、」
「…ふ〜ん?」

充電器が挿し込まれた私のスマホのトップ画面を見た彼女の顔が、見る見るうちに緩んでいく。やってしまった…。あのビアガーデンでメニューを見ながら、風に靡いた髪を押さえた彼女の姿をこっそりと撮っていた。その写真を私がトップ画面に設定していたことを知り、ニヤニヤと笑いながら私を見る理玖さんに、

「…フー…、」

私は誤魔化すように息を吐いて、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。




――――――
kagula様へ
グッズ代行のお礼夢、大変長らくお待たせ致しました…!
『理玖ちゃんとナナミンのデート中にパパ黒乱入、嫉妬で強引からのいちゃらぶえっち』といったリクエストでしたが、いかがでしょうか?
お気に召していただける内容になっておりましたら幸いです🥺💓
その節は大変お世話になりました、ありがとうございます!😭💕
またのお越しをお待ちしております!
いっぱいちゅきです🥰💓

赫
――――――
image song
あなたを思い続けて(feat. アンドレア・ボチェッリ)
デイヴィッド・ギャレット



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