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色々苦労してきたんだろうというのが言葉の節々から窺えた。
と、思考に耽り、ふいに気づく。
「…?、けど、オレには教えてくれるんだ」
「……」
「……?…何?」
唖然としたようにこっちを見る彼に、首を傾げる。
「…あ、……違、った…?」
自信過剰な発言をしてしまったことを自覚し、慌てて訂正する。
にも、ぎこちない言い方になってしまう。
今の話の流れで、オレには教えてくれるのだと勝手に思っていた。
この数日看護師さんを除いて、彼といる時間が一番多い。
そのせいか、大分緩んだことを言ってしまった。
「……いや、そのつもり…だった、けど」と少々焦りを滲ませたように口ごもった彼が、「そうじゃなくて、もう気づいてると思ってたから、わざわざ言わなかっただけで、」とやや不貞腐れているような口調で付け加えて、
不意に、こっちを見て微かに驚いたように目を瞬く。
それから、げんなりとした表情をした。
「何、その顔」
「……へ?」
何かついているだろうかと自分の顔を触ってみるが、とくに問題はなさそうだった。
「だらしないぐらい、かなり緩んでる」
「…………、うひゃ、ごめ、ごめん」
機嫌を損ねてしまったらしく、綺麗な顔にむすっとした表情を滲ませて頬をむにーっと引っ張られた。
ここで今、さっきの焦ったような彼の様子が珍しくて、それが結構嬉しかったと返答したら頬がすごいことになりそうだ。
聞かなくても名前を教えようとしてくれていたらしいとわかって、更に気分が上がる。
「台詞と合ってない」
「いひゃ、ふひゃ、」
極力怒らせないようにと思っているのに、まるで遊び道具みたいに悪戯に頬を痛くない程度にふにふにされるせいで、うまく言葉が話せない。
(というか、こういう子どもっぽいこともするんだ)
外見と態度から予想できなかった。
今されている行為が、少し意外だった。
こうして部屋で過ごしていると、改めて思う。
二人でいるときの彼は、雰囲気も柔らかいし年相応の振る舞いをするから好きだ。
「ふ、へ、へ」
「……何、」
おさえきれずに緩みきった頬で笑うと、悔しそうに眉を寄せる。
「だ、って、…オレには教えてくれるってことは、オレが少しでも響さ……、貴方の中での、友達ぐらいの関係にはなれてるのかなって思ったから」
「………」
勿論麻由里さんには申し訳ないと思ってる。
人を傷つけておきながら、自分が彼の特別なんじゃないかと少しでも感じることができて、一瞬でも喜んでしまった自分を多少嫌悪する部分もある。それでも、嬉しいと思う感情をとめることはできない。
素直に気持ちを吐き出すと、彼は複雑そうな色を滲ませて目を伏せた。
その反応に、目が覚めた最初の日を思い出す。
……流石にこれは口に出しては言えないけど、あの日…何もわからない状態でキスされて、かなり戸惑った。その後も会うたびに正直すごく気まずかった。
当然だけどオレは男だし、今目の前にいる完璧以上に優れている容姿を持っているこの人も男だ。
今更実は別の人と勘違いしてたのかとも聞けないし、毎日会いに来てくれていることを考えると多分……ああいうことをする相手として……オレであってるんだろう。
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