次の授業に備えて教科書やらノートやらを出している私に、先程まで世間で言うガールズトークというやつをしていたはずのクラスの女子から声がかかる。
「ねえ、神山さん」
普段はクラスの女子達と距離を置いている私だが、なにかしらの話題を振られることもないわけではない。それは授業関連の用事だったりもするけれど、こういった話題に巻き込むために質問されることも多かった。
進学校であるこの場所に恋愛ごとなど無縁だと思っていた私は、最初の恋バナらしきものを耳にしたときは少しだけ裏切られたような気にもなったか。寮でも2年生まで相部屋だった子が引っ越して以降は事実上1人部屋のような状態なのだが、その相部屋だった子も女子らしい女子というのか、そういうことを根掘り葉掘り聞いてくるような子だったような記憶はある。
内側に踏み込まれること自体はなんとも思わないし、静寂を脅かさないでくれるのであれば、私としてはどうでもよかったのだけれど。
「どうかしたの?」
「神山さんって、牛島くんと付き合いだしたってほんと?」
「……わっちゃん?が、何?」
『わっちゃん』こと同級生の牛島若利とは元々母親同士が知り合いで、いわゆる幼馴染という言い方が一番近いのだろう関係性だ。周りはそれを聞いただけで凄いとかなんだとかと持て囃すけれど、私にはそれがどうもあまり理解できなかった。
彼女達が凄いと評しているのは東北唯一のユース選手らしい彼と一緒にいることなのか、それとも人にあまり興味を示さない私が誰かとつるんでいること自体なのか。前者なら凄いのは努力を積み重ねた彼自身であって私ではないし、もし後者だとしても気がついたら一緒にいたというだけの関係性の何が凄いのかが私にはよくわからない。
幸い男子達は男子達で話をしており、この会話がわっちゃん本人の耳に入る可能性は低かった。この3年3組で何かあると彼の部活仲間だという山形くんが仲裁することもあったけれど、しかし空気の読める山形くんはこの手の話題には決して割り込んでこない。あるいは彼女達はそれを見越した上で、私に話を振ってきたのだろう。
「幼馴染なんだって?どんな感じ?」
「んー……まあ、付き合ってはもらってる、のかな?」
「付き合って……!?じゃあさじゃあさ、キスとかもしてたり……!」
「してるよ。――って言ったら、何になるの?」
確かに私はわっちゃんの手で、彼女らの言うような『人間』に近づけてもらっているけれど、それを私から聞き出したところでいったい何になるというのか。他人の生殖行為を聞き出す楽しみが全く理解できない私にとってはカマキリやら蜘蛛やらの卵嚢から幼生が孵化していくさまを見ている方がいくらかマシにすら思えるくらいで、もしかしたら部活仲間だという天童くんにサダ子の話題を振られたときのわっちゃんの心境もこんな感じだったのかもしれない。
報酬系を刺激し快楽物質を分泌させる、そのメカニズム自体には本来相手など関係ないはずなのだが、だいたいの人にとってはそうではないのだろう。事実、周りの子達は無関係の身であるはずなのに『あの神山さんが?』だの『わっちゃんって呼ばれていることだけでも驚きなのに、そういう関係にまでなっているなんて』だのと、平然と言い切った私をよそにどよめいていた。お似合いだと評している子もいたけれど、お似合いとかどうとか、いったい私の何を見て言っているのだろうか。
確かに私とわっちゃんは似ているところがあるし、だからこそ彼の側にいるのは生き心地がいい。けれど、きっとこれは恋とは呼ばない。
この間付き合ってくれと言われて、それを受け入れた関係だとしてもだ。
*
そんな私だから、学食の時間になっても私は1人でいることが多い。
今日もいつも通り、この学園を卒業する前に食べられる限りは味わっておこうと注文したたらこバター丼を1人で黙々と食べていれば、わっちゃんとその部活の仲間らしき人達が同じテーブルに座ってきた。見たところ3年生だけだったのは、既に引退済みの彼らと現役の後輩達とではスケジュールが合わなかったからだろう。
どうせ私しかそのテーブルを使っていなかったのだしまあいいや、などと思ったのも束の間、斜め前の席に座った天童くんが早速私に話を振ってくる。
