「あだっ!」
ベッドから落ちて目が覚めた。目覚まし時計がけたたましい音を鳴らしていた。渋々起き上がり、ベッドサイドの目覚まし時計を止める。打ち付けた腰をさすりながらベッドに再び横たわる。
ぼんやりする頭で天井を見つめる。今日はバイトも出かける予定もない。土方さんとの見合いをするに当たって、バイトをかなり減らしてしまった。今は日中の定食屋と、時々頼まれる居酒屋しか行っていない。以前は毎日朝から晩までバイトを詰めていたので、予定が何もないとなにをしていいのかわからない。無趣味であることを初めて後悔している。
目を瞑ってみるけれど腰の痛みで目が冴えて二度寝はできそうにない。諦めて起きようか考えていると、腰に続いて腹部に衝撃が走った。吸い込んだ酸素が破裂するように噴き出される。
「ぐふっ!」
「おねーちゃんまだ寝てるのぉ?」
体の上には妹の百々子が倒れ込んできていた。そのままゴロンゴロンと回転するものだから私は呻き声を上げながら無理やり百々子を引っぺがした。きゃー、と百々子は楽しそうに床に落ちていった。時計の針は九時過ぎを指している。とっくに学校の始まっている時間だ。
「百々子、学校は?」
「今日土曜日だよー」
「ああ、そうか……やべーな曜日感覚がない……」
寝ることを許されない環境になってしまった。仕方なく部屋を出ると、百々子は私の腰に腕を回して後をついてくる。それはもう屈託のない笑みを浮かべて。贔屓目を除いても可愛いと思う。しかし私の子どもの頃とは比べものにならないほど無邪気で純真な百々子を見ていると、心配にもなる。
リビングは無人だった。付けっぱなしのテレビではスポーツニュースが流れていた。父がいないことはいつものこととして、お母さんがいないのは珍しい。百々子に聞くと、婦人会の集まりがあるらしい。
百々子は私から離れてソファーの上に座り、クッションを抱いた。
「おねーちゃん、今日はどこも行かないの?」
「んーどうしよっかな……」
「暇なら一緒にゴロゴロしよーよ」
「あんた宿題あんでしょ、それ片付けなよ」
「えぇ〜」
キッチンでオーブンに食パンを入れる。百々子はテレビを興味なさげに見ながら文句を垂れている。やれ課題が多いだの塾も習い事も飽きただの色々溜まっていることがあるようだ。
百々子と私は腹違いの姉妹だ。百々子は私の母が亡くなった後に父が再婚した相手との娘だ。義母は私の母と違い、真面目で良識ある人で、とても穏やかな人柄をしている。実の娘ではない私にも何のてらいもなく接してくれる。そんなよく出来た人がなぜ父のような男と結婚したのか甚だ疑問である。
父は百々子のことはまさに目に入れても痛くないと言わんばかりに可愛がっている。何かと気にかけることはもちろんだが、尽くせる限りの英才教育を施している。学習塾に始まり、ピアノ、水泳、書道などなど。この世に生まれて十年と経たない女の子に課すには厳しすぎるのではないかと思う。しかし、それだけ父は百々子に期待をしているのだ。
食パンがトーストに変わる。ブルーベリージャムを適当に塗ったくって、百々子の斜向かいのソファーに座る。ニュースに飽きた百々子がザッピングする。一つのチャンネルで、ザッピングが止まった。
「うわ、なにこれ立てこもりだってぇ」
画面には古ぼけたビルと人だかりが映し出されている。リポーターのアナウンサーが現場の緊迫した状況を深刻な表情で伝える。
『こちら現場の花野です。こちらのXXXビルに立てこもっている犯人は人質を盾にとっています』
立ち入り禁止のテープの外には野次馬が集まっている。カメラはビルの窓から拳銃片手に何事かを喚く犯人に寄り、再びアナウンサーを映した。江戸では度々こういう物騒な実況中継が報道される。私はパンをかじりながらフーンと眺めていた。が、テープの内側に映った人影に、思わずパンを喉に詰めてしまった。
