俺が一番じゃなくても、いいよ


決して嘘ではない。
決して、彼にとって嘘ではないのだ。

「…っ、痛い…?ごめん、ゆっくりに、するから」って頭を撫でてくれた手も、
「可愛いね」って繋がる時に必死に漏れる声を抑えていた俺への微笑みも、
「好き」って抱き締めてくれた体温も、


…決して嘘ではないのだ。

――その瞬間の、好きだと思った相手になら、誰にでも同じようにする…俺の好きな人は、

昨日セックスし、大事に扱ってくれた彼は、
…今 俺に言った言葉とはまた別の甘い言葉を吐いて、知らない女と舌を絡めて抱いている。

これを目にするのは一度や二度のことではない。
もう見慣れた光景。感じ慣れた痛み。

彼には、恋人と呼べるか不明な関係の相手が、数えきれない程いる。

けど、それは別に彼が浮気性とかそういうわけではなくて。
ただ、その瞬間に好きだと感じる人を、その想いのまま大事にしているだけで。(彼が困ったように笑って話していた)

そうだよなぁ、と思う。

「…好き、なんて不確かだもんな…」

そんなの、これまで生きてきた人生で知らなかった…なんて言い訳できるはずがない。

だって、皆そうじゃないか。

周りを見て、浮気なんて…とか、好きな人がころころ変わるのはおかしい、だなんてそんなこと言える人が、この世にいるだろうか。

結局同じだ。

本気で好きになった複数人と同時進行で付き合おうが、別々に付き合おうが、同じだ。
結果的に人生で好きになるのは一人だけじゃない。

いつの間にか好きな人が変わっていることに違いはない。

昨日ある人をこの世で一番好きこれからもずっと好きだと言っていた人が、知らない間に別の人間に心変わりをしていることがあるんだって…小学生でも知っている。

だから、彼を手に入れようとは思わない。束縛しようだなんて思わない。
授業後、彼の席の前まで行く。


「…裕生」

「ん?」

「誰もいないからさ、今から俺の家に来てよ」


皆に酷い人と言われる彼は、嘘をつかない。

だから、その瞬間だけでもいい。

俺のことを好きと言ってくれる唇も、俺を大事に扱って撫でてくれる手も、俺とできるなら他の人すべてと関係を切っても良いと抱き締めてくれた腕も、その瞬間は本物だから。


…どうせ、明日には別の女に愛情を向けているのだとしても、

微笑み、受け入れてくれる彼に、
それでもいいからと、また今日も俺は甘く優しく抱かれるのだ。

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