「ふっへっへ」
今オレはさっくんが寝室の掃除をしているのをこっそり眺め、ドアの前で隠れてスタンバイしている。
何を待っているかというと、
@さっくんが掃除を終えてこっちに向かってくる。
Aオレがバッと現れて脅かす。
Bさっくんびっくりして、普段の冷静な顔じゃなくなる。
という流れを作るためだ。
なんて頭がいいんだ。流石だな、オレ。
たまにはさっくんの驚いた表情が見たい…!びっくりさせてやりたい…!!
…と、意気込んでいると、ようやく掃除が終わったらしい。
こっちに向かってくる。
今だ…!!
「さっくん、ば」
ばぁ!と飛び出そうとした瞬間、「…ッ、ぶぎゃ?!」さっくんが開けたドアを避けきれずに顔面をぶつけた。ぎゃぁぁぁ痛い!!涙が出るほど痛い。おでこも鼻も口もひりひりする。なんだこれは。滅茶苦茶痛い。
しかし痛がってる場合じゃない。今度こそ、…!
「っ、ぅ、ぐ、さ、ぐ」
ガツッ、
「ぁ゛ッ、!っ゛〜〜!!」
だがそれでも負けぬと頑張って前に進もうとして、意味わからんことに次は足の小指をガツンとドアの角にぶつけた。
「夏空様…?!?!」
「…ッ、ぅ、う…」
折れた折れた折れた…!!絶対折れた!!
倒れ込む前に、さっくんが抱き留めてくれる。
もう動けない。
これ以上チャレンジできそうにない。
まんしんそういだ。ぼろぼろだ。
コンボで打撃をくらってしまい、声にならない悲鳴で悶絶した。
一体オレは何がしたかったのか、それよりも痛い。
おでこも痛いし打った小指とか色んなところが痛い。泣きたい。
「ご無事ですか…っ、?夏空様の雪のように白く滑らかなお肌が赤く…、あああもう、ご自分では動かないようにとあれほど…」
オレの怪我の状態をおろおろと心配そうに把握しながら、全身全霊という感じでぎゅうううっと抱きしめられる。
「…っ、ぅ、ぅ…べ、つに、問題、はない…」悔しい痛い痛い痛いくそうとさっくんの腕を掴んで身を起こす。涙を堪えていれば、手が頬に触れてきた。
「俺を脅かそうとしていらっしゃったのに、おでこをぶつけて小指までひっかけて、挙句の果てに涙の潤んだ目で見上げて下さるなんて…俺を可愛さで殺しに来たのですか?」
「…っ、な、」
ばれていたのか、と絶句する。
微笑んだ彼の瞳に、ぞくりと背筋が震えるほどの感情が滲む。
「しかし、扉を開けたのですから、お怪我をされてしまったのは俺のせいですね…」
「…え、」
「今回のことで、万が一にも歩けなくなってしまうかもしれません」
「っ、こ、怖いことを言うな」
これでそんな酷いことになったら泣く。けど、何でも知ってるさっくんにそう言われてしまうと、もしかしたら本当にそうなる可能性があるのかもって凄く怖くなった。
「お怪我をさせてしまった責任は、きちんと俺の人生全てをかけて償わせていただきますね」
小指をぶつけたくらいで歩けなくなるわけがないだろうと言いたい。
オレがあっと言わせるために作戦を練っていたというのに、こうして試みるたびに毎回この執事の思う通りに誘導させられているような気がする。
整った顔を恍惚とした表情に変えるさっくんに、ひっと声を上げれば彼はまた嬉しそうに笑った。
【番外編】END