テレビの中には、黒い隊服に身を包み、メガホンを持つ土方さんがいた。眉間に皺を寄せ、険しい顔付きで周りの隊士たちに指差し何か指示を出しているようだ。
「っ……げほっ!」
「え⁉おねーちゃんどしたの⁉」
「ぐっ、ちょ、ゴホっ、水っ」
「水?ちょ、ちょっと待って」
百々子が慌ててコップに水を注いでくる。喉に詰まったパンを流し込み、涙の滲んだ目を擦る。画面には土方さんが何度も見切れる。そういえばあの人、真選組だった。しかも副長、ナンバー2だった。今までテレビに真選組が映っても大して気にならなかったけれど、いざ知り合ってしまうと否が応でも目に留まる。
パンが胃に落ちていく。百々子が「そういえば」とソファーに座り直す。
「おねーちゃんのお見合い相手って真選組の人なんでしょ?」
飲み込んだ水が逆流するかと思った。今日は気管の厄日か。百々子にはお見合い相手のことなんて話していないのに、なんで知っているんだ。口元を拭って息を整える。
「そうだけど……」
「どの人?なんか偉い人なんでしょ?カッコイイ?映ってないの?」
「う、映ってないよ」
「うそだ〜」
テレビにかじりつく百々子。どの人?としつこく訊かれるが私は黙することを決めてひたすらパンを食べた。水も全て飲み干したところで、逃げるようにキッチンへ向かいコーヒーを淹れる。香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。百々子には牛乳と砂糖を足してカフェオレにして持っていく。テーブルにマグカップを置こうとすると、テレビから爆発音が轟いた。百々子は体をぴょんと跳ねさせた。私も驚いて画面へ目が釘付けになる。
『ああーっ!なんということでしょう!なんと真選組がビルに向かってバズーカを放ちましたっ!すごい煙です!ゲホッ、ゴホッ、犯人の要求を一切無視!ゴホッ、ちょ、煙が……!次々とっ、隊士たちがビルに突撃していっています!ゴッホ!ラッセン!ゴッホ!』
画面の中が煙に包まれ、アナウンサーは激しく噎せる。その隙間で、大勢の真選組隊士がビルに向かって駆けていく様が見える。私は土方さんの姿を探していた。しかし、カメラはその姿を映してくれない。もどかしい思いで画面を見つめていたけれど、銃撃音や金属音が鳴り響き始めると、画面はスタジオへ切り替わってしまった。
「あ、変わっちゃった」
百々子は乗り出していた身を戻し、ソファーへ背を凭れさせた。私もコーヒー片手にしたままソファーに戻った。スタジオではキャスターが事件のあらましを喋っている。フリップも間に合っていないようで、文字は全て手書きだ。そうしているうちにコマーシャルへ入り、開けると速報が通達された。キャスターが渡された資料を読み上げる。
『えー、先程の立てこもり事件、今、真選組が犯人グループを取り押さえたと速報が入りました。幸い人質に怪我人はいなかったようですが、放たれたバズーカによってビルは崩壊が著しい模様です。えー、またビルの裏側から数人が出ていく姿を見たという目撃情報も入っています。真選組が後を追っているようですが、近隣にお住まいの方は外出を控えてください』
キャスターは同じ文章を二度繰り返し読み上げた。そしてコメンテーターへ意見を求める。小太りの眼鏡をかけたコメンテーターは、苦い顔で腕を組む。
『真選組は一部でチンピラ警察と揶揄されていますからねぇ。武装警察とはいえ、もう少し平和的解決はできないもんですかね』
その言葉に周囲のコメンテーターたちはわざとらしい神妙な顔付きで頷く。キャスターも同調し、また真選組に批判の声が集中するかもしれません、と締めくくった。百々子は迫力ある中継が終わってしまって退屈になったのか、天井を仰いで伸びをした。そして自身の見解を暢気な口調で話す。
