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肩が、身体が、震える。
瞼の裏から零れる熱い涙がシーツに染みていく。
今だけは俺のものだ。
……今だけは、彼は俺だけのもの。
だから頬を伝うものは喜び以外の気持ちから来る涙なんかじゃない。
…絶対にそれ以外の感情から来る涙なんかじゃない。
「…っ、」
「………」
多分彼も俺が泣いてるのに気づいてた。
でも、そのことには触れずに後ろから俺の身体を抱く。
「っ」
不意にビクッと小さく身体が震えた。
俺の手にそっと重ねられた彼の手。
お互いに汗ばんだ指を絡めるように優しく握ってくる。
一瞬驚いて、熱い涙を零す瞼を閉じてきゅ、と握り返した。
繋がった手。絡めた指。
背中から伝わってくる彼の体温。鼓動。その存在全てが…愛しい。
それなのに。
今彼と繋がっているのは俺のはずなのに
(彼の恋人は、…俺じゃない)
それが何を意味しているかなんてもう嫌というほど理解している。
「…――」
俺を抱きしめたまま、小さく名前を呼ぶ彼の声には応えず息を殺して泣く。
直接こんな状況じゃなくて、面と向かってこの想いを言葉に出来たら良い。
そしたら、きっと唯人のことを諦められる。
きっぱりと振られれば、次だと気持ちを切り替えることができるかもしれない。
でも、こんな風に嘘でも好きだなんて言われたら…絶対にもう忘れることなんてできない。
今この場で
「ずっと好きだった。だから傍にいてほしい」
そう言えたらどれだけ楽だろう。
でもそんなの言えるわけがない。
喉の奥で震える声帯が熱い。
(……言えるわけが、ないんだ…)
…―だって、彼は明日他の女の人と結婚する。
*****
俺達は、ずっと友達で、同級生で、…男同士で、
だから、「好き」だなんて感情……言葉にできるはずもなかった。
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