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……きっとこうなるって、なんとなくわかってた。
「…っ゛ぐ、ぅ…」
「もうされるわけないって思った?」
そもそも、今回は久遠が悪い。
最初は澄ました顔してたくせに、酔い始めると段々挑発するようなことを言ってきて。
…まるで、首を絞められることを望んでいるような瞳。そこから、涙が溢れて顎に落ちた。
「久遠が誘ったから、俺は悪くないよ」
「だ、…ぇ」
何かを言い返そうとしたらしいのに、全然声になっていない。
…――カラオケのトイレ。
その一室の壁に身体を押し付け、首を絞めている手に力を込める。俺の手を外そうと必死にもがいて、爪に引っ掻かれる。
ドクドクドクドク、と指先に感じる動脈の悲鳴。締めるたびに久遠の顔色がどんどん悪くなっているのが目に見えてわかった。
(…久遠が俺の手で苦しんでる。強気な顔が涙でぐちゃぐちゃになって、こんなに手足をばたばたさせてみっともなくもがいて…)
今自分は酔っている。だから仕方ない。
けど、それでも残った理性がこの異常な状況と自分の酷く興奮した感情に戸惑い、震えを呼ぶ。
…なんでだよ。
久遠が参加しなければ、俺はもうこんなことしなくて良かったのに。あんなことされた後に来るとかどうかしてるんじゃないのか。
そもそも俺はこんなことをして喜ぶような人間じゃない。まともなんだ。異常者じゃないのに。なんで、なんで、こんなのおかしいだろ。
あの日から、酔った久遠に触れた日から、全部変わった。
彼女といるのに何度も何度も思い出して、考えるのをやめないとと思うともっと思い出してしまう。
首を絞めて、絞められた時の顔を見てしまったその瞬間から頭に焼き付いて離れない。
「お前のせいだ、お前のせいだ、お前の、…っ、」
「…っ、が、げほっ、げっ、」
手を離しても、ずっと残っている。
陶酔、高揚感、歓喜、全部そんな感情ばっかりで本気で泣きたい。
……わかってる。悪いのは俺だ。
むしろ久遠は…被害者で、
よろよろと後退すれば、すぐに狭いトイレの壁に背がぶつかる。顔を覆って動揺に耐えようにも、どうしようもできない。
せめてこの場から逃げ出そうとトイレの鍵に手を伸ばそうとして、
「っ、なに、」
腕を、掴まれた。
振り向けば、床に蹲って咳き込んでいたはずのくしゃ、と苦痛に顔を歪めながらも、久遠が涙でぐちゃぐちゃになった顔で俺を見上げていて、
「…や゛、めなくて、い゛い…から、」
「ッ゛、」
「もっと、俺に、」
懇願するような表情に、…ぷつ、と何かが切れた。
(……なんで我慢しないといけないんだっけ)
酔ってるんだから、もう全部どうでもいいか。