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 一度ストバスコートで集まってから、予め決められていた4人は病院へ向かう。黒子の案内で華蓮の部屋の前まで来た。赤司が黒子に目配せをすれば、黒子は正確に意味を受け取った。黒子が先に中に入り華蓮の様子を見る。適当に理由を付けて他の3人を招き入れるということだ。勿論、華蓮の体調が悪い場合は出直すつもりでもある。
 3回のノックに中から「どうぞ」と落ち着いた女性の声がする。黒子はその声の主が華蓮であることを知っているので、彼女の言葉に従い中に入った。見送った3人はドアの傍まで行き、耳を立てる。
 赤司達が外で盗み聞きしているなど知りもしない華蓮は黒子の存在を正確に認識した。見たばかりの顔を記憶から呼び起こし、笑みを浮かべる。黒子には、その笑みに何処か安堵が含まれていると感じた。華蓮は、昨日最後に言ったまた来るという言葉が本当であったことに安堵したのだ。

「いらっしゃい、黒子君」
「はい」

 華蓮の手には黒子が薦めた本が収まっていた。その様子に少しだけ黒子は安堵する。何故安堵したのか、黒子自身がわかっていない。いつ頃赤司達のことを言うべきか少しだけ考えながら、椅子をベッドの傍に置く。荷物は無くなっては困るので、待機組の元に預けてある。

「本、どうですか」
「面白いよ、こんな本あったなんて知らなかったなぁ」

 ゲームソフトが並んでいた棚には、黒子が薦めた本が何冊か並んでいる。まだ全て読み終わっていないのは一目瞭然だ。華蓮は押し花の栞を本に挟むと、棚の上に手を伸ばす。本を棚の上に置くと、黒子に顔を向けた。

「華蓮さん」

 佐久間さんと呼べなかったのは、彼女の父とも知り合いだったからだ。知り合った時間はそこまで違いはない。どちらも佐久間さんで問題ないように思うが、説明をするのにどうしても下の名前を使っていたのでそのまま出たのだ。
 華蓮は名前を呼ばれたことを気にしてはおらず、「どうしたの?」と口を動かす。問われれば、比較的言いやすくなったので黒子は素直にその問いに答えた。

「実は、ボクの友人も来ているんです。紹介したいんですが、構いませんか?」
「黒子君のお友達が? ふふ、勿論いいよ」

 黒子は華蓮のその言葉に安心して、椅子から立ち上がる。扉に近付き開ければ、外で話を聞いていた3人は既に心構えをし終わっていた。相手は女で、歳が近く優しげである。心構えと言っても大したものではない。
 黒子が戻り、3人が後を追う。それぞれ入る時に一言添えて。華蓮は3人を可笑しくない程度に観察していた。それぞれタイプが違う友人だと思いながら、笑みを作る。残りわずかなものだと、思わせない笑みだ。3人も、事前に言われていなければ患っている人間だと思いもしなかっただろう。

「初めまして、佐久間華蓮です」
「初めまして、赤司征十郎です」
「高尾和成でっす」
「氷室辰也です」

 それぞれの簡単な自己紹介も済み、それぞれ好きな場所に自分の陣地を取る。黒子は先程と同じ椅子に座り、赤司は壁に背を預ける。高尾は黒子の傍に立ち、氷室は黒子達とはベッドを挟み反対側に椅子を持ってきた。
 黒子の友人であるから、決して悪い人ではないということは華蓮にもわかっている。しかし見知らぬ人間が3人もいれば、何を言い出せばいいのか迷ってしまうものだ。その上華蓮が呼んだ訳ではないだから、言いようがない。荷物もない3人は名前と黒子の友人であること以外の情報を得られないのだ。
 勿論、その心情は他の者もわかっている。早速高尾は人好きのする笑みを浮かべ、口を開いた。人見知りをしない高尾にとって初めての相手でも話しかけることが出来る。キセキの世代の中では比較的マシであっても、変人と呼ばれる緑間真太郎を相棒と呼ぶほどの人間だ。変人でも何でもない普通の女の子である華蓮にだって、気軽に話しかけられる。