「ね、神山ちゃん。最近、若利くんと付き合い出したんだって?」
「おい、よせ天童」
天童くんもわっちゃんと同じく妖怪と呼ばれているけれど、恋愛方面の知識は天童くんの方が豊富らしい。事実わっちゃんは彼に色々と入れ知恵をされたようで、2人のときは私を名前で呼ぶようになったのも彼の差金による部分が大きかった。
そんな天童くんとそれを止める瀬見くんをよそに私の目の前で好物だと言っていたハヤシライスを食べているわっちゃんからしても、こういうことを訊かれるのは慣れていたようだ。部活を引退後もジャンプを貸し借りするような関係性と聞いていたあたり、彼らは特に仲良くしていたのだろう。
「天童くんも、クラスの子達と同じこと言うんだね。残念だけど、君が想像している『付き合ってる』じゃないと思うよ」
「はは、慣れてんねー」
「小さい頃から一緒にいるからな、今更これ見よがしにベタベタする必要もないだろう」
「ほんと、どこにいても2人とも変わらねーな」
山形くんの言う通りだ。クラスでも、寮でも、校内でも、学校の外でも変わらず、私達はただ私達としてそこに存在していた。
わっちゃんと私は少し前から正式に交際するようになったけれど、好意というものがよくわからない以上は恋人同士なのだとかそういう意識など持てるはずがなく、結果的には今まで通り幼馴染として接している。彼もそれを理解してくれているから、2人になっても呼称が変化するだけであまり態度を変えることもなくいつも通りに接してくれていた。
変わったのはむしろ周りの方で、付き合ってくださいと言われる頻度は前よりも減ったような気がする。何を言われても理解できない以上相手にするのも面倒だしその手間が省けたのはいいことなのだけれど、何よりもわっちゃんが自分以外とそういう関係にならないようにと牽制しているからでもあるらしい。とはいえ、そもそもその行為自体を私自ら周りに求めているわけではないので特に大きな問題には発展していないし、逆にわっちゃんが私以外とそういうことをしても私は構いやしないのだろう。
「ああ、どこにいても俺は俺だ」
「そういうことじゃねーんだよなあ……お前、ほんとに神山と付き合ってんだよな?」
「そうだと言っているだろう。俺は神山と交際しているし、お前達が想像するようなこともしている」
「いや、はっきり言い過ぎだってば若利く〜ん!」
しかしそれは私が好意というものを理解できないからそう思うだけで、周りから見たわっちゃんは私に対する執着が重いらしい。
彼の目に私がどう映っているかなど知りもしないけれど、少なくとも彼は私の事を好いてくれていて、私を大切に思ってくれているようだ。拒みも求めもせずただされるがままを受け入れる私をつまらない女だと思うなら他の人としてもいいよと前に言ったこともあるけれど、それ以降も彼はキスもそれ以上の行為も私だけとしているのだという。
事実、私の昼食を一口分けてもらおうとする天童くんに対して、わっちゃんはこんなふうに牽制したのだ。
「そういや、神山ちゃんって何食べてんの?」
「たらこバター丼。天童くんも一口食べる?」
「……食べたいなら自分で注文しろ」
「そうだね。それがいいと思うよ、まだ売り切れじゃなかっただろうしさ」
目の前にいるのは部活を引退したとはいえまだ成長盛りであろう高3男子だ、満たされるのに一口で足りる保証はできないし、もし本当にそうであるのなら満たされるまで食い尽くされてしまうだろう。そうなったら私の分がなくなってしまうからと、わっちゃんに同調する形で私も忠告する。
けれど、彼の意図するところはもしかしたら違うのかもしれない――それをやがて思い知らされることを、今の私はまだ知らない。
***
それは放課後、寮の共有スペースで。ソファーに座りながら教科書とノートを形だけでも広げ、隣のわっちゃんの方を伺う。
