03


「え?!5年間も師匠と旅してたんですか?!」
「うん、そうだよ。毎日楽しくて、師匠と離れて教団に行くのすごい嫌だったんだー」


"信じられない"、アレンの脳内はこのフレーズでいっぱいだった。自分の修行時代を振り返ってみても、楽しい思い出どころか辛い思い出ばかりだったのだ。大量の借金を押し付けられ、生活費を稼がされ、食人花の世話をする日々・・・どう考えても、"楽しい"なんて感情は出てこない。しかし、目の前のローラはにこにことこんなことがあった、あれが面白かった、と話しているのだから、とても嘘だとは思えなかった。

いったい、彼女はどんな修行時代を送っていたのか。それを知るのはローラ本人と、彼女の師匠であるクロス元帥のみである。

***

食堂、修練場、談話室を案内し、今3人が歩いているのは広い廊下。両側の壁にはいくつもの扉が並んでいる。


「他にも療養所や書室、各自の部屋もあるからあとで案内するね」
「部屋が与えられるんですか?!」
「そうだよ。あたしらエクソシストは皆ここから任務に行くから、教団を"ホーム"って呼ぶ人もいるの。あたしもその内の1人だけどね」


そのあとにリナリーがくすくす笑いながら「出て行ったきり、わざと帰ってこない人もいるけど」と言った言葉に、ローラが苦笑する。そんな様子を見て、アレンは師匠のことを言っているのだとすぐに理解した。あの日、教団は嫌いだと言いながら、自分に向かって金槌を振り上げるクロス元帥・・・その姿を思い返すだけでも眩暈がし、アレンは眉間を押さえた。

うーんと小さく唸りながら眉間を押さえるアレンに、ローラとリナリーは突然どうしたのかと首を傾げるだけだった。師匠が同じであるとは言え、自分とはまるで正反対の修行をしていたとは、ローラには想像もつかないだろう。



それからしばらく歩いて科学班研究室に辿り着くと、コムイがコーヒー片手に3人を出迎えた。


「はい、どーもぉ。科学班室長のコムイ・リーです!歓迎するよアレンくん。いやー、さっきは大変だったね〜」


まるで他人事のようにけらけらと話しているが、さっきの騒動の元凶はこの男である。せっせと働いている科学班の班員たちから浴びせられる冷ややかな目線も、さくっとスルーしながらコムイはどんどん部屋の奥へと進んで行く。アレンが初めて見る光景にきょろきょろとしていると、ある一室に通された。部屋の中央には1台の診察台があり、その真上には手術にでも使うような大きな照明が存在感を露わにしている。また部屋の壁に沿ってずらりと並んでいる棚には、いくつもの薬瓶のような容器が陳列されていた。


「じゃ、腕診せてくれるかな」
「え?」
「さっき神田くんに襲われた時、武器を損傷したでしょ。我慢しなくていいよ」


確かに、アレンは先程からずっと左腕に痺れを感じていた。コムイが出してくれた椅子に腰掛け、診察台の上に左腕を出す。腕にはちょうど神田に斬られたところをなぞるように伸びている1本の傷があり、そしてそこからは小さな傷が小枝のように広がっていた。


「うわー、痛そう・・・」
「神経が侵されてるね、やっぱり。リナリー、麻酔持ってきて」


コムイに発動できるかと問われ、アレンは肯定するとイノセンスを発動させた。ヴン、という音を立てて発動された対アクマ武器には、やはり大きな傷が目立っている。コムイはふむ、と頷くと、コーヒーを飲みながらアレンの左腕をコンコンと叩いた。


「キミは寄生型だね!」
「寄生・・・型?」
「わーっ、すごい!久しぶりに見た!アレン、寄生型ってすごい珍しい型なんだよ!」


コムイの隣で楽しそうに喋るローラ。寄生型とは、自分の肉体を武器化する適合者のことで、数ある対アクマ武器の中でも最も珍しい型なんだとか。また、肉体と武器が直接同調しているため、その影響も受けやすいらしい。そんなことを話しながら、コムイはいつの間にか両手に物騒な武器を抱えて不気味な笑みを浮かべていた。その頭には、"科学班"と名前の入ったヘルメットを被っている。


「あ、やばい・・ごめんねアレン、またあとで会おう。大丈夫、死ぬことはないから!」
「へ?何のことですか、ローラ・・・ってか、コムイさんもその装備は何なんですか?!」


言い終わる前にさっさとどこかへ逃げていってしまったローラ。コムイは、にやにやしながら「ん?修理」と答える。


「ちょっとショッキングだから、トラウマになりたくなかったら見ない方がいいよ」
「待っ、待って・・・」
「GO♪」


「ギャーーーーー!!!」