「佐久間サン、黒子がバスケ部ってことは?」
「知ってるよ」
「オレらもバスケ部なんすよ! みんな学校は違えけど」

 成る程、と華蓮は思った。それならば全くタイプが違っていても友人であることを可笑しく思わないからだ。部活関係ならば友人も知り合いも多いのだろうと、部活に入ったことのない華蓮は思う。本当にそうなのか華蓮が確かめる術などないので、高尾の言葉を信じるしかないのだ。

「大会で黒子んとこが優勝して、赤司んとこが準優勝で、オレんとこが3位! 氷室サンとこは黒子んとこと当たって負けちゃったけど、相手によっては上位に食い込んできてたっすね!」
「うん、まあ、否定はしないかな」
「ほんと!? すごーい!」

 キセキの世代とは、そういうものである。今年はその上黒子の相棒まで入ってきているので、大会で前半の方に当たれば上位に入ることがなくなることもある。しかし中盤まで当たらなければ上位は確実にキセキの世代がいる高校となる。
 勿論キセキの世代など知らない華蓮は、赤司がキセキの世代であることも、高尾や氷室のところにキセキの世代がいることも知らない。勿論彼らも万人がキセキの世代を知っているとは思っていないので、深くは追及しない。
 深い話まではしないものの、華蓮は高尾と氷室の話に興味を示す。夏の合宿場所で誠凛と秀徳が被ったこと、氷室は黒子のチームメイトに兄貴分であること、普段の様子。病院から出たことのない華蓮にとって、高校生活についてだって興味深い話であった。

「それで先輩が、一位取ってこいよって怒って」
「占いなのに?」

 華蓮は高尾の言葉にクスクス笑いながら、そう問いかけた。高尾は大袈裟に頷く。
 その様子をずっと傍観していた赤司は、少しずつ考えを纏めていく。何の消滅を防がなければならないのかずっとわからなかったが、華蓮の様子に自然と答えを導き出されたのだ。
 黒子はひとつ≠ヘ自分だと言った。何か特別なことがあるのならば、華蓮と知り合ったことであると。ならば消滅を防げ≠ニは華蓮に関連したこととなる。本来ならば年齢のことも考えて彼女の父の方が上がるのだが、状況が状況だ。入院しているならば、何かしらを患っていて、黒子は言いはしなかったが華蓮の死が近いことを悟るのも容易であった。つまり消滅を防げ≠ニは華蓮の死を防げということなのだ。
 しかし、華蓮の死を防ぐことはできない。何故ならば、彼女は病気であるからだ。他のことならばまだしも、高校生の彼らに病を防ぐことはできない。
 防ぐことができないのなら、赤司が取る手段は傍観だ。もし華蓮が死んだらどうなるのか、それを確かめるべきだと思った。こうして切り捨てられるのは、ここが異世界であるということからだ。赤司にとって華蓮の死よりも自分や黒子達の生が重要であった。
 赤司は華蓮を見る。赤司からして華蓮の印象はいいものであった。大人しく、何処か品がある。だが明日も笑っていそうな元気さと、今にも消えてしまいそうな儚さがミスマッチして違和感がある。

「華蓮さん」

 今まで黙っていた黒子が口を開いた。黒子の行動は赤司でも読めないところがある。赤司は黒子の様子を探った。

「これから、外に出ることは出来ますか」

 きょとんと、黒子以外の人間が彼を見る。まさかそんなことを言われるなどと思っていない華蓮は呆然としたままであった。いいや、呆然としているのは華蓮だけでなく、高尾や氷室もである。唯一惚けていないのは赤司のみであるが、その赤司も黒子の考えは読めていなかった。

「えっと、あの、先生に、聞いてみないと……」

 しどろもどろになりながら何とか言った華蓮に、黒子は聞いてみようと言う。突然のことでどうすればいいのか分からないまま、華蓮は視線を彷徨わせる。勿論高尾も氷室もどうすればいいのか分からず、赤司に視線を寄越した。赤司は考えるように腕を組む。

「先生を探しましょう。車椅子を用意します」

 部屋に折り畳まれた車椅子があることに赤司は気付いていた。華蓮は歩けないことはないが、主な移動手段は車椅子である。赤司は車椅子を取り出して広げ始めた。
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