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さっくんもオレが無理矢理されて苦しんで、怖くて、嫌だと思った分も傷つけばいいんだ。

喉が痛くても、激しい行為のせいで舌も身体もうまく動かなくて、まだ震えがとまらなくても、それをぜんぶぶつけるように叫んだ。

いつも優しくて大好きなさっくんが、怖い。ここまで怖いと思ったことなんて今までなかった。

頭が痛い。心臓が痛い。胸の奥が痛い。
どこがいたいのかってわからないくらい、全身があまるところなく痛いような気がする。

…息が苦しい。うまく呼吸ができない。怖い。嫌だ。こんなの、嫌だ。

家族ならみんなしてて当たり前のことだって言われても、こんなに全部が痛くなるなら、もうしたくない。

色んな気持ちがごっちゃになって泣きながら、まだ感触が鮮明に残っている唇を手の甲で拭う。
目から零れてくる涙ごと、ごしごしと擦った。



「でて、いけ…っ、もう、…さっくんなんか、どっかいっちゃえ…っ!」


泣いてる顔を見られるのも嫌で目をぎゅっとつぶったまま、さっくんがいるだろう方向に適当にそこらへんにあったぬいぐるみを何個か投げつける。そのうちの当たったいくつかが、地面に落ちた音がする。

そして震える身体を抱き締め、幼児に戻ったみたいに咽び泣いていた。

…すると、


「…そう、ですね」


ぽつりと、少し離れた場所で静かに零された声音。
悲しそうに微笑み、泣きそうな吐息まじりの台詞。

それから、


「……俺は執事なのに、…貴方を泣かせて、傷つけてばかりですね」

「…っ、」


なんだか、さっきよりもずっと泣きそうで、
…けど必死に感情を押し殺したような声が聞こえてきて、…ドク、と心臓が跳ねた。

ちょっと離れた後ろの方にあった気配が、…足音が遠ざかっていく。

その後…何かが、閉じるような音が聞こえた。


「…ぁ、」


振り向くと、…ぱたん、とリビングの扉が閉まったところだった。
…どっか行けって言ったのは自分なのに、追いかけるように手が、身体が動こうとする。


「……う゛ー…っ、う、ひ、ぅ……ぇ、…?」


……そして、もっと遠くで、ガチャ…と、玄関のドアが閉じる音がした。
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