Q、銀ちゃんと知り合いだったアルか?
 A、江戸へ来る前に少しだけ。
 Q、昔の女ってことアルか?
 A、そういのじゃなくって、ただの居候というか。
 Q、ソンナコト言ッテ、ドウセ一発二発ヤッテルニキマッテンダロ?

「やってねーわァァ!」

 簀巻きにされた銀時がキャサリンさんにタックルする。ボウリングよろしく丸椅子を倒しながら転がっていくキャサリンさん。カウンター越しにお登勢さんが紫煙を吐き出し、暴れんなら店の外でやんな、と吐き捨てる。

 あれから、私は万事屋の一階にあるスナックへ通され、強姦未遂の疑惑をかけられた銀時は簀巻きにされた。決して私が襲われそうになっていたわけではないと弁明したものの、神楽ちゃんは「あんなケダモノをダイゴに近付けさせられないアル」と大層ご立腹だった。しかし、今は銀時になど目もくれず、カウンター席に座って白米をお櫃ごと抱えてかきこんでいる。その隣にいるのは、神楽ちゃんと同じく万事屋の従業員、新八くん。人の良さそうな顔立ちの眼鏡姿の少年だ。
 倒れた丸椅子を直しながら、緑色の髪をしたからくり家政婦だというたまさんが首を傾げる。からくりだとは言うが、見た目も動きも人間と変わらない。

「居候とは、一つ屋根の下で共に暮らすことを言うのでしょう?男女が夜を共にして何もないというのはどういうことでしょうか?まさか銀時様は不能なのですか?」
「オイコラ人を勝手に無能判定すんなよ!そりゃ最近は使ってねーけどバリバリ現役だっつーの!っあ痛!」

 神楽ちゃんが投げたしゃもじが銀時の額にちょうど当たった。

「うっさいネ天パ。おまえのチンコ事情なんかどーでもいいアル」
「ちょっと神楽ちゃん、ナマエさんの前でそんな下品なこと言うのやめなよ」
「てめーにもその汚ねー棒ついてんだろーが。若い女の前だからってカッコつけるんじゃないネ」
「ちが、そんなんじゃないよ!」

 新八くんが赤面する。あっちでもこっちでも止めどない応酬が繰り広げられていて、店内は人数の割にはかしましい。でも、不思議と居心地は悪くない。
 銀時はごろりと転がって渋い顔をしていた。

「てゆーかいい加減コレ取ってくんない?俺の疑惑晴れたよね?」
「ダメアル。ダイゴの半径三メートル以内に近付くなヨ」
「遠ッ!」
「ハッ、溜マッテンナラソープ行クナリデリヘル呼ブナリスレバイイジャナイデスカ」
「うちに変なの呼び込むのやめるアルヨ!いたいけな少女がいんだろーが!」
「イルノハエセチャイナ娘ダケジャネーカ」
「んだとこの猫耳年増!」

 今度は神楽ちゃんがキャサリンさんへ向かっていく。新八くんも仲裁に入るために席を立った。お登勢さんは慣れ切った様子で「店のもん壊すんじゃないよ」と顔をしかめていた。私は苦笑いをこぼす。

「賑やかですね」
「悪いね、騒がしくて」
「いえ、楽しいです」

 神楽ちゃんは新八くんに、キャサリンさんはたまさんに羽交い締めにされる。神楽ちゃんのパンチの流れ弾を喰らった銀時が呻く。雨音だけに支配されていた時間が嘘のように思える。
 私は水の入ったグラスを両手で包み、お登勢さんへ訊ねる。

「銀時は、いつからここに?」
「いつからかねぇ。もう忘れちまったよ」

 乾いた話し方に反して、慈しみも垣間見える。お登勢さんは、まるで息子を見るような眼差しをしていた。

「今でこそあのバカもあんなだけど、拾ったときなんかまるで野良猫みたいな奴でね。周りを寄せつけようとしないのさ。そのくせ周りのために必死に駆け回ったりして。一人で生きていこうとして突っ張ってたもんさ。それがいつの間にか、周りに似たような連中が集まって来て、気付いたらあのザマさ」

 お登勢さんが顎で指す先には、床に転がされて足蹴にされる銀時がいる。ぞんざいな扱いをされているようにしか見えないけれど、みんなの輪の中にいる証拠でもある。
 私には銀時が必要でも、銀時に私は必要ない。私が足踏みしている間に、銀時はたくさんの人と繋がってきた。今更、私がそばにいたいなんてほざいたところで、やはり困らせてしまうだけなのだろうか。

「アンタは江戸に来てからまだ日が浅いのかい」
「春に来たばかりです」
「……アンタ、ちょっとあのバカに似てるよ」

 あのバカとは、おそらく銀時を指しているのだろう。私は首を傾げる。

「そうですか?」
「似たもの同士、縁があるのかねぇ」

 お登勢さんが鼻から紫煙を出す。指で煙草を叩き、灰を落とす。酸いも甘いも知り尽くした佇まいに少し見惚れてしまった。
 掌に水滴が付いている。おしぼりでそれを拭い、お登勢さんの視線を追うと、銀時は天井から吊るされていた。私が銀時と似ているところなんてないように思う。もしもあるのなら、教えてほしいくらいだ。
 灰皿に煙草を押し付け、お登勢さんが喧騒を蹴散らすように声を張り上げる。

「そこの天パ!この子家まで送ってやんな」

 抗議をしたのは神楽ちゃんだった。

「何言ってるアルか!送るなら私が行くネ!銀ちゃんなんか送り狼になるアルヨ!」
「当然家の前で帰ってくるんだよ。玄関に入ろうもんなら棒も玉ももぎ取るからね」

 宙に浮いていた銀時が下ろされる。満身創痍の銀時は、ふらふらと立ち上がった。





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