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通信用の黒い無線ゴーレムから聞こえてくる会話で、いつもの机整理論争が繰り広げられている様子が目に浮かぶローラと神田。しばらく待っていてもなかなかドタバタは止まず、神田が3回目の舌打ちをした所で漸く目の前の大きな門がゴゴゴゴゴ、と大きな音を立てながら開いた。


「か、開門〜〜〜?!」
「ちょっと門番、なんで疑問系なのよー」
「だ、だってペンタクルがよぉ・・」


腑に落ちない様子の門番にローラが突っかかっていると、無線ゴーレムから男性の声が聞こえた。


『入城を許可します、アレン・ウォーカーくん』
「もう、コムイ兄ってば、どうせ机が汚くて紹介状見つからなかっただけでしょ?」
『あはは、その通り。ごめんごめん』


なんとも陽気な人物である。机が汚いというほんの些細なことだけで、自分の命は脅かされていたのかとアレンは落胆の表情を見せる。しかし、神田は未だに信じられない様子で、刀を下ろそうとしない。そんな彼の様子を見て、ローラは六幻を持つ右手を掴んだ。


「信じてよ、ユウ。スパイでもアクマでもないんだってば」


神田は小さく舌打ちすると、自分を見上げてくるローラから無線ゴーレムに視線を移した。


「どういうことだ、コムイ」
『神田くん、ごめんねー早とちり!その子、ローラと同じでクロス元帥の弟子だった。ほら謝って、リーバー班長』
『俺のせいみたいな言い方ーー!!』
「ほら、ね。だってティムが一緒だもん」


ローラが満面の笑みで神田に話しかける。しかし、その笑みの裏にある"早く六幻をしまいなさい"という意図をすぐに感じ取り、神田は渋々警戒態勢を解いた。黒の教団内にはローラに弱い人たちが何人もいるが、神田も例外では無いようである。


「ほら、3人とも中に入って」


少し離れたところから、また別の人物がこちらに向かって呼びかけている。3人が開いた門の方を振り返ると、そこにはツインテールの少女がクリップボードを持って立っていた。


「リナリー!わざわざ下まで来てくれたんだね」
「ええ、兄さんに案内を頼まれたから」


ローラがパタパタとリナリーに駆け寄っていく。彼女たちの着ている団服はとてもよく似たデザインをしていた。違うところと言えば、ローラがショートパンツでリナリーがミニスカートという点だけである。


リナリーがもう一度中に入るよう催促し、漸くアレンは教団の中に足を踏み入れた。

***

「私は室長助手のリナリー。室長のところまで案内するわね」
「よろしく」


リナリーがにこりと挨拶をする中、神田は1人背を向けてその場から歩き出した。それに気付いたアレンが「あ、カンダ」と声をかけるが、本人は返事の代わりにじろりと睨みつけ、"話しかけるな"というようなオーラを漂わせている。アレンは名前を間違えただろうかと困惑するも、「よろしく」と右手を差し出した。しかし、返ってきたのは望んでいた"握手"ではなかった。


「呪われてる奴と握手なんかするかよ」
「ちょ、そんな言い方っ」


アレンを軽蔑するかの様に冷たく言い放つと、ローラの言葉も無視して神田はカツカツと去っていった。ローラは慌ててアレンの方に向き直り、申し訳なさそうに口を開いた。


「あー・・・ごめんね、アレン。あいつさっき任務から戻ってきたばかりだし、あたしも迷惑かけちゃったから、気が立ってるのよ」
「あら、任務から戻ってきたばかりなのはローラも一緒でしょ」
「それはそうだけど・・・ほら、短気だし。あ、でも根はいい人だから嫌いにならないであげてね?」


困ったような笑みで首を傾げてくるローラに、アレンは"無理です"とは言えなかった。喉まで出かかったその言葉を自分の中に収めると、まだちゃんと自己紹介をしていないことに気付き、1つ咳払いをして気持ちを切り替える。


「あの、ローラ。改めて、僕アレン・ウォーカーです。これからよろしく」


右手を差し出さずに笑顔だけを向けたのは、先程の神田の言葉が胸に刺さっていたから。そんなアレンの思いを知ってか知らずか、ローラはアレンの左手を取った。もちろん当の本人は慌てふためいて。それもそのはず、彼の左手は対アクマ武器。普通の腕ではなく、まるで血のように真っ赤な色をしているのだ。


「あたしは、呪いとかそういうの関係ないと思うよ。だって、アレンはアレンでしょ?」


そう言ってふわりと笑うローラに、どきりと心臓が跳ねる。同世代の女の子にこんなふうに満面の笑みを向けられるのは、ほぼ初めてだった。アレンは自身の頬が赤くなるのを感じつつ、小さく「ありがとう」とお礼を言ってはにかんだ笑みを返した。

同じ師匠を持つ弟子同士の挨拶が終わったところで、3人は教団案内も含めて室長であるコムイの所へ向かうことにした。