元々部活のない日はこうやって得意科目だけとはいえいつもある程度の勉強を教える形になっているのだが、彼が部活を引退してからは進路のこともあり勉強を教えるという目的は形骸化していて、ただ2人でいるための理由を作るだけのものになっていた。このソファーつきの共有スペースは寮の中に何部屋かあり、表向きは勉強や仮眠などに使われるものの、裏ではこうやって逢引きの場所として使われることもしばしばなのだという。
成績に関しては推薦なしでの一般入試ができた分私の方が上手くできるはずだと彼からも言われたことがあるけれど、私からしてみれば彼の方が私を人間へと導いてくれる先生だった。事実――私は彼が昼食のときにあのような態度をとった理由を、深くは知らなかったのだから。
「……**」
「ん……どうしたの?もしかして、わっちゃんも食べたかった?」
「そういうことじゃない。……俺が牽制しなければ、危ないところだったんだぞ」
「ああ、あれ?わっちゃんが止めたのって……やきもち、妬いてたの?」
どうやら、あのときのわっちゃんは自分も食べたかったというわけでも、ましてや天童くんが一口では足りないんじゃないかということを心配したのでもなく、彼以外に私がものを分け与えるのが許せなかったのだろう。事実、彼に止められた直後の天童くんも『間接キスはやっぱりダメか』などと呟いていたような記憶がある。
天童くんの性格上、わっちゃんを嫉妬させて私にそれを気づかせることで私をさらに人間たらしめようと焚きつけた可能性が高いだろうし、もしそうであれば私達は天童くんの推測に上手くハマってしまったということになるのか。
「ああ。……幼稚、だろうか」
「どうだろ?なんで関係ないはずのわっちゃんが止めるのかな、とは思ってたけど」
「お前は、そういう奴だな」
確かに、まごうことなく、わっちゃんの言う通りだ。
物事に執着することを知らない私には、彼の言うことはよくわからない。この間推薦の決まったあの大学だって、心理学を学ぶことで彼の手を借りなくても周りの言う『人間』に少しは近づけるだろうと受けただけだったし、あのたらこバター丼もせっかくだからと頼んだだけで、もし売り切れていたら別のものを頼んでいただろう。
それと同じで、わっちゃんが誰かと仲良くしていても多数に慕われる彼ならば仕方ないことだし、大学に行く予定の私とプロの選手としての進路を既に見据えている彼の間ではこうして足並みが揃っている時間自体が永遠じゃないことも理解している。そもそもわっちゃんにはわっちゃん自身の、牛島若利としての人生があり、彼が生を受けたのは決して私の生き心地をよくしてくれる存在としてでも私を人間に近づける存在としてでもないのだから、ずっと側にいてほしいなどと無理を言うつもりはない。
けれど彼は、誰かに恋焦がれる人間の大多数は、その相手がまた別の誰かに取られそうになると焦りと妬みを覚えるものなのだという。彼の引退が決まったあの日、人の原動力は大概幼稚なものだと天童くんから言われたらしいけれど、その通りに多少は幼稚さを含んでいたほうが人間らしいのだろうか。
「そうかも。……あはは、やっぱりわっちゃんの方が人間らしいや」
「ああ。お前は俺が他の奴と喋っていても、何も言わずに送り出すような奴だからな」
「だって、ね?わっちゃんは皆に慕われてるのに、それを邪魔してまで独り占めしちゃうのも悪いでしょ?それに――」
本来、人は誰のものにもできないんじゃないの――そう言った瞬間、わっちゃんは何を思ったのか私を引き寄せ腕の中に閉じ込める。それが意味するところなどわからないままその突然の行為に抗うこともせずただ受け入れていれば、そのまま噛みつくようなキスが降ってきて。
冷静沈着と評される彼がこうも激情に駆られるなど、少なくともあの場で恋バナをしていたクラスの女の子達は思いもしないだろう。試合での彼を知っている天童くん達はまた違うことを思うのかもしれないけれど、少なくとも私にはこの一面を引き出すに至るまでの原因が、独占したいと望まれるまでの価値が――アイドルでもなければ億万長者でも、まさにわっちゃんのようなスポーツ選手でもない、ただ彼と幼馴染だっただけの私にあるとはまだ自覚できなかった。
