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驚いて、目を見開く。

目の前には、瞳を閉じた蒼の綺麗な顔があって
やっぱり睫毛長くて、もしもおれが女子だったら本当に惚れるかもしれないな、なんて思考が勝手に浮かんできた。


「…ぁ…ふっ、」


反射的に口をかたく閉じると、それをこじ開けるように強く舌が唇を割って侵入してくる。
…それと同時に口の中に流れ込んでくる液体。


「…んっ」


口の端から零れた水が頬を伝って顎から下に落ちる。

考える暇もなく、その水を飲み込むと蒼は離れていった。

ごくんと飲み込んだことで喉が鳴る。

それが何故か、いつもよりやけにでかい音に感じたような気がする。
喉を伝って入っていった水のおかげで、多少の渇きは癒された。

久しぶりだからだろう。

口に入りきらずに零れた水によってぬれた部分を手で拭って、うまく働かない頭で考える。

すごくおいしい。

おいしいん…だけど。

(…でも、)

いや、でも


「あ、あの、あお…っ、」


再びペットボトルを持って、それを口の中にいれようとしている彼に何か言おうとすると。
無表情の蒼に、すぐにまた顎を掴まれて唇を塞がれる。


「ま…っ、ん…っ、」


流れ込まれる液体を無理矢理飲み込まされる。

…でもさっきよりは抵抗したせいで、ただでさえこんなやりかただと口から零れていくのに、余計に顎を伝って零れる量が増える。

今度はぼたぼたと布団に垂れる音がした。

熱が少しは下がっただろうといえども、何度もこんな息ができなくなるのは苦しい。

…というか、むしろ水の口移しとか予想外すぎてどう反応すればいいかわからない。
リップ音とともに離れていくのを目で追うことすらできず、咳き込んだ。


「…ごほっ、ちょ…っ、待って」


腰を折って、ぜーっぜーっと肩で息をしていると、また蒼がペットボトルに口をつけようとするので。
必死に身体を動かして、手を伸ばし、その制服の裾を掴む。


「待って…っ、あおい…っ」

「何?もう喉乾いてない?」


さも、この行為が当たり前かのように普通にやるその様子に絶句する。

多分蒼のことだから、本当に純粋におれが熱のせいでうまく水を飲めないだろうと気を遣ってこんなことしてくれたんだろう。

本当に、その気持ちは嬉しい。

…嬉しいんだけど、あまりにもおれが予想できないことを、すごく当たり前にやるからびっくりしてしまう。

首を傾げてこっちを向いてくれた蒼に、こくこくと頷く。
さっきよりも頭痛がする頭を押さえながら、わかってくれたらしいペットボトルを机の上に置くのを見てほっと肩をなでおろした。

「…(う…)」

ぐらりと視界が歪む。
喉の潤いは満たされたけど、今の行為で何かどっと疲れた。
やばい。熱が悪化した気がする。


「…はーっ、」


ぱたりと倒れるように、布団に横たわる。

ふいに蒼の姿がなくなったと思ったら、バケツを持って戻ってきた。
ちゃぷちゃぷと水の揺れる音。


「…(何…?)」


最早話す元気もなくて、荒くなってなかなか平常に戻らない呼吸を必死に整える。

熱い。苦しい。
怠い。
完全に風邪の症状でやられている証拠だった。


(……え?)


布団の隣に座った蒼が、徐におれの制服のボタンに手をかけた。
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