うららかな日差しが街に降り注いでいる。世間は連休に浮かれ、家族連れで娯楽施設に行ったり、カップルでデートに行ったり、各々の休日を謳歌している。なのに、万事屋にはいつもと変わらず惰眠を貪る銀さんがいる。

「銀さーん。わたしもどっか行きたいな」
「どっかってどこよ」
「遊園地とか水族館とか」
「却下」

 にべもなく一蹴される。テレビでは連休に行きたいレジャースポット特集が組まれており、若い女性タレントがジップラインを楽しんでいる。風を切る気持ち良さを清々しい笑顔で語っている。
 銀さんはソファの上で仰向けになり、寝返りを打つ。連休が始まって三日。神楽ちゃんは連日友達と遊びに出かけ、今日はそよ姫の避暑地に同行するそうだ。新八くんはお通ちゃんのライブに出かけている。取り残された銀さんは、連日昼寝するかパチンコに行くかで、とても堕落した生活を送っている。言わずもがな、仕事はない。

「人のこと暇人みてえに言うけどさぁ、おまえだって同類だよ。用もないのに毎日来やがって」

 銀さんがぼりぼりとお腹を掻く。わたしは向かいのソファに凭れ、ザッピングを始めた。

「わたしは連休は仕事休みなの。ただ休みの日にすることがなくて友達もいないだけで」
「寂しい真実を暴露してんじゃねーよ」
「だって上京してまだ二ヶ月だよ。仕事と家と万事屋を反復横跳びしてるんだよ」
「万事屋を挟まないでくんない? 勝手に反復横跳びしないでくんない?」

 なんで俺の周りにはまともな女がいねえんだ、と銀さんはぼやきながらソファを離れる。出かける気になったのかと爛々と目を輝かせるが、生気のない双眸を向けられる。

「いちご牛乳持ってくるだけだから」
「わたしにも」
「飲んだら帰れよ」

 うんざりした表情で台所へ消えていく背中を見送る。
 テレビはどこもかしこも連休の過ごし方を頼んでもないのに紹介してくれる。まるで遠出して遊びに行くのが正義みたいに。わたしだって出かけたいけれど、時間があるだけでお金はない。気持ちに財力が追いつかない。銀さんは万年金欠で懐には余裕がないし、わたしも上京したばかりで貯蓄が心許ない。
 社長机の向こうの窓を見遣る。いい天気。江戸の空は雲が近い気がする。
 田舎から出てきて、夢の江戸での暮らし。仕事は決まったはいいが、大きな夢もなく、慣れない生活に日々精神をすり減らしているところに事件は起きた。馴染みのない人混みを歩いているところで、スリに遭ったのだ。全財産——ではないが、それなりに大金を入れていた財布も身分証明証も丸ごと取られ、途方に暮れていたところに彼は現れた。

「お嬢さんさぁ、この辺は治安悪いから近寄らないほうがいいぜ」

 銀髪のその人の優しい声色に、疲労の溜まっていたわたしの心が一気に溶かされた。手に戻ってきた財布や荷物に安堵するよりも、ああ、この人が好きだと思ってしまった。所謂一目惚れだ。
 あれから万事屋に入り浸るようになり、最初のうちはまた来たの? で済んでいたはずが、今ではすっかり銀さんに疎まれるようになった。けれど力ずくで追い返されたことはない。新八くん曰く、今更ストーカーが一人増えても大して問題じゃないそうだ。ストーカー扱いされるのは不本意だが、とりあえずはそばにいられるだけでいい。

「ほれ」

 テーブルに置かれたコップにはいちご牛乳が注がれている。銀さんのコップにはなみなみと。わたしのコップには三分の一程度。好物を分け与えてくれているだけ良しとする。つまらないテレビを消して、いただきますと頭を下げた。
 ソファに腰を下ろした銀さんがいちご牛乳をあおる。そのとき、甲高い電子音が鳴り響いた。袂から携帯電話を取り出すと、画面には沖田総悟(顔だけの男)と出ている。

「よぉ、今何してるんでィ」
「いちご牛乳を飲んでます」
「暇なら落語見に行かねぇかィ」
「落語? 興味ないなぁ」

 その後、二、三会話をして電話を切った。沖田さんにはスリ被害に遭ったときにお世話になった。顔見知りになってから、たまに遊びに誘われることがある。
 銀さんが空のコップをテーブルに置く。沖田くん? と訊かれ、頷く。

