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更にチャックとボタンを外し、ズボンに手をかけて、

一瞬、躊躇う。


「…っ、」

「ほーら、早く」

「…くっそ!男の見せどころだ!」


人の気も知らないで簡単に言いやがって!ちくしょう!
うおおおおもうどうにでもなれと膝下までずりおろして、一気に足から引き抜いて投げ捨てた。


…すーすーする。

学校でインナーと下トランクス一枚とか冗談じゃない。正気の沙汰じゃない。

誰か今ここに来たらただの変態だ。

「痴漢ー!変態―!変質者ー!」とか叫ばれても弁明できない。

ぶる、と外から入り込んでくる風とちょっと違う意味で身体が震えた。

流石にこれでいいだろ、とまさに後輩の鏡のようなことをやり遂げた気分で椅子に座る、

と、


「やっぱり裸体になってもらおうかな」

「……はぁ?!!!!」


今度こそ目玉が飛び出そうになった。

喉が潰れるかと思った。
さっきの何倍もの声が出た。
顎が外れそうなぐらい、驚く。


「よくあるじゃん。絵画でも、男の裸とかさ」

「あり、ますけど」


それとこれを一緒にするんじゃない。


「あーいうの描いたことないから、ちょっと裸になってみてほしいな」

「嫌っすよ!!なんでそこまでしないといけないんすか!」


だったらいっそのことそこらへんにいる女でいいだろ!
先輩ならきっと皆オッケーしてくれるし、何もオレじゃなくていいだろ!

こうやって他の部員の人達がいないときに限ってこんなことをやらせようとするのはもはやパワハラ…いや、セクハラだとしか思えない。


「無理むり…!!むーりー!」と首をぶんぶんもげそうな程に振って拒絶した。
首が折れたってかまわない。本気で、できないと思った。
そこまで美術に対する意識は高くない。


「……」

「いやいや、そんな顔しても無理ですって」


ぺたんとあるはずのない耳が垂れたような顔で見つめられて、しかし負けないぞと目で応戦する。
ひたすら拒否しまくるオレに、にやりとその顔が意地悪げに微笑んだ。


「あんまり駄々こねると瀬田が女子の着替え、前覗いてたこと皆にばらそうかなー」

「ッ?!?!?ちょちょ、なんで知って、」


偶然便所から戻ってきたら、たまたま一人の女子が着替え中だった場面に遭遇しただけでオレは悪くない!
悪くないはず…だけど、もしこのことがばれたらその女子だけでなく他の女子にも顔が変形するくらいぼっこぼこにされる…または女子に総スカンされるのも間違いない。

…しかも別に駄々なんかこねてないし。


「瀬田」

「…なんすか」

「……もしかして、いや、もしかしなくても…勃ってる?」

「…ッ、ぐ、」


着替えのシーンを思い出して不覚にも勃起した…とは言えずにトランクスの布を突き上げる勢いで天を向いたその部分を隠してそっぽを向く。…ぎゃ、恥ずい。

いや、結構好みの女子だったというか、こう、ボッキュンボン的な女子の下着姿を思い浮かべてこうなるのは健全な男子なら仕方がないことであって、

…という謎の言い訳をしながらうああああとしゃがみ込んで頭を押さえていると、

ガチャリ、と鍵をかけるような音がした。


(……へ?)


恐る恐る顔をその音の方向に向けると、ドアの前にいた先輩が、
そこの鍵の部分を握って横にひねっていた。


(…なんで…?)


呆然として呆気に取られていると、
…振り向いた真剣な瞳をした先輩と目が合ってドキリとする。


「瀬田、俺さ」

「…は、い」


なんか、変な雰囲気に、…上擦る自分の声。
え、ちょ、なにこれ、

その形の整った唇が、開いて


「いい加減我慢の限界だし、襲いたくなってきちゃった」

「        」


(…何言ってんだこの人?!!!マジ何やってんの?!!?!!)

心の声は大きいのに、実際には声にならない声。絶句。

…誰を、とは言ってない。
でも、その瞳が、その顔が、確実にこっちを向いていて


「あ、あの、」と滝のように落ちていく汗を感じながらわなわな唇を震わせて、良くない…凄く良くない雰囲気を察して居ても立ってもいられずに目だけで逃走経路を探していると、


不意にパシャリと鳴る音。


「…?」


ギギギ、と壊れた機械のように首をひねる。
世界が、スローモーションになったような錯覚に陥った。
視線を、動かす。

(…あれ、…は、)

先輩の手にある、四角いもの。
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