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あんなにこっぱずかしいことを散々言わせておいて、まったくする気がないではないか。


「買い物の時間、御傍から離れてしまい…死ぬほど寂しかったので思う存分補給しないと…」

「さ、さっくんはいいだろうけど、こっちは下に何も履いてないんだぞ!」


オレが心臓ドキドキのフルチンの状態なのに、たいしてさっくんは全身スーツで

だから後ろから抱き竦められたままのこの状況に困るのはオレだけだし、恥ずかしいのもオレだけだ。


「ほきゅーするならするで、後にしろ。うんざりするほどさせてやる」

「…夏空様、」

「…何でも言うこと聞いてやる。だから、」


焦り、早口になる。
熱く、息が零れる。

(…もう、限界…なんだ)


気持ち良くなりたい。

…焦らしに焦らしたせいで、我慢できない。

早く…気持ちよく、なりたい。

振り向いて、きゅ、とそのスーツの裾を掴み、太ももををもじもじさせる。
それから、震える唇を噛み、そっぽを向いた。


「はやく、触って、くれ…おねがい、だから…」

「…っ、!!」


むずむずにずっと耐えているせいで、自然と普段より声が弱々しくなる。

…ごく、とやけに大きく息を呑む気配がした。

その音に、そっと視線を上げる、と


「……」

「……っ、?」


今までに、見たことのない表情をしたさっくんが…そこにいた。


「さっくん…?どうし」

「……嗚呼、申し訳ありません。あまりにも可愛らしく煽情的なおねだりに胸を射貫かれ、少々息が止まってしまいました」


あまりにも珍しい表情に目を見開き、その頬に触れようとした。
けど、手の平で目元を覆われ、見えないようにされてしまう。


「わ、」


真っ暗になった視界にびっくりしている間に、ぎゅうっと縋りつくように抱き締められた。


「………」

「…………?」


少しの間、ずっとそうされていて、

……数秒か、数分後、…抱きつかれた状態のままぐるんとまた反対の方向に身体ごと向かされる。

さっきと同様、自然とさっくんのすらっとした長い脚の間に座る格好となった。


(…ていうか、いまのさっくん、なんか…泣きそう…だった…?)


いつものわざとらしく照れた表情じゃなかった。

いまのオレの言葉に、何か傷つけるような何かがあったのだろうか。
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