◇【胸が苦しいのに、嬉しくて】
がさがさ
ごそごそ
ぴょんぴょん
べちゃ
(…あ、転んだ)
ううう…と泣くのを我慢しているらしく、震えた唇をきゅ、と結んでいる。
「…そんなに大事なものなの?」
「……っ、うん!すっごくだいじ!」
お外行ってくる!と突然思い付いたように家から飛び出した真冬。
そして着いた公園で何かを探し続け、既に数時間が経過していた。
手伝おうにも探してるものを頑固として教えてくれないから、どうしたものかと困り果てる。
一生懸命に土をほったり緑のやつを揺らしたり。寒さでその小さな両手は痛々しいほどに赤く沢山の擦り傷を作っていた。
しかも転んだせいで砂まみれになっている。
「さむいから、くーくんは先におうちかえっててー」
「…まだいい」
真冬がいないなら、あの家に行く意味がない。
そう続けると、にへらぁと嬉しそうに緩む土で汚れた頬。
作業を再開したらしい姿を、はー…と白い息を吐きながら、ただ見守る。
………
………………
…そして数時間後、辺りも真っ暗になった頃
「…っ、あった…!!」
こっちまでつられて笑顔を浮かべてしまうような歓喜の声。
…良かった。と安堵の息を吐き、帰ろうと声をかけようとする。
……と、とことこ近づいてきた真冬が、両手を差し出してきた。
「これあげる!」
その土で汚れまくった手の平のうえにのせられている…四つにはっぱがわかれた、ちいさな緑。
はじめてみるものに「…何、」それ、と首をかしげた。
「…くーくんがいつか好きな人と幸せになって、ずっとずっと笑っていられるような世界になりますように」
優しい表情を浮かべた真冬は両手に閉じ込めたはっぱに向かって瞼を閉じ、祈るようにそう呟いた。
そして、へへ、とはにかむように赤い頬で微笑む、から
「…っ、ま、ふゆ…」
「…わ、」
受けとるよりも早く、その冷たくなっている身体を抱き寄せる。
熱くなる瞼を隠すようにその首筋に顔を埋め、震える唇で小さく感謝の言葉を口にした。
――――――――――
(嗚呼、)
(君が愛しくて堪らない)
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