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それは、高校1年生のとある朝。
「………う…?」
ふいに部屋の隅にあった鏡を見て、映った姿に間の抜けた声が漏れた。
え…?と起き抜けのせいでうまく働かない頭に疑問符が浮かぶ。
「…だれ…?」
鏡の中にいるのは、自分よりはるかに年齢の低い少年の姿だった。
(……これ、だれだろう。)
どうして鏡の前にいるのは自分のはずなのに自分じゃない人の姿が鏡に写っているんだろう。
もしくは自分が透明人間になってしまって、背後に誰かいるのかもしれない。
もしくは俺が実は死んじゃってて幽霊になってるから俺の家が売り払われて今の所持者の姿が映ってるのかな。
もしくは…、
……なんてぐっちゃぐっちゃの思考は怠いまま緩々まわり、段々怖くなってきて後ろを振り向く。
「……………」
誰もいないことにほうっと安堵しながら、でもじゃああの鏡に写っているのは誰なんだという疑問が頭を占めた。
む、と眉を寄せる。
視線を下に向けて、はぁとため息を吐いた。
腕を持ち上げると、服の先がダランと垂れさがる。
「……(…まさか、)」
……いや、本当はすでにわかっていた。わかってたんだ。
その人物の正体は。でもその現実を脳が受け入れようとしなかっただけ。
目をごしごし擦る。
夢かな。俺は夢を見てるのかな。
そうしても、ぎゅっと瞼を閉じてからもう一度開いてみても、視界にある現実はかわらない。
鏡を見て、震える唇を動かした。
「……おれ…?」
おれってこんなにちっちゃかったっけ……。
そして、記憶してるよりも舌足らずで、高めの声。
キョトンと目を瞬くと、鏡に写る人物も同じ動作をした。
なんか起きてから目線が低いとは思ってたけど、まさか本当に自分の身体がおかしくなってるとは思わなかった。
「……ぶかぶか」
口から出る声が幼すぎて、最早自分の声に思えない。
昨日は身体よりも少し大きめぐらいだったはずのパジャマ。
……だけど今はその下にある手が見えないくらい、恐ろしく袖が長い。
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