01


「あのなあ、怪我人が怪我人の世話してどうすんだよ!」
「もーっ、ちょっと静かにしてて!医療班の人たち怖がってるじゃない」
「んなもん知るか。大体、怪我の治療はあいつらの仕事だろーが!」


黒の教団内療養所。本来なら、静寂の中に怪我人の「いてっ」という声や、医師や看護師らの声が飛び交っている場なのだが。現在口を開いているのは、黒髪の青年神田ユウと、金髪の少女ローラ・リルチェの2人のみ。彼らはエクソシストであり、ついさっき任務から戻ってきたばかりであった。


「元はといえば、これあたしのせいで負った傷なんだし・・・あたしが治療する!」
「・・・ちっ」


そう、この不機嫌を露わにしている彼の傷は、ローラの不注意によるものだった。神田は背後から襲ってくるアクマに気付かない彼女を庇い、背中に大きな怪我を負ってしまったのだ。そのおかけでローラが負った怪我は数箇所のかすり傷のみ。自分を助けてくれた彼に感謝の意も込めて、こうして言い争いをしながらも治療をしているのである。

慣れた手つきで消毒をし、包帯を巻き終えると「終わったよ」と満足気な笑みを浮かべるローラ。神田が彼女にお礼を言おうとした瞬間―――


『こいつアウトォォオオ!!!』


―――門番の焦った声が教団内に響き渡った。

***

「スパイ侵入ってどういうこと?!」


あのあとすぐ神田はコートを羽織り、六幻を持って走り去ってしまったため、ローラは司令室に駆け込んだ。いつもは書類が散らばっているのだが、今日は団員(といってもほぼ科学班だが)が押し寄せていて、違った意味で身動きが取れない状態である。なんとか人混みをかきわけると、モニターの周りにリナリーやコムイ、リーバーがいた。


「あ、ローラ!帰ってたのね。神田が飛び出してきたから、もしかしてと思ってたんだけど」
「ただいま、リナリー。あ、この子が噂のスパイくん?」


モニターに映っている白髪の少年を見て、ローラが問いかける。それに答えたのはリーバーだ。彼は、外のゴーレムと無線が繋がっているのであろうマイクを付けている。


「それがなあ、微妙なとこなんだよ。こいつ、クロス元帥のゴーレム連れてるんだ」
「え、ティムキャンピー?!うわ、ずるいなーあたしが頼んだときは頑なに拒んでたのに!」
「・・・いや、ローラ、突っ込むのそこかよ」


さも当たり前かのように「当然でしょ」と言うローラに、苦笑するリーバー。ローラが「ティルダ」と呼ぶと、彼女の団服のポケットからぱたぱたとゴーレムが飛び出てきた。その姿は、スパイと疑われている少年が連れているゴーレムと瓜2つ。違うところは、彼女のゴーレムの色が純白という箇所だけである。ティルダは、クロス元帥が作ったローラ専用のゴーレムなのだ。


「よかったねティルダ、お友達ができるよ」


ローラがふわりと微笑みかけると、ティルダは嬉しそうに羽ばたいた。再び彼女がモニターに目を向けると、何かを思い出したかのように焦った表情で「あーっ!!」と叫び声をあげた。


「大変、このままじゃあの白い子ユウに斬られちゃう!あたし止めてくるね!」
「ちょっ、ローラ・・・!」


言うが早いが、リナリーの呼びかけに答えることなく、ローラは司令室から出て行ってしまった。




一方、建物の外では白髪の少年が劣勢を強いられていた。自分の師にここに行けと言われ、紹介状も送られているはずなのに、実際は伯爵の手先扱いされ、見知らぬ青年に殺されそうになっている。わけがわからなくなって当然だ。一体どうしたものかと混乱する頭をフル回転させていると、目の前の青年がフンと鼻を鳴らし、再び刀を構えた。


「まあいい、中身を見ればわかることだ。この"六幻"で切り裂いてやる」


そう物騒な言葉を吐き捨てると、すごい速さで少年のほうに斬りかかって行く。やられる、そう思って固く目を閉じると、誰かが自分の前に飛び降りてくる気配を感じた。それと同時に「ユウ、そこまで」という女性の声が聞こえ、ゆっくりと目を開く。目の前には、綺麗な金髪の少女が自分を庇うように立っていた。


「ローラ?・・・てめえ、どういうつもりだ」
「そっちこそどういうつもりよー。この子、師匠のゴーレム連れてるんだよ?あたしがティムを見間違えるはずないもん」
「・・は、えっ?師匠って・・・?!」


今しがた目の前の少女から発せられた"師匠"という単語に、動揺を隠せずわなわなと震える少年。青年ーーー神田に一睨みきかせると、彼女はくるりと後ろを振り返った。


「あたし、ローラ・リルチェ。クロス師匠と5年間修行の旅してたんだ。えっと、君は・・・っ?!」


にこやかに話しかけたローラの言葉は、神田の手によって無理矢理遮られた。自己紹介してんじゃねえ、とかなんとか言いながら、彼は再び白い少年に刀を向ける。慌てて胸の前で両手を振りながら、白い少年は紹介状が送られているはずだと訴えた。すると神田はぴたりと動きを止め、さも怪しそうに睨みを強くする。


「元帥から・・・?紹介状・・・?」
「そう、紹介状・・・コムイって人宛に」
「〜〜〜っ、ほら、スパイなんかじゃないでしょっ!」


ぷはっ、と口を塞ぐ手を取り「まったく、早とちりなんだからー」と言うローラ。彼女は不服そうな表情の彼から顔を逸らすと、すぐ近くをぱたぱたと羽ばたいている黒いゴーレムに向かって叫んだ。


「早く紹介状見つけて門開けてーっ!」