「でもさ〜結局けが人出なかったんなら別にいーんじゃないのぉ?」
「……それだけで片付けられない人もいるんじゃない」
「そうなの?おねーちゃんも?」
「……どうかな」
曖昧な私の返事に百々子は首を傾げた。コーヒーを一息に飲み干し、席を離れる。キッチンで洗い物をして、ちびちびとカフェオレを飲んでいる百々子の丸っこい頭を撫でる。艶やかで細い黒髪はとても指触りが良い。
「用事思い出したから、おねーちゃん出かけるわ」
「えーったまには課題見てよぉ」
「あんたにわかんないものが私にわかるわけないっつーの」
頬を膨らませる百々子に、じゃーね、と手を振る。百々子が日々持ち帰ってくる宿題は私にはさっぱり解けない問題ばかりだ。自由に友達と遊ぶ時間もなく、かわいそうだと思うことは多々ある。それでも私は、どこかでそんな百々子を羨ましくも思っている。私が受け得なかった愛情を与えられている。だからと言って、無邪気に慕ってくる百々子を疎ましいなどと感じることはない。色々な感情が交錯してはいるものの、私にとっては百々子が大事な家族であることに変わりないのだ。
身支度を済ませて家を出る。携帯電話でニュースサイトを立ち上げると、トップに先程のビル立てこもり事件の記事が載っていた。ビルの場所を調べると、バスで行ける範囲にある。今更行っても、土方さんは既にいないかもしれない。それでも足が向いてしまう。
バスに乗っている間、ニュースサイトの記事を読み漁った。人質に怪我人は無し、しかし真選組には怪我人複数。どこにも死者という記載はなかった。
真選組副長とお見合いをすると決まって、父から少しは相手のことを知っておけと言われた。真選組と言えば、幕府の命を受けた特別武装警察。私の解釈を言えば、ただの警察官だった。しかし時々テレビで見る姿はまさにチンピラだった。物騒で口が悪く、事件があれば武力行使で解決する。まさに武装警察である。とは言え、善良な一般市民の私には関わりのない人たちだった。
ビルの最寄りのバス停で降りる。通行人が多く、マスコミらしい人影も多々あるが、テレビで見た大勢の野次馬はいなかった。焦げて半壊状態のビルを囲う黄色いテープの周りには黒い隊服がちらほらと見受けられる。辺りを見回していると、エンジン音が私の背後で止まった。振り返ると、スクーターに乗った銀さんがいた。
「銀さん」
「おー。なんか見覚えのある後ろ姿だと思ったらナマエちゃんじゃない」
鼻をほじりながら「何してんの?野次馬?」と訊ねられる。土方さんを探しにきたとは言えず、適当に頷く。
「まあそんなとこです」
「意外にミーハーなのな。そういやさっき、土方のヤローそこで見たけど」
「え⁉どこでですかっ……」
私の食いつきに、銀さんがにやりと笑う。しまった、と後悔したものの時既に遅し。銀さんは口角を吊り上げたままだ。
「やっぱりおたくら、そういう関係なんじゃねーか。健気だねぇ、心配して会いにきたんだ?」
「いや違うんですマジで」
「いーからいーから隠さなくて」
「ほんと違うんですてっば!」
「じゃー何、どういう関係なの」
「どっ」
どういう関係と言われても、と口籠る。見合い相手といえば手っ取り早いのだが、語弊がある。再三感じていることだが、土方さんに私と結婚する気があるとは思えない。答えあぐねていると、銀さんはハンドルに肘をつく。
「つーかさァ、ただの安否確認なんだろ?わざわざここまで来なくても、電話で良くね?」
目から鱗。そういえば、土方さんの連絡先はちゃんと登録してあるのだった。私は携帯電話を取り出す。しかしバッテリーが残り僅かになっている。バスの中でニュースサイトを見過ぎたせいだ。
「うわぁぁ何やってんだ私……!」
