あの夜、舌絡めとけばよかったわ


「……インキュバス?」
「夢心地にさせてやろうか?」
「ってことは現実か、あーよかった。寝てる間にバケモンに乗っかられてるもんかと」
「この状況でそれかよ。マジモンのインキュバスになってやろうか?」
「近親相姦孕ませレイプはちょっと。つーかお兄ちゃんどうやって入ったん。鍵かけてた筈だけど」
「威葬で」
「扉だったはずのものが散らばってるわけだわ。大家さんに謝れ、いい人なんだぞ」
「お前もな。嫁入り前に急に何も言わずに家から飛び出していきやがって。まさかこんなど田舎にまで来てたとは思わなかったぞ」
「オメーが嫁入り前の妹に近親相姦レイプしたからだろ。さっきそれ再現しようとしたくせになんだそのすっとぼけかた腹立つ」
「だから俺が嫁にもらうって言ってんだろ」
「法律で許されてないんだが」
「法律が罷り通る家だと思うか?」
「こいつ殴りてえ」
「殴られるもんならな。お前弱えだろ、伯理と同じで」
「私は嫡流の女として漣家と他家との政略結婚という役割を果たすべき存在だから戦う力はいらない。伯理は嫡流の男として漣家のために戦う力を継承するべきだった存在にも関わらず妖術を会得できなかった。私と伯理は似て非なるものでしょ。その証拠にお兄ちゃんは私に興奮してない」
「お前には興奮しねえよ。普通に可愛いだけ。伯理はえげつないほど可愛い」
「まさかとは思うけど……伯理のことまでレイプしてないよね?」
「は? なんで伯理とセックスするって発想になんだよ。弟だぞ」
「妹は犯すのにかよ」
「まあそれは必要だったから」
「一応確認なんだけどお兄ちゃん私に恋心を有しておられで?」
「有してねえけど?」
「だよね知ってた。お兄ちゃんは私に行き過ぎた家族愛しか持ってないもんね。昔から絶対自分はいらないおもちゃとか絵本とか取り上げられ続けたけどまさか処女まで奪われるとは思わんかったわ。アレのせいで縁談がご破算になったの屈辱だった」
「可愛い妹を何処の馬の骨かもわかんねえ男にやれるかよ」
「お父さん……御当主様が選んだ上で見合いしてんだよ。お兄ちゃんの意見とか関係ないから」
「でも、お前は俺のこと好きなくせに別の男と結婚しても幸せになれねえだろ」
「だから結婚出来なくなるようにぶち犯して娶る事にしましたって、バカっ現在進行形で不幸だわ」
「大体、俺はお前以外と結婚する気ねえし」
「それは私と結婚したいからじゃなくて、他の女に興味がなさすぎて面倒なだけだろ。私と結婚してしまえばその枠埋まるし私は家から出ていかないで一石二鳥って魂胆でしょ」
「合理的だろ」
「理性的じゃねえって言ってんの。はームカつくわ……ええ、ええ私はお兄ちゃんが初恋だよ確かに。たとえ、それが一般的に聞く『私将来パパと結婚するー』みたいな女児らしい稚拙な想いだったとしても私にとっては大切な恋だったわ」
「だったら余計になんで家出たんだよ。俺と結婚できるってのに」
「別に私のこと好きでもない実兄と結婚とか地獄以外の何物でもないだろ。行き過ぎた家族愛と純粋な恋心が上手いこと合致するわけないんだよ。やっと初恋終わらせられるような良い人と懇意になれたのに」
「やぁだよ俺、あいつ、俺にビビってへこへこしてばっかだっただろ。あんな奴が義弟とか無理だわ。俺はお前と結婚しておけばお前と家族のままでいれるだろ」
「あのさー……それが腹立つって言ってんの。恋してた私が諸々の問題を考慮して一生懸命我慢してお兄ちゃんの妹でいられるように頑張ったのに、別にそうでもないお兄ちゃんがなんか義弟が気に入らないからって理由で妹って立場を私から奪い去ったんだよ。なんで少しも我慢できないんだよ信じらんない」
「あー……悪かったよ。じゃあ、お前との結婚はしないでやる。これでお前は俺の妹でいれるだろ。実兄に処女取られた女とか嫁の貰い手ねえだろうし、お前はずっと家にいればもうそれでいいわ……はー、あの縁談受けるかぁ。だっりぃ」
「いや死ね?」
「あん?」
「いや、私が死ぬわ。事故物件にするのは大家さんに申し訳ないから遺体は回収して行方不明扱いにして。じゃあねお兄ちゃんガオェエッ」
「おーいおい、お前、今舌噛んで死のうとしたろー。あっぶねーな、指突っ込んで苦しいかもしれないけど我慢しような」
「ぁっゲェッゲェおええッ……!」
「あ、何? 携帯? いや画面ちっさくて読みづれえわ。えー『一旦死ぬのやめるから指を抜け』……いいけど、今度こそ死のうとしたら気絶させて家帰るぞ」
「げっほ、ごえっ……! ふっざけんなよ、お兄ちゃん、まじで」
「死のうとしたやつには言われたくねえわ」
「死、んだっほうが……マシな人生に、したのはお兄ちゃんでしょ……」
「おい、そろそろ帰るぞ」
「ちょ、ちょい待ち。あのさー……私絶対いつか死ぬからね」
「ああ?」
「どうせ私帰ったらずっと監視カメラ付きの部屋で監禁されて、手錠で拘束されて舌も噛めない様に猿轡されるんだろうけど、いつか絶対自分の手で死んでやるからね」
「はいはい」
「前からお兄ちゃんは私のものはなんでも欲しがったよね。嫌がらせとかのつもりでは決してなくて、とにかくただ単に欲しがり続けた。それが私は嫌だったけど、同時に知性も高けりゃ力もある、私のことをしっかり愛している強者だった。絶対的に敵わない相手に私は屈服させられたんだろうね。ほんと始末に負えない、救いようのないバカな私はそのせいでお兄ちゃんのことを好きになったと思う。私の心を知らずのうちに奪ったんだよ。お兄ちゃんは私に恋しているわけじゃなかったけど、それ自体にはちょっとした悦を覚えたでしょ。だから、いつかお兄ちゃんは私の命まで欲しくなるに決まってる。お兄ちゃんはいつか絶対に私を殺すよ。私はその時が来るまで狭い部屋で息苦しく生きてくなんて無理。だったら今死なせてよ。私が舌を噛んで死ぬのがダメなら、お兄ちゃんが私の舌を噛みちぎって殺して」
「お兄ちゃんとのベロチュー狙ってんだろそれは。もうお前のこと嫁にする気はねえし、そういうことはもうなし。我慢しろ」
「あっそ。じゃあね」

 漣宗也は数年前に家出した愛する妹を気絶させ、そのまま家へと連れ帰った。
 猿轡をされた妹は目を覚ますと、すぐさま手錠がついたままの両手で自身の両目を抉り出し、そのまま眼窩を穿るように指で突き刺し続け、ものの数分で衰弱した末に死んだ。