19
…その、姿に…驚きで、息が止まるかと思った。
心臓と呼吸とが、同時に消えた。
「………」
ごくり、と唾を呑む。
目に映る光景に、心臓が、跳ねる。
「………っ、……ごめん、」
「……?」
ぽつりと、その薄い唇から小さく呟かれる言葉。
「……っ、…ごめん、なさい、」
何を謝られているのか、わからない。
それに、小さい子供が、これ以上ないほど、悪いことをしたときみたいな謝り方で。
いつもの敬語でもなくて。
…というか、今はそのことより、
それより、
「――さっくん、なんで、…ない、て…、」
「…っ、……っ、」
彼の、綺麗で整った顔。
それが、見てるこっちの胸が張り裂けそうなほど悲痛な表情にくしゃって歪んでて、
寒いのか血の気が引いて余計に透き通るような白い肌に、明らかに雨とは違う透明な涙が幾度も零れて…
どうしてだろう。
……こんな状況で、…とても美しいと、思った。
切なげに、苦しそうに、けど、冷たいと思わせるほどの美しさを称えた目から、ただひたすらに零れる雫。
「夏空、様…、」
「…っ、わ」
彼の手がこっちに差し出された瞬間、固まっていたように動けなかった足が、突然力をなくす。
「…――っ、」
「……っ、う、ぁ、」
ぎゅう、
床に崩れようとした瞬間、捕らえるみたいに強く、抱きしめられた。
異常なほどに震えている身体が、氷みたいに冷えきっている。
冷たくて、寒すぎて、反射的に離れようとすれば、それを拒むように強く、密着する。
「………」
「ぐ、ぐるしい、ぞ…っ、」
壊れそうなモノを大切に、けど、すぐに飛んで行ってしまう何かを離すまいとぎゅうううっと腕の中に閉じ込められた。
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