「ナマエちゃん一人百面相?」
しかし望みはまだある。電話帳から土方十四郎の名前を探し出し、発信ボタンを押す。そういえば土方さんに電話をかけるのは初めてだ。特別用事がなかったし、会うときも土方さんは必ず待ち合わせ時間よりも早く来ているからだ。
コール音が鳴る。一回、二回、三回、と鳴り続け、唐突にコール音が止まった。反射的に「もしもし」と言うが、電話口から応答はない。画面を見てみると、充電してください、の文字が並んでいた。もっとまめな性格なら、出かける前に多少充電してくるなりしていただろうが、私にはそんな律儀さはなかった。
肩を落とす私を銀さんはつまらなさそうに眺めていた。ここで優しい言葉や励ましの言葉をかけないあたりが、この人の性格を物語っている。
「絶対イタ電だと思われる……」
「よくわかんねーけど、ナマエちゃんが思ってるほどアイツはヤワじゃねーよ?」
死んだ魚のような目が私を見ていた。銀さんは顎でビルのほうを指す。
「こんなんが日常茶飯事の連中だ。心配するほどのことじゃねーって」
私は携帯電話を握ったまま、ビルを見遣る。バズーカの火力のせいで焦げたコンクリートに、割れた窓ガラス。きっと屋内は外から見るよりもひどい状態なのだろう。想像もつかないが、土方さんはそういう、私には想像もつかないような、常に死と隣り合わせの世界で生きている人なのだ。私の隣を歩く仏頂面でぶっきらぼうで、時々優しい土方さんの顔は、結局彼の一部でしかない。
「そー……ですね」
銀さんはヘルメットを脱ぎ、それを私の頭に乗せた。
「まーよくわかんねぇけど、送ってやっから後ろ乗れや」
スクーターにエンジンがかかる。私は再度ビルを一瞥し、銀さんの後ろに乗り込む。スクーターがゆっくりと走り出すと、風が頬を切って気持ちが良かった。振り落とされないように銀さんの着流しを掴む。銀さんが何か言いたげに首を少しだけ捻ったけれど、何も言われなかった。
自宅までの道を告げると、銀さんは迷いなく道を行き進んだ。万事屋を営んでいるだけあって、地理には明るいらしい。バスとは比べ物にならないほど早くに家に着いた。門前でスクーターを降り、ヘルメットを銀さんへ返す。
「ありがとうございます、今度甘いもの奢りますね」
以前私のせいで土方さんに蹴り飛ばされていた分も合わせて、美味しいケーキでも買ってこよう。銀さんは締まりのない顔を緩ませて目を輝かせた。
「おーマジでか。つーかナマエちゃんさァ、感触なくてつまんなかったから次乗るときはもっと肉つけておっぱィッツ」
銀さんの頭が引っ叩かれた。背後にはちょうど振りかぶった掌を下ろすところの隊服姿の土方さんが立っていた。
「てめー白昼堂々なにセクハラしてんだよ」
煙草を咥え、こめかみに青筋を立てている。どうして土方さんが家の前にいるのか疑問が浮かんだが、それよりも気になったのは、土方さんの頭に巻かれた包帯だった。しかし私の口よりも先に銀さんが動く。
「ってーないきなり何すんだ暴力警官!」
「ああん?セクハラヤローの取締りだろうが。公然猥褻罪でしょっぴくぞコラ」
「てめーの女を送ってやった男に対して言う台詞かそれが!」
「ああああ銀さんだから違うんですってば!」
加熱していく喧嘩に無理やり間に入る。二人は互いに睨み合っていたが、土方さんの視線が私に突き刺さってくる。私は蛇に睨まれたカエルのように身を固くする。
「オイ、なんで電話出ねーんだ」
「えっ」
「え、じゃねーよ」
険しい顔ですかさずツッコミが入る。
「電話、充電切れちゃって……あ、あれですよね、私が電話したからですよね!イタ電じゃないんですスイマセン!」
勢いよく頭を下げる。顔を上げられずにいると、背中にずしっと重みがのしかかってきた。真正面にいる土方さんではない。隣にいる銀さんが肘を私の背中に置いている。
