12

なんで。


「なんでいつもこんなことばっかするんだよ…っ、あおいのばかぁ…っ」


わんわん泣きながら、涙を拭いながら責めたてる。
おれはあの修学旅行の時のことも、ずっと忘れようとして。
それでなかったことにして、今まで一緒にいて。蒼と一緒にいると楽しいから、幸せな気分になれるから、一緒にいるのに。
あれをおれさえ無かったことにすれば、これからもずっと仲良くしていけるって…思ってたのに。

ぐ、と涙を拭って蒼を睨み付ける。



「あおいは…っ、あおいはおれのこときらいなんだろ…っ」

「…何、言って、」



戸惑ったような表情をする蒼に、口から出る言葉がとまらない。
「だって」と自分でも恥ずかしいくらい泣き叫んで、子どもみたいなことしてると分かっても。
それでも、自分が制御できない。
あおいのばか。ばか。ばか。



「だって…っ、こうやっておれがあおいのこと好きで…っ、だから今までのこともなかったようにして一緒にいるのに…っ、」

「……」

「昨日だってやさしくして、なぐさめてくれて…っ、ずっと一緒にいたいって思ったのに…っ」


嗚咽が止まらない。


「あおいは…っ、その度におれをこうやってくるしめようとするだろ…っ」


蒼はおれが何をされても蒼を見限れないって知ってるから。
こうやって、おれに変なことをしてきて、嫌だっていってもやめてくれなくて、むしろ嫌がるおれを見て、嬉しそうな顔をする。

そんなことする理由なんて、あおいが本当はおれのことがきらいだからしか思いつかない。
それにこういうことするのだって、無理に忘れようとして、それでも仲良くしようとするおれの無様な姿をみて笑いものにしようとしてるんだろう。

そう思うと余計に悲しくて、涙が出てくる。

それは多分友達にイかされてしまった屈辱もあるだろうけど、それでも大半の涙の原因は蒼のせいだ。


「…まーくんは、ずっと俺と一緒にいたいって思ってくれてたの?」

「…う、ん…、おもって、た…っ、…っ」



その驚いたような響きを含む優しい声に、泣きじゃくりながらこくこくと頷く。
胸が痛い。
心が苦しい。

なんでこんな会話することになってるんだろう。
こんなことになるなんて思わなかった。
こんな会話、するはめになりたくなかった。
…蒼が、本当はおれのこと嫌いだなんて、気づきたくなかった。

ぐいと手で涙を拭って、唇をかみしめる。



「でも…っ」

「……」

「でも、蒼がおれのこと、きらいなら…っ、もう、」



いい。もう放っておいてほしい。

そう言おうとすれば、ふわりと抱きしめられる。

蒼独特の甘い香りに包まれて、その温かさを一瞬受け入れそうになった。
でも、心を引き締め、離れようと手で蒼の胸元を押す。


「もう…っ、い――っ」

「好きだよ」


もういいと言おうとして、強い口調で紡がれたその言葉に、息を呑む。
力を抜いた瞬間、背中に回った腕につよく抱きしめられて、髪を撫でられる。

ひっく、と嗚咽が漏れた。


「俺がまーくんのことを嫌いになるわけないだろ」

「…っう、」


その優しい声にぼろぼろと涙が溢れて、ぎゅっと目を瞑った。
頬を流れる熱をもった涙。


「…自分でも、自分の感情がよくわからないから。これが、どういう種類のものかもわからないけど…」


瞳を伏せて、寂しそうにそう呟く蒼の声に耳を澄ませる。
おれの好きな、綺麗で優しい声。


「でも、俺は絶対に、まーくんを嫌いになったりしない」

「…ほん、…っ、とうに?」

「うん。絶対に」


少し身体を離しておれの涙を拭ってそう微笑む蒼に、ほっと安堵して全身から力が抜けた。
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