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今から十数年前、それはそれは仲の良い3人家族がおりました。両親はイタリアのとある街で飲食店を経営しており、1人娘はこの店の看板娘として常連客から愛されていました。

しかし、この平和な日常は一瞬にして奪われてしまったのです。



―――化け物!!


―――こっちに来ないで、近づかないで!




―――――お ま え な ん か 、 い ら な い ! !


***

「・・い、・・・・おい!」
「!」


ガタンガタン、と揺れる汽車の中。隣に座る人物の呼びかけか、この揺れのせいかはわからないが、黒い服を身に纏った少女がびくっと目を覚ました。額には汗をかき、どこか呼吸も乱れている。


「・・・また、あの夢か?」
「うん・・・ごめん、うなされてた?」


額の汗を拭って隣に目をやると、普段は仏頂面の青年が心配そうにこちらを見ていた。普段なかなか見れない表情なだけに、きょとんと目を丸くする少女。すると、彼は「ああ」とだけ言い、視線を彼女から窓の外へ移した。


「まだ教団には着かねえぞ、もっかい寝とけ」
「んー、そうしたいのは山々なんだけど・・またうなされたらユウに迷惑かけちゃうし」
「・・・あのなあ、お前がうなされてんの、今までに何回聞いたと思ってんだ。今更迷惑も何もねえよ」
「う・・・ご、ごめんなさ、っ!?」


少女の言葉を遮るように青年は右腕を伸ばし、隣の小さな頭を捕らえて自分の右肩に押し付けた。これはまるで、"安心して寝ろ"と言われているようで。垣間見えた不器用な彼の優しさに、少女は小さく笑みを漏らし、再び目を閉じる。


「ありがとう、ユウ」



それから程なくして、肩口から静かに聞こえてくる寝息。"ユウ"と呼ばれた青年は彼女の頭から手を離すと、きらきらと光る金色の髪の毛に指を通す。髪の毛はするりと指の間を抜け、重力に従ってはらりと彼女の肩に広がった。


「・・たく、もっと俺を頼れ」


ぶっきらぼうな言葉。しかしその口調は穏やかである。髪の毛を弄んでいた右手を彼女の右肩に落ち着かせると、自分も目を閉じて、汽車の揺れに身を任せた。


彼らのホーム、"黒の教団"に辿り着いたのはそれから数時間後。

白い少年と対面するのもあと少しである。