「オイオイ女に凄むなよ大串くんよぉ」
「誰が大串くん⁉」
「銀さん?重いんですけど」
「女に頭下げさせるなんてモテ男のやることですかァ?」
「っせーな、てめーにゃ関係ねーだろ」
「あの、重いんでどいてからやってもらっていいですか」
腰を直角に曲げたままの体勢はさすがにきつい。ようやく銀さんが腕を離してくれると、私も体を起こす。土方さんは相変わらず険しい顔のままだ。それはおそらく、銀さんと対面している以上は変わらない。
銀さんはフン、とそっぽを向いて頭にヘルメットを被り、スクーターに乗る。晴天の下で銀という文字の刻まれた車体が鈍く光っていた。
「痴話喧嘩にゃ付き合ってられねーからけーるわ」
「喧嘩してたの銀さんと土方さんですけど!」
「ナマエちゃん、いつでも糖分待ってっから。じゃーな」
エンジン音と共に去っていくスクーター。土方さんは猫でも追い払うかのように手で銀さんを払った。スクーターが道路の先に見えなくなるまで見送り、土方さんを見遣る。土方さんは煙草片手に煙を吐き出していた。黒い髪の隙間から白い包帯が覗いている。
「……頭、平気ですか?」
訊ねると、土方さんは私を一瞥する。先程までの勢いは消え、落ち着いた声色で答える。
「あぁ、大したことねぇ」
「……そうですか」
よかった、と安堵のため息をつく。まあ、喧嘩できるくらい元気なら、銀さんの言う通り心配はいらなかったようだ。
「あいつと出かけてたのか」
土方さんの吐き出す紫煙が揺れている。私は正直に土方さんに会いに行った、と言えばいいのか迷って、嘘はつかずに経緯を端折ることにした。事件のことも触れないことにした。
「えーと、出先でたまたま会ったんです」
土方さんは「そうか」とだけ言って、携帯灰皿へ灰を落とした。
「電話、いつでも出られるようにしておけよ」
「ハイ、スイマセン」
「じゃーな」
土方さんは踵を返す。何か気の利いたことを言って見送りたかったのだけれど、浮かぶものが何もなかった。結局、土方さんがなぜ家の前にいたのかも訊けなかった。もしかして、電話なんかしたせいでわざわざ来てくれたのだろうか。あんな事件のあった直後に?それは少し考えにくい。
黒い背中を見送り、玄関を潜る。午後からの時間をどうやって潰そうかと考えながら靴を脱いでいると、リビングから軽快な足音がやってきた。百々子が「おかえりー」と笑顔で迎えてくれる。
「おねーちゃん、さっき超イケメンなひとがおねーちゃんに会いにきてたよ!」
百々子がニコニコと報告する。私は眉をひそめる。
「イケメンて誰よ……ってか知らない人なら玄関に入れちゃだめってお母さんに」
「なんかね、頭に包帯巻いてて、シンセングミって。ほら、テレビに出てた警察の人だと思うんだけど」
「え?」
「すごい息切れてて急いでたみたいなんだけど、おねーちゃんならいませんって言ったらすぐ出てっちゃって」
「ちょ、その人……」
土方さんだ。百々子はイケメンだったよ!と嬉々として話している。私は百々子に色々と聞き出したかったが、包帯、真選組、イケメンというキーワードだけで十分に土方さんであると確信ができた。それに下手に問い質して百々子に土方さんの存在を認識されたくはない。
二階へ駆け上がり、自室へ滑り込む。真っ先に充電器に携帯電話を差し込むと、数分後に息を吹き返した。待ち受け画面には土方十四郎の名前と不在着信の件数が表示されている。私が電話をかけた直後、数分置きに何度もかかってきている。着信履歴にいくつも土方さんの名前が並んでいる。
ずるずるとベッドに凭れ掛かる。次第に熱を持っていく機体を持ったまま、腕の中に頭を埋めた。
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