15

弄んでいるようにオレと絡めた指をきゅって繋いで、冷たく、暗く陰った瞳で、クスリと笑う。


「俺を売って得た幸福は、如何でしたか?」

「…っ、売って、なんて、ない…っ、」


そんなつもりはなかった。

さっくんは、オレよりも桃井の方が良かったから、だから受け入れたんだと思ってて、今も、そう思ってて、なのに…だったら、どうしてそんな顔をするんだ。

泣きそうになる。
その表情で零された台詞に、感情が揺さぶられる。苦しくなる。

…いつもの…優美で、人を安心させるような笑顔じゃない。

口許には優しげな笑みさえ浮かべているのに、なにかがおかしい。

…そう、思ってしまうほど、空気が、


「けれど、これでわかったでしょう」

「…っ、なに、を」

「彼は、貴方のごっこ相手に、…相応しくなかったのだと」


零された言葉に、違う、と否定はできなかった。…というより、しなかった。

それより、オレの脳内を占めているのは、涼のことではなくて、

…彼が、冷たい表情で微笑みを浮かべているさっくんが、

一瞬後には崩れ落ちてしまいそうな、危うい雰囲気に見えて、心臓の深い部分が苦しくなる。


「まぁ、御遊びにしては、随分…度が過ぎていたようですが」

「……遊びじゃ、ない」


やっとのことで搾りだした声は、小さかった。

涼に流されたのは事実だ。

エロ漫画の場面を実際に体験してみて、確かに気持ちよかったのも本当だ。
初めてで、余計に知らないことばっかりで、興奮もしたのも嘘じゃない。

…でも、なのに結局一回もイけなくて、何かが物足りなかった気がするのも本当で、

俯けば、顎を捕らえられ、強引に目を合わせられる。


「覚えておいてくださいね?」


髪から、頬から、雨の雫を垂らしたさっくんが、どこか可愛らしく、小首を傾げ、て、


「夏空様…貴方のせいで、彼は壊れてしまった」

「…こわれた?」


そんな、変なことを言った。

人形が、ロボットが、機械が動かなくなった。

そう言っているのと同じような軽さで、綺麗な微笑を零しながら、頬を撫でてくる。


「貴方が、貴方自身の手で、大事な人を…宮永涼を、壊した」

「っ、ぇ…、?」


囁きが、耳から体内に落ちてくる。
震えがとまらないオレの唇を塞ぎ、嬉しそうに、泣きそうに、幸せそうに、悲しそうに、微笑む。
prev next


[back][TOP]栞を挟む