ないものねだり
私は私の兄が好き。
それを知らない色々な人から“一目惚れした”だの“付き合ってくれ”だの散々言われてきても、全て振っている。そのせいで異性に興味がないと勘違いされることにも、もう慣れてきた。
けれど彼――レオだけは違った。私の叶うはずのない想いを、彼は見抜いたらしい。
「君さあ、色んな人からの告白振ってるらしいんだけど――それって、もう他に好きな人がいるから。で合ってる?」
「あ、合ってる…!」
彼が全てを見通す目を持っていることを知っていたとはいえ、やはりこうして直に看破されると動揺してしまうものだ。
「その人――私のお兄ちゃん、なの…引いてない?」
「全然?俺もそうだから…というか、その人は俺の妹の婚約者だけど」
私が知らなかったことまで、あっさりと言ってのける。
「“自分もそうだから”って…」
「ああ。…俺は妹が好き。だからかな、君の気持ちは痛い程分かる、」
自分でも驚くほど、冷静さを欠いていたんだろう。
「ねえ、私でも代わりになれる?――レオ“兄さん”」
「かもなー。…君が代わりになってくれるならね、“ミカ”」
「…妹さんはミカさん、っていうの?」
「合ってるけど違うかな。本当はミシェーラなんだけど、それをドイツ語読みしたらミカエラになるからさ?」
ミシェーラさん。
私が好きな人の婚約者で、レオが本当に好きな人。
「それでミカってわけね…」
私も、普段はお兄ちゃんのことを兄さんなんて呼ばないし…あくまで私達は本当の兄妹ではありませんよ、という一線か何かだろう。
まだ自制意識があるからこそ残せる選択肢。もし“それ”がなかったらどうなるかなんて…お兄ちゃん、なんて呼んだら戻れなくなると、頭ではわかっている。
妹さんを知らない私が彼女の代わりになりきれるわけがないし、彼とて完全な代わりにはなれやしないんだろう、例え彼が義眼で私の過去を視ていたとしても。
それでもいいのなら、という条件は元々付いていたはず。
だからこそ、この暗示から抜け出すのが怖いんだ。
「兄さ…レオ?」
ほんの少し目を開けただけで、緩い暗示は解けかける。けれどそんな私を彼が許すはずもなく、頭ごと抱え込むようにして――その後は何も見えない。
「…あー、もう…俺として見ない、って約束だろ…っ」
彼は目を閉じるのには慣れているようだが、生憎私は目に特殊な事情があるわけではないので、そうはいかない。
「なんかごめん、私が言い出したのに…」
「確かにな。俺の姿が見えたらもうそこで覚める感じ?」
「かも、」
「閉じてられない?」
「難しい、かな…」
「そっか…成る程ね」
彼が取り出したのは恐らくスカーフか何かだろう。それで私の目元が覆われて、視界はまた暗くなる。
「これで大丈夫、かな?」
「…多分」
「もう少しこのままでいい?…ただそれだけでいいからさ、」
「いいよ…満たされるまで、側にいるよ?…お兄ちゃん、」
(自制意識なんてもうどうでもいいと捨ててしまったさ、)