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華蓮は担当医の井口は診察中で聞けなかったが、看護師に聞いてみればあっさりと許可が出た。華蓮は知らないことであるが、華蓮は昼間であればいつでも外に出ることが出来る。幼い頃から病院にいる方が多かった彼女への配慮なのだが、華蓮が用もなく外に出ることはなく、今まで知らなかったのだ。
黒子に押してもらい、着いた場所はバスケコートであった。そこには待機組もいたのだが、勿論華蓮は知らなかったので、隣にいた氷室の顔を見た。氷室は安心させるように微笑むと、一人一人紹介していく。全員の名前を教え終わる頃には、黒子は他の人間に華蓮の紹介と彼女を連れてきた理由を告げていた。
「華蓮さん、今からバスケの試合をします。正式なものではないので、公式試合ほど白熱したものになるかは分かりませんが、楽しんでいただければと思います」
ふわりと黒子は微笑む。ポジションは偏っている上に普段共に練習をしてきた訳ではないので、練習を積み重ね高いチームワーク力を発揮出来る訳ではないが、これもまた楽しさであった。黒子はまだ状況を理解しきれていない華蓮に微笑んでから、みなの元へ戻る。組み分けを相談するためだ。
話し合いの末、黒子、高尾、紫原、氷室、実渕と緑間、宮地、桜井、福井、赤司といって組み分けになった。話し合いといっても結局上手く決まらなかったのでじゃんけんで決めることになったのだが。
勿論審判などいないのでジャンプボールはなくじゃんけんでどちらから攻めるか決める。細かいルールも存在しない。じゃんけんは緑間が勝ち、赤司からボールが始まる。赤司も福井もポジションはPGであるが、実力は赤司の方が上だ。ボール回しは赤司が中心となる。一方黒子のチームのPGは高尾である。高尾はコート上を上から見るという特殊な目を持っており、影の薄い黒子すらその視界に捉えることが出来る。黒子にとって敵に回れば天敵ではあるが、味方になれば黒子のパスに指示を出しやすい。
福井から緑間にパスされたボールはミスディレクションでコート上から消えているように見えた黒子によってカットされ、高尾に渡る。高尾から実渕にパスが回って3Pシュートが決められた。
ボールを目で追うので精一杯な華蓮は、自然と笑みを浮かべていた。ボールの動きが速いので時には見失いながらも、高揚感を抱く。
宮地がダンクシュートを決めた時には、感動すらしていた。知識はあった。しかし届くとは思っていなかった。ちらりと赤司は華蓮の様子を見ると、周りに悟らせない程度に笑みを浮かべる。赤司も動き出し、お返しだというようにダンクシュートを決めた。背の高い宮地ならば兎も角、赤司は平均よりは高いと言った程度であった。このメンバーの中でも低い方であり、一番背の高い紫原と比べれば大人と子どものようである。それをジャンプ力でカバーしたのだ。
勝敗はキセキの世代が二人揃った赤司のチームが勝利した。最初は守り一辺倒だった紫原も試合中に熱くなっていき、攻めにも変わった白熱したものになっていた。華蓮も最後の方には全員の動きを見ることが出来ていた。
「佐久間サン、どうでした?」
試合が終わったばかりでタオルを肩にかけながら駆け寄ってきた高尾に華蓮は笑顔を見せる。勿論、高尾も本当に楽しめていたのか時々気にして盗み見ていたので、華蓮が楽しんでいたことを知っていたが、聞いて会話を広げようとしているのだ。人と話すことの少ない華蓮はそのことに気付いてはいないので素直に口を開く。
「凄かった! ボールがすぐ動くし、それに、最初は気付かなかったんだけど、気にしてるのボールだけじゃないでしょ? 高尾君も凄かった! あの、上手く言葉に出来ないんだけど、相手にしてる人だけじゃなくて、全体を見てるっていうか」
