燦々と陽光が降り注いでいる。初夏だというのに気温は朝から昼にかけて鰻上りで、体感温度は三十度を超えている。こんな日に屋根修理なんて、依頼者は鬼畜以外の何者でもない。しかし、その依頼を受けなければいけないほど万事屋は困窮していた。何ヶ月も給料は未払いだし、家賃も滞納している。今朝もお登勢さんの家賃請求から逃れてきたばかりだ。今回の報酬は、おそらく全額家賃に当てられてしまうだろう。僕らの給料はいつ払われるのだろうか。気が遠くなる。
「あつい〜」
「神楽ちゃん、水分取らないと熱中症になるよ」
屋根の上で傘をさして伸びている神楽ちゃんに呼びかける。ただでさえ、夜兎という種族は日光に弱い。地球人でさえバテてしまうこの気温の中、より太陽に近い場所に長時間居続けるのは神楽ちゃんには無理がある。さっきから暑い暑いと繰り返すばかりでろくに仕事をしていないが、今日は大目に見るしかない。
歩狩汗のペットボトルを渡すと、神楽ちゃんはそれを勢いよくラッパ飲みする。僕も滴る汗を拭い、歩狩汗を飲む。温くなった液体が乾いた喉をするすると通り、胃に落ちていく。息を吐き、首を捻る。カン、カン、カンと小気味良い音を立てながら釘を打っているのは銀さんだ。休憩も取らず、黙々と仕事をしている。
近頃、銀さんの様子がおかしい。いや、ぐうたらで自堕落な生活を送っているのは変わらないのだが、何かがおかしい。発売日には毎週欠かさず買いに行っているジャンプを買い忘れてきたり、話しかけてもどこか上の空だったり。挙げ句の果てには、この炎天下の中でも文句一つこぼさず働いている。元々依頼人の対応はきちんとするし、仕事はやり通す人ではあるけれど、なんとなく心ここにあらず、といった感じなのだ。
神楽ちゃんと目を合わせる。神楽ちゃんも銀さんの様子がおかしいことには気が付いている。しかし、訊いたところで本当のことを喋るとは思っていない。どうでもいい軽口は叩くくせに、あの人は肝心なことはいつも言わないのだ。
僕と神楽ちゃんは無言で頷き合う。
「銀さーん。銀さんも休憩しないと、この暑さじゃ倒れますよー」
「銀ちゃんの分の歩狩も飲んじゃうアルヨー。もう最後の一本飲んじゃうアルヨー」
しかし、銀さんは手を休めない。晴天に釘を打つ金槌の軽快な音が響く。
神楽ちゃんと再び目を合わせ、肩を竦める。あの天パ侍が自分のことをろくに話さないのは、今に始まったことではない。
僕らは空を仰ぎ、歩狩汗を飲む。タオルで首の汗を拭いていると、眼下を歩く黒い隊服が見えた。ジャケットを肩にかけ、シャツは腕まくりをしている。真上から見ると坊主頭が光っている。確か、名前は原田さんといったっけ。
そういえば、神楽ちゃんが最近、真選組の女中の人と友達になったと言っていた。あの真選組で働く女中だなんて、単純にどんな人なのか興味がある。
「神楽ちゃん、友達になったっていう、真選組の女中さんってどんな人なの?」
「ダイゴアルか?」
「え、前に言ってたダイゴさんってその人なの?」
「名前なんていったか忘れたアル。えーっと、確か、ナマエ」
調子良く続いていた金槌の音が鈍い音と共に止まる。神楽ちゃんと揃って振り返ると、片手をわなわなと震わせながら親指を押さえる銀さんがいた。
「何してるんですかー銀さん」
「なんもしてねーよ!」
涙目で振り向く銀さん。神楽ちゃんは憐憫の目で銀さんを見ている。
「銀ちゃん、暑さで頭おかしくなってるんじゃないアルか?元々おかしい頭が余計におかしくなるアル」
「オイ神楽、聞こえてんぞ」
ぶつくさと何か言いながら、銀さんはまた金槌を手に取った。再びカン、カン、カンと釘を打つ。
気を取り直して、話題を戻す。
「ナマエさんってどんな人なの?」
「童貞が好きそうな感じアルな」
「どういう感じだよそれ。遠回しに僕のこと指してるのそれ」
「おとなしそうな感じアル。あ、あと料理上手ネ。うちでご飯してくれたことあるアル。ハンバーグとか卵焼きとか、あと味噌汁も作っていってくれたヨ」
金槌の音が止まる。銀さんが今度は人差し指を押さえて悶えていた。
「あの、ほんとに何してるんですか銀さん」
「なんっもしてねーっつってんだろ‼」
「ウルセェェェ!てめーら仕事しろぉぉ!」
屋根の下から依頼人の怒号が飛ぶ。
作業は主に銀さんがほとんどこなし、僕らは日が暮れる前には帰路についていた。銀さんの指は、痛々しく腫れていた。
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