そういえば2年くらい前、学校案内パンフレットのモデルを頼まれたときもそうだ。結局は断る理由も特になかったので被写体に徹していたものの、話を受けた当時から既に名の知られた彼ではなくわざわざ私を選ぶ必要があったのだろうかと、ずっと疑問に思っていた。とはいえ教師がモデルとして私に目をつけたのと、わっちゃんが私を独り占めしたがるのとでは重みが違うのだろう、それだけは肌で理解できる。
「ん、ぅ……ッふ……ぁ、わっちゃ……?」
「……っ、**……こちらを、向いてくれ……」
「わっ、ちゃ……ぁっ、」
私の口の中に押し入って、這い回って、蹂躙して。冷め切ったマネキンの身体に体温を灯していくかのように、わっちゃんは深く深く舌を絡める。
ざらついた欲望にあてられるたび、深層から本能を引きずり出されるような――舌を絡ませるキスは初めてではないけれど、溺れてしまうのではないかと錯覚しそうになる感覚は、やはり何度経験しても慣れることはなかった。
それなのに、息継ぎすらまともにできないというのにそれを拒むこともなく受け入れ続けている私は、もしかしたら心のどこかでそれを渇望しているのかもしれない。
「……っ、は……大丈夫か……?」
「だ、大丈夫……だよ。ちょっと、苦しかっただけ、だから……っ、」
「そうか。なら、痕をつけても大丈夫そうか?」
「クラスの子が言ってた、キスマークのこと?……つけていいよ、わっちゃん。いくらでも……」
制服のリボンを外され、ひとつふたつとボタンを外され――やがて、ちりりと鈍痛が走る。ああ、今キスマークなるものをつけられているのだなとぼんやりする頭で理解する頃には、私の鎖骨に紅い痕が刻まれていた。
これが意味するところはよくわからないけれど、痕を残され傷物になった私は、少なくともマネキンとしては使い物にならないだろう。それもそうだ。彼は周りから浮世離れしていると評され遠巻きに見られるマネキンではなく、独占できる存在としての私を望んでいるからこそ、私が『人間』へと近づいていくのをずっと側で見守っているのだ。
「……ん、ついたな。白くて綺麗な肌には、よく映える」
「そう?見えないからよくわかんないけど……わっちゃんがそう言うなら、そうなんだね」
「ああ。……お前を、俺だけのものにしてしまいたい……」
囁くようにそう溢したわっちゃんは、私の鎖骨についた紅い痕を愛おしそうになぞってくる。季節柄少し冷たい彼の指のくすぐったさに身をよじれば逃がすまいと空いた右手で私の肩を引き寄せ、そのまま首筋を甘噛みされた。
噛まれた、と言っても血が出るほどではない。痕が残ろうが傷ができようがマフラーでもすれば隠れるだろうし、そもそも人に見えない場所につけられているのだから、どうだっていいのだけれど。
「ふふ……くすぐったいこと、するんだね?」
「くすぐったい、か……じゃあ、これはどうだ?」
「?……ッひゃ、ぁ……!?」
唇は耳元まで移動していき、すぐにまた甘く噛まれる。そのまま耳の縁に舌を這わせられたり、咥えて飴玉のように舌で弄んだりされるたびにあまりのくすぐったさに身を捩らせた。
けれど逃げることは許されず、生々しい水音が私の鼓膜を満たしていくばかりで。ぞわぞわと皮膚の上を何かが這っているような言葉にできない感覚が私の全身を襲い、思考すらも犯されていく。
「っ、ぁ……う……わっ、ちゃ……♡」
「嫌か?なら、やめるが……」
「嫌じゃ、ない……から……続けて?♡」
「……ああ。わかった、」
ゆらゆらと揺蕩う意識の中で、その存在を手繰り寄せるように。うわ言のようにわっちゃん、わっちゃん、と彼の名前を繰り返しながら、その片手間に呼吸する。
唇の塞がっていない今は苦しくなどないはずなのに、ここだけ季節が逆転しているのではないかと錯覚してしまうほどの熱に浮かされて。小さな袋に満たされた分の水の中で必死に鰓呼吸しながら動き回る屋台上がりの金魚はもしかしたらこんな気持ちだったのかもしれない、なんて思ってみたりもした。
彼がいないときの生き苦しさとはまた違う、彼に与えられた熱に苛まれる――それは私が人間へと近づくための過程であり儀式でもあった、はずなのだけれど。
「っ……は、ぁっ……あ、っ……う……♡」
「……**。ちゃんと息できそうか?ずっと身体が熱いが、」