興奮したままに喋るので言葉が纏まっていないが、必死に言葉を紡ぐ。高尾は華蓮の言葉にきょとんとした。高尾の目は普通の人間には理解しがたいものである。勿論、上から見ているかのように状況を把握出来ていることなど華蓮は知らない。だが、高尾の動きだけでそれを感じていたのだ。鋭い洞察力だと、高尾は思った。そして、華蓮が見ていたのはキセキの世代の試合ではないのだと。
キセキの世代がいるチーム同士が試合をするとなると、やはり注目されるのはキセキの世代である。しかし華蓮はキセキの世代という先入観がない分、試合全体を見ていた。緑間がいると目立つことはない桜井や実渕、氷室の動き、赤司に負けじと指示を出す高尾、福井も赤司との連携により存分に力を発揮していた。
ただ、力で紫原に敵う人間がこの場にはいなかったので、筋肉の些細な動きを読み取ってボールを奪う赤司以外は止められなかったが。
「それからダンク! 初めて見た!」
「? ダンクしたいの〜?」
みんなある程度汗をタオルで拭うと華蓮の話を聞いていた。無論紫原も聞いていたので、横から顔を覗かせる。高尾と華蓮の間に入る形になったので高尾は文句を言うが紫原は何処吹く風だ。
「そりゃあ、してみたいけど……」
紫原の問いに華蓮は返す。出来ないと分かっているので諦めの笑みを携えて。ただでさえ平均しかない身長では出来るものではない上に、ジャンプ力もない。華蓮には幼い頃から出来ないことをすぐに諦めてしまう癖があった。出来ないことの方が多すぎた。
紫原はこてりと首を傾ける。男にしては長すぎる髪がさらさらと肩から落ちた。末っ子である紫原は我儘な性格であった。勿論出来ないことがあるということは理解出来るが、彼は我儘で負けず嫌いで、天邪鬼である。見た目とは裏腹に誰よりも子どもらしかった。だから何故華蓮が諦めようとするのか分からなかった。彼だって華蓮がダンクを出来るほど身長がなく、体力も力もないことは理解している。
だが、ダンクではないかもしれないが、シュートする方法はあることを教えたかった。自身よりもずっと小さくて、細くて、今にも折れてしまいそうな華蓮は、護らなければならないと何処かで思っていたのだ。
「んーしょっと」
「えっ、あ、あの、紫原君!?」
「アララ〜? 何でオレの名前知ってるの〜?」
「それは氷室君が教えてくれたから……。そうじゃなくて、あの、紫原君、怖い、怖いんだけど……!」
軽々しく(実際黒子をわたあめと例えた紫原にとって#華蓮hは軽くて仕方ない)華蓮を持ち上げた紫原は危なっかしい動作で華蓮に肩車をすると赤司からボールを受け取る。抱えられる、ましてや肩車をされることなど幼い頃以来されなかった華蓮は、2mを軽く越える視界が恐ろしかった。紫原の頭にしがみ付いて、何処を見ればいいのか、あちらこちらへと視線を向ける。
「ボール持って〜」
「え、うん……」
今まで持つことのなかったバスケットボールの大きさを確かめるように、華蓮は両手で持った。華蓮が持ったことがあるのは病院の子どもたちが良く使う野球ボールぐらいである。
紫原はのそりのそりとゴールリングに近付く。どうすればいいのか、紫原の頭に手を置いてバランスを取る華蓮は訳が分からず困惑した。紫原は余りにも言葉が足りなかった。
「ほら、やりたいんでしょ、ダンク」
華蓮はその言葉の意味を正確に理解するまで時間がかかった。しかしその言葉を理解すると、笑顔を浮かべる。紫原は華蓮に足りないジャンプ力と身長を補っているのだ。紫原とて地面に足が付いていればリングには届かないが、約3m程ならば肩車で届くだろうという目測だ。実際華蓮が手を伸ばせばやっと届くといった具合である。
華蓮は両手でボールを持ち上げて、それから右手でボールのバランスを取る。左手は紫原の頭に添えて、ボールをリングの上から落とす。ダンクとはかけ離れてはいるが、華蓮はこれで満足であった。ポトンと落ちて跳ねるボールの行方を追って笑みを浮かべる。
「ありがとう、紫原君」
「んん、別に〜。アンタ重くねーし」
紫原の照れ隠しの言葉に、華蓮はますます笑みを深めた。我儘で負けず嫌いで天邪鬼でも、紫原には優しさがあった。ただし、紫原のこの行動は周りを酷くヒヤヒヤさせた。