「ダイゴはほんとに銀ちゃんの女じゃないアルか?」

 初秋の候。銀時不在の万事屋で私と神楽ちゃん、新八くんはババ抜きに興じていた。早番の仕事を終えて帰宅途中のところで神楽ちゃんに出会し、「暇だから遊びに来るアル」と誘われたのだ。帰っても特にすることもないし、じゃあお邪魔しようかなと言って今に至る。
 ババは今、私の手札にある。新八くんが神楽ちゃんの手札からカードを一枚抜き取る。揃ったものはないらしい。

「神楽ちゃん、しつこいよ。前に違うって銀さんもナマエさんも言ってたじゃないか」

 新八くんが諌める。手札が一番少ないのは新八くんだった。

「でも、そうでなきゃダイゴみたいな女があんなしみったれた男に寄ってくるわけないアル」
「神楽ちゃんは私を美化してるよ」
「ビカってなにアルか?」
「実際よりもきれいに言うこと」
「ダイゴはきれいアルヨ」

 言いながら神楽ちゃんが私の手札からババを取る。わかりやすくむっとするものだから、こっちまで口角が上がってしまいそうになる。きゅっと口元に力を入れて堪える。隠し事ができない質なのだろう。私はあくまで平静を装い、新八くんの手札からカードを抜き取る。ダイヤの三がペアになり、テーブルに二枚置く。社長椅子は寂しげに空気を通している。

「銀時はパチンコ?」
「競馬です。全く懲りないんだから困ってるんですよ。ナマエさんからも何か言ってやってくれませんか?」
「そこまで言うような仲じゃないんだけどなあ」

 昔、銀時が家に居候していたときには割と口煩くしていた。早く起きろとか、甘いものは食べ過ぎちゃいけないとか。おじいちゃんに注意するのと同じように接していた。あの頃はそれほど距離を感じていなかったのだろう。今は適切な距離を保つことに意識が向いてしまっている。銀時が許容してくれる指標を探っているのだ。銀時をずるいと罵ったが、私も十分小賢しい。年を重ねることに恐怖も拒否感もないけれど、器用に生きるために素直さを失い、物分かりのいいふりをして打算的になっていく自分が時々嫌になる。
 しかし、やはり健全な青少年にはちゃんとご飯を食べてほしい。以前新八くんたちが豆パンばかり食べていると聞いたことがある。かぶき町の人口なら、真面目に営業すれば毎日仕事があってもおかしくない。向かいのソファで新八くんが「そうですよね」と肩を落とすものだから気の毒になる。

「でも、今度会ったら言ってみるね」
「ダイゴが色仕掛けしながら言えば一発アル」
「そうかな?」
「ちょっやめてくださいよナマエさん⁉」
「冗談だよ」
「なに本気にしてんだヨ。そんなんだからいつまで経ってもおまえは新八なんだヨ」
「どういう意味だ!」

 思わず笑うと、二人も揃って笑い出す。ババ抜きは三回戦し、それぞれ一回ずつ負けた。次は七並べでもするかと話していると、銀時が気の抜けるような声と共に帰ってきた。日は傾きかけており、つけっぱなしのテレビからは芸能ニュースが流れていた。おかえり、と迎えると、銀時は後頭部を掻きながら生返事をする。

「…………おー」
「銀さん、どうせまた負けたんでしょう?どうするんですか夕飯」
「三食豆パンは飽きたネ」

 社長椅子に座る銀時へ次々に苦情が寄せられる。銀時は「じゃあ今日はババアんとこ行くか」と下ろした腰を早々に上げる。万事屋の一階、スナックお登勢は駆け込み寺と化している。普段は家賃回収のために怒声を張り上げるお登勢さんだが、三人が食事に行っても小言は言いつつも追い返すことはない。
 私はお暇しようとしたのだが、神楽ちゃんに引き止められて一緒にスナックへお邪魔することになった。まだ客入りのないカウンターに並んで座る。突然伺ったにも関わらず、お登勢さんはご飯と味噌汁、漬物とお客さんからもらったという秋刀魚の塩焼きを出してくれた。

「私も頂いていいんですか?」

 おずおずと訊ねると、お登勢さんはふっと笑った。

「若いくせに遠慮なんかすんじゃないよ」
「バーさんおかわり!」
「アンタはちょっとは遠慮しな!何合食う気だい」

 口ではそう言いながら、お登勢さんは神楽ちゃんから差し出された茶碗にご飯を盛り付ける。店の奥ではキャサリンさんとたまさんが開店用意をしていた。万事屋からの帰りにいつもスナックの前を通るけれど、店内はいつも人の声が漏れ出ている。楽しそうな笑い声や情緒溢れる歌声。仕事が休みの日にはただのお客として来たいと思っているのだが、なかなか踏み出せずにいる。
 ご飯は予知していたように炊き立てで、味噌汁も漬物もとても美味しかった。秋刀魚も油が乗っていて美味しい。しかし、隣の神楽ちゃんは魚を上手く箸で捌けないらしく苦労していた。そして腹わたを食べて顔を歪める。

「これなにアルか?ごっさ苦いネ」
「そりゃ内臓だ。ガキンチョにはまだ早いだろ」
「銀さん、甘党なのに食べれるんですか?」
「あたりめえだろ。銀さん大人だから」

 銀時はなぜか威張っている。まだ十六歳の新八くんだってきちんと食べているのだから大人とかいう問題でもない。それでも子どもたちの前でいい顔をしたがるなんて、まるで――。

「お父さんみたいだね」

 思ったことを口にすると、銀時は顔をしかめた。神楽ちゃんが身を乗り出して抗議する。

「こんなプー太郎がパピーなんて死んでも嫌アル!」
「こっちだってこんな大食い娘も眼鏡かけ器も願い下げだわ!つーか俺まだ二十代!こんなでけえガキがいてたまるか!」
「オイコラ眼鏡かけ器ってなんだ!いい加減に人のことを眼鏡以下にすんのやめろよ!」
「アンタら、こんなとこで喧嘩すんじゃないよ。店の外でやんな」

 さっきまでご飯を食べていたかと思えば、もう喧嘩している。かしましくて物騒で、なのに笑いが漏れる。江戸へ来てからもうすぐ半年が経つ。春には想像もしていなかったような日常がある。
 もうすぐ、おじいちゃんの命日だ。報告することがたくさんできた。晴れやかな気持ちで会いたいのに、このかしましさに押されてしまっているのか、少しだけ憂鬱になってしまっていた。





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