「でき、る……よ、……ふ、……♡」
「そうか。なら、続けても平気だな?」
快楽を与えられ人間に近づく私を観察する普段の冷静さはどこへやら、今日のわっちゃんはどこか性急だ。いつもならもう少しゆっくりと時間をかけて私の身体を暴いていくのに、今は早々に制服をはだけさせブラジャーの上に手を這わせてくる。
布越しに胸の形を確かめたり、既にぷっくりと熟れている先を指で潰したり。緩急をつけて弄ぶ彼の掌に私は声を抑えながらも反応して、ただされるがままになるしかない。
「ん、ぁ……ぅ……ッあ!?♡あ、っう♡」
「ここからでもわかるくらい、固くなっているな。脱がせてもいいだろうか?」
「っ、いい……よ♡脱がして、わっちゃん……♡」
「……ああ、」
言うが早いか、わっちゃんは私の背中に手を回しブラジャーのホックを外す。制服越しからでもわかるほどに立ち上がった胸の先が空気に触れると、それに呼応するかのように背中がぞくりと震えた。
されるがままにぼうっとしていれば下着はあっさりと取り払われていて、次の瞬間には直に彼の少し大きい手のひらが私の胸を包み込み揉みしだいてくる。最初は優しい触れ方だったのに徐々に力が強まっていき、少し痛いくらいのそれに思わず顔を歪めた。
「っ、う……わっちゃ、♡」
「悪いが、これ以上は確認しながら進めてやれなそうだ。……もし嫌なら、力ずくででも止めてくれ、」
「っえ、……あっ、あぁ!?♡」
胸の先を口に含んだかと思えばそのまま舌で転がされ、反対側は指の腹でくにくにと弄られる。まるで赤子にしゃぶりつかれているように胸の先を吸い上げられたり軽く歯を立てられると、反射的に腰がびくりと浮いてしまって。
いつもより子供のような独善的な愛撫に、いつも以上に理解が追いつかない。けれど決して嫌ではないからこそ、私はその快感にただ身を委ねることしかできなかった。
「ふぁっ……あっ、♡やぁ……っんぁあッ♡」
「これだけ感じているなら、もう下も準備はできているだろう。……構わないな?」
「いい、よ……わっちゃんの、好きに……んっぅうッ♡」
胸から唇を離し、荒い呼吸を繰り返している私の頬を撫でながら問うわっちゃんに、こくりと小さく首を縦に振る。それを合図にスカートの下に手を滑り込ませられればすぐに下着を脱がされてしまい、露になったそこにひんやりとした外気を感じてふるりと身体が震えてしまった。
共用スペースのソファーの上、大きく脚を開かされたまま親指で割れ目を左右に広げられて。まだ直接触れられていないにも関わらずいつの間にか蜜が溢れていたらしいそこはその奥へと触れようとする彼の指をあっさり呑み込んでしまい、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が鳴り響く。
「やっ、あっ!♡んんっ……!♡」
「……熱いな」
「ひっ……!?♡あ、ぁあっう……!♡」
「そんなに締めつけるな。俺の方が食いちぎられてしまいそうだ、」
クリームもスポンジも苺ジュレもなくただ無味の肉体があるだけなのに、彼の目には私の身体がクリームたっぷりのショートケーキにでも映っているのか時折舌なめずりをして私の身体に食らいついてくる。普段の観測者としての立場を完全にかなぐり捨て本能の赴くままステンレス皿に盛られたケーキを遠慮なしに貪る捕食者と化していた、そんな彼にとって私と間接キスをしようとした天童くんはさながらケーキにたかる蟻だろうか。
その欲望をぶつけられているのが他でもない自分である意味は未だにわからないけれど、それで彼が満足しているのなら私は構わなかった。拒まず求めずただ受け入れるだけの私をそれでいいと認めてくれた、そんなわっちゃんだから許容できるのかもしれない。
「はぁっ……は、っう……♡」
「ああ、いいな……その顔だ。もっと……俺だけに見せてくれ、」
「あ、ぁっ♡や……わっひゃ、んっ……ふぁあっ♡」
いつの間にか本数が増やされていたわっちゃんの指が、私の中の弱いところを重点的に責め立ててくる。こういうことに及ぶたびに何度も開発されて見つけられた弱点を的確に攻められてしまえば成す術もなく、ただただ彼に身を委ねることしかできないまま腰をがくがくと震わせた。