「落語だって。あの人趣味が渋いよ」
「ふーん」

 再び電子音が鳴り響く。画面には土方十四郎(瞳孔ガン開き)の文字。

「マヨネーズ工場の見学チケットが余ってるんだが行かねえか」
「その心は?」
「限定マヨリーンストラップ集めに協力しろ」
「暇なんですか?」

 マヨリーンのストラップが数種類あって全部集めるとプレミアムマヨネーズ——何を言ってるのか半分くらいわからなかった——を貰えるのだと力説されたが、早々に電話を切った。土方さんともスリ被害に遭ったときに知り合い、以来ときどき街で出会しては世間話をする。普段は常識的でいい人だと思うが、好物が絡むと見境がなくなるので困る。
 息を吐いて画面を見ていると、銀さんが膝に肘を置いてこちらを見ていた。

「誰?」
「土方さん。危うくマヨ漬けにされるところだった」
「へぇーそう……」

 銀さんは極めてどうでもよさそうに声を落とした。何か言いたげにしているように見えたが、考え過ぎだろうか。
 また電子音が鳴り響く。今度はマダオ(マダオ)だ。

「あ、ねえ、お金貸してくんない? とりあえず六万でいいんだけど」
「さようなら」

 電話を切る。長谷川さんとはどこで知り合ったんだっけ。
 突き刺さる視線を感じて顔を上げる。銀さんが眉根を寄せてこちらを見ていた。何か怒ってる。

「え、なに?」
「おまえさ、さっき友達いないって言ってたよね? なんなの? じゃんじゃん電話くるじゃん」
「いやぁ、誰も彼もしょうもない用事ばっかりで」

 次に鳴ったのは電話ではなかった。呼び鈴だ。銀さんが面倒臭そうに頭を撫で回しながら腰を上げる。歩いている間にも呼び鈴がしつこく鳴る。誰だろう。気になって居間から顔を覗かせると、玄関には桂さんが立っていた。
 銀さん越しに目が合うと、桂さんが手を上げる。

「おお、ナマエ殿。ナマエ殿が行きたがってたテーマパークのチケットが当たったぞ。三枚あるからエリザベスと一緒に行かぬか」
「えっ、ムー◯ンですか!」
「ああ、ムー◯ンにもスナ◯キンにも会えるぞ」
「ええーマジですか!」

 念願のムー◯ンに会えると跳ねながら玄関に向かう。が、ぴしゃりと引き戸が閉められてしまった。鍵までかけられる。引き戸を閉めたのも鍵をかけたのも銀さんだ。ぽかんとするわたしを余所に、銀さんは踵を返して居間に戻っていく。引き戸の向こうで桂さんが「なぜ閉めるのだ銀時!」と喚いている。
 居間に戻った銀さんを追う。様子のおかしい銀さんにどうしたの? と訊ねる。しかし、銀さんは答えず社長机に立てかけてあった木刀を腰に差した。振り返った銀さんは険しい顔つきをしている。

「出かけるぞ」
「えっ、どこに?」
「もたもたすんな。なんだっけ、秘宝館? どこへでも行ってやらァ。なんならスナ◯キンばりに流浪の旅をしてもいいぜ」
「銀さんはスナ◯キンっていうよりス◯ィンキー……」
「オイそれ黒いモジャモジャだろ」
「白いモジャモジャのス◯ィンキー?」
「それ別もんだろうが」

 わたしの頭を小突き、銀さんは玄関へ向かっていった。桂さんを押し退けて進んでいく銀さんを追いかける。
 階段を降りた先で銀さんがわたしを待っている。わたしだけを待っている。

「金ねえんだから、あんまり期待すんなよ」

 うららかな日差しが街に降り注いでいる。浮き足立つ世間の波に乗っかるには少し出遅れてしまった。それでも、無骨なスクーターは軽やかに走り出す。
 いろいろ言ったけれど、結局は銀さんと一緒ならどこだってわたしは楽しかったりする。唇を尖らせながらも何だかんだで優しい背中を、ぎゅうと握った。





ヤキモキ





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*匿名さん 坂田銀時
リクエストありがとうございます!
こっそりやきもきして何だかんだで付き合ってくれる銀さんでした。ニケツにはいろんな夢が詰まってる……。
暑い日が続きますがお体にはお気をつけてお過ごしください。これからもよろしくお願いします〜!






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