『ゆか』?誰?結婚??
さっきまでの浮かれは一気に消失した。
「翔すげーわ。彼女が大事すぎてセフレに中出しして発散とか、どこの少女漫画だっつーの」
そこに生じている笑いと対照的に、自分の体温は零度を下り、息をすることさえまともにできない。
「…悠真?」
「……」
テーブルの向こう側で、俺の表情が強張ったのに気づいた逸樹が声をかけてくる。
…こんなのありえねーだろ。何それ。夢だ。こんなの夢だ。彼女が大事だからセフレ?中出し?呼びかけに反応することもできず、立ち上がり、ふらっとそっち、翔の方に歩きだして、
「…っ、」
泣いたら、楽になれるだろうか。
今この場で泣いて、大声で叫んで掴みかかったら、翔はどんな顔をするかな。
いや、いっそのこと、この場で…
ふらつき、何をするか自分でもわからずに、翔の方に歩き出そうとする俺の手を、掴まれる。
「…いつき…?」
「出よう」
俺の視線の先を追って、会話を聞いたのだろう。真剣な顔をした逸樹に手を引かれ、店を出た。俺の家の前に着いても、まだうまく現実を飲み込めない。
「嘘だろ…なぁさっきの夢だよな…?」
「……」
逸樹は、何も答えない。こんなことを無関係の友人に聞いても答えられないってわかってる。それでも、何か応えてほしかった。
「一生知らないままよりは、聞けて良かったんじゃないか」
「っ、なんだよ、それ」
また、その冷静でどうでもいいというような返事に、怒りと悲痛でカッと瞼が熱くなる。逸樹にはわからないだろう。
静かに涙を流し始めた俺に「あー、じゃなくて、俺で良ければいつでも話聞くから、」言いづらそうに口ごもる。
そんな様子に、苛立ちは更に募って。
簡単に言うな。所詮、セフレ程度の存在だった俺の気持ちなんて、コイツには理解できない。する気もないんだろう。俺と違って、人並以上に好意を寄せられやすいコイツに、やっと好きな人と想い合えたと思った俺の気持ちなんて、
「…っ、」
みじめだ。みじめだ。
あんな場面を見たのも。
それを知ってしまったのを、逸樹に見られたのも。
…俺はこんなに醜く嫉妬に駆られてるのに、なんでお前はいつも通りなんだ。
俺だけ汚くて、なんでお前は、
「じゃあ、お前がアイツの代わりになってくれよ」
「…は?」
泣いて、笑って、苛立ちをぶつける。
逸樹の腕を掴み、強引に家の中に連れ込む。
抵抗しようとする身体を力尽くで壁に押し付け、キスをした。
――――――――――――
【彼が毎回俺に中出しする理由】
「……――っ、」
(最低だ。わかってる。)
(最低だとわかっていても、頭がぐちゃぐちゃで、自分が止められない)
END