わっちゃんだけに見せるべき顔、というものがどういうものなのか――ここに鏡が置かれていない以上自分では知ることができないし、見たとしても根底からは理解できないだろう。けれどいつも冷静な印象のある彼が堪らないと呟きつつ獰猛な目で見てくるくらいだから、普段の私からは想像もつかないような顔であることだけは確かなようだった。
「ふ、……もう、十分解れたか。そろそろいいか?それとも……」
「?……も、いいよ……わっちゃんの、好きに……」
「なら、好きにさせてもらうぞ」
興奮冷めやらぬといった様子でスラックスのベルトに手をかけながら言うわっちゃんに承諾の意を示して、乱れた呼吸を整えようと一度深呼吸をする。これから訪れるであろう刺激に耐えるようにぎゅっと目を瞑り脚を広げればゴムの袋を破る音がして、その直後にゴムを纏った熱の塊が私の身体に押し入ってくるのがわかった。
いつも私が欠落を埋められるようにと慮ってくれるわっちゃんが、こうして自分本位な行為に及んでくるのは珍しい。基本的に私の気持ちや反応を何よりも優先してくれるし無理強いは決してしてこない、けれどそんな彼とて衝動に駆られ箍が外れる瞬間もあるということを、私は身を以て実感させられていた。
「わっちゃ、ぁ……う、んんッ……!♡」
「……っ、キツいな……っ、」
「ひっ……!?あ、っうぁ、……ッ♡」
挿入されたかと思った次の瞬間にはもう既に腰を打ち付けられていて、反射的に腰が浮いてしまい無意識に逃げようとすると逃がすまいとでも言いたげに腰を強く掴まれ更に奥まで入り込まれて。ごつんごつんと音がしそうなほどの勢いに視界がチカチカと明滅するけれど、そんなことはお構いなしとばかりに激しい抽送が繰り返される。
いつになく余裕のなさそうな様子で息を荒らげるわっちゃんの姿に、怪物と称される彼もやはり人並みに欲を持った人間なのだと今更ながら再認識させられて。こうやって求められるのもまた私が周りの言う人間へと近づくためのピースのひとつなのだろうか、なんて頭の片隅で考えながら私はひたすらに彼から与えられる快楽を享受していた。
「ぁ、あっ!わっ、ひゃ……いっちゃう、から……ひっ、ぁあッ♡」
「……っは、**……っ!」
ぐりっと弱いところを抉られて身体を仰け反らせると、逃がさないとばかりに腰を固定され容赦なく激しく打ち付けられる。限界が近いのか息を詰まらせるわっちゃんの手を掴むように伸ばしてみればそれを察したのかすぐに指を絡め取られ、強く握り返されたその感覚にまた背筋がぞくりとした。
びくびくと身体を震わせて何度目かの絶頂を迎えれば、連動して膣内が収縮し内側の熱をきつく締め付けてしまう。それによってわっちゃんも限界を迎えたようで、腰を強く押し付けられ最奥を穿たれると薄い膜越しに欲が吐き出されるのが伝わった。
「っふ、ぁ……は、あっ……んっ、」
ずるりと引き抜かれるその感覚にさえ感じてしまい、呼吸を整えながら軽く身動ぎをする。力の抜けてしまった身体では動くことすらも億劫になってしまいソファーの上で伸びていると、わっちゃんの手でふわりと頭を撫でられた。
少しだけ申し訳なさそうに眉根を寄せる彼に、大丈夫だよと伝えるかのように頬をすり寄せてみる。行為中はあれ程までに荒々しく人を抱くくせにこうして終わったあとに優しい触れ方をするあたり、相変わらず人間の挙動というものはいまいち理解できなかった。
「すまない……無理をさせたな」
「ううん、大丈夫……だよ」
「それならよかった。……立てそうか?ほぼ俺のせいだし、無理なら引き上げる」
乱れた制服を直しながら気遣いの言葉をくれるわっちゃんにお礼を言いつつ、自分の身体の調子を確認する。先程よりは呼吸も落ち着いてきたし足腰も立ってはいるもののまだ若干震えているため、結局は差し伸べられた彼の手を借りてゆっくりと立ち上がる形になってしまった。
本当はもう少しだけ余韻に浸っていたかったけれど、いつまでもこうしているわけにはいかない。とりあえずわっちゃんにおやすみと手を振って、私は自分の部屋に戻ろうと階段を上がることにした。