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それから、紙をすべて床に落とす。
ぱさぱさと数枚の紙が畳の床に乱雑に散らばった。


「今日は何にしましょうか」

「しろにゃんこ!」


即答だった。
最近学校帰りに見た猫が、あまりにもいんしょーてきで今でもはっきり覚えている。
真っ白で、スタイルが良くて、すっごく美人さんだった。

”さっくんみたいだ”と言ったら、「…そう、でしょうか」と首を傾げ、困ったように笑っていた。


「…嗚呼、あの猫ですね」


オレの思考を読んだらしいさっくんが、ふ、と笑みを零す。
量が足りなかったのか、今落ちてるの以外にも何十枚にもなるだろう紙を取り出し、床に投げ捨てた。

今では最初に比べて結構な枚数の紙が床にひろがっている。


「では、…始めさせていただきますね」

「…うん…っ」


わくわく、どきどき。
期待に胸を膨らませながら、こくんと頷いた。

その首に腕を回し、様子を見守る。


「……(…やっぱり、良いな…)」


これを始める時のさっくんの雰囲気が好きだった。

いつもの優しい笑顔じゃなくて、…真剣な表情。

…集中するように、さっくんが瞼をす…と静かに閉じた。

そうすると、彼の黒色の髪をふわっと何かが撫で、身体が少しだけ輝いたような錯覚を受ける。

…その姿を綺麗だと、いつも思う。


「―――…」


ほうっと心を奪われたみたいに見惚れ、…息をするのを忘れて見つめる。

そして、

オレをだっこしていない方のさっくんの手が、床に落ちた紙の上にかざすようにして差し出された。


「…夏空様に従順な、ねこ。…ただし、俺より好かれないで」

「…っ?!」


そんな変な呪文?みたいな呟きにぎょっとした途端…


「…!…わあ…」


紙人形がふわりと浮いて、…一枚一枚が連なり、中は空のまま、とりあえず外側だけを生めるようにしてねこの形になる。

折り紙のようなねこっぽい形になった後、…ぱあっと一際強くキラキラとした光を放つ。


「っ、むぎゃ!」


ぶわっと突風が目の前に吹き付けてきて、思わずさっくんの首に回した腕でぎゅっと強く抱き付いた。
あったかい肌の感触に安堵し、同時に揺れる黒髪からなんだか懐かしくて良い香りがして、ちょっとだけ怖い気持ちが薄まる。


「夏空様、もう顔を上げても大丈夫ですよ」


さっくんに抱き付いてぶるぶる震えるオレの頭を撫でながら、優しくかけられる声。
うん、と頷き、おずおずと顔を上げ、…さっきねこっぽい紙形があったところを見る。


…と、


『…にゃー…』


そんな鳴き声を漏らし…きょとん、そんな感じの目が、オレを見上げている。

…――雪みたいに白くて、綺麗で、どこか儚い印象の子猫。

あの日見たままの猫が…そこにいた。
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