微睡みのようにおだやかな睡眠から、ふと引っ張られるような感覚がする。呼ばれたように思ったかもしれない。腕を取られたように思ったかもしれない。あなたは何かしらが自分の意識を引いている…そんな感覚を覚え、目を覚ました。

 ぼんやりと覚醒を自覚しているうちに、意識も定まってくるだろう。昨日は確か、少し込み入った用事で多忙の一日を送った。疲労困憊のままベッドに入り、泥のように眠った記憶がある。昨晩放り投げた片付け等もしなくては、と考えることもあるだろう。
 何度か瞬きすれば視界も明確になっていく。やけに日差しが強い空の下、春だというのにこの暑さは何事だと思うかもしれない。昨日はどちらかと言うと寒い方で、早く春一番が吹けばいいなんてくだらないことを思って………空の下?そこで、あなたは完全に目が覚めた。
 視界に映るのは真っ青な空。グラフィックなどではない、本物の青空だ。雨雲ひとつなく、気持ちの良い晴天があなたの目覚めを祝福するように輝いている。

 慌てて周囲を確認すると、まず自宅ですらないようだった。瓦礫の散らばる道路、倒壊した建物のなれはて。見覚えのない野外の地べたにあなたは横になっていた…らしい。
<聞き耳>
 これは夢だろうか?そう唖然としているあなたの元に、ひとつの足音が届いた。思わずそちらの方向に目をやると、人影が遠くに見える。目を凝らしてみると、それはよく知った人物だとわかって良いだろう。彼はそのままあなたのそばまで歩いてくる。
(寝起きドッキリも笑えないような事態に混乱し、あなたの五感の動きは鈍っているのかもしれない。唖然と周囲を見ていたあなたの背後から、人影がかかった。全く気づかなかったあなたは肩を跳ねさせ、反射のようにうしろを振り返る。すると、よく知った顔がそこにいた。)

「起きたのか」

 あなたの(任意の関係性)であるKPCである。

「相変わらず暑いな。さて、質問も疑問も山ほどあるだろうがまず一言先に言わせてもらおう」
「世界は崩壊した。俺たちは唯一の生き残りだ」

 冗談のような言葉が耳を滑る。世界が崩壊?…何を馬鹿なことを。しかし、あなたは周囲の違和感に目を向ける。全く音一つしない知らない場所に寝転がっている事実。…本当に?ここは知らない場所だろうか。あのビルは知り合いの勤めていた会社の本部の構造にようによく似ている。このコンクリートでできた道はたくさん歩いたおなじみの道に似ている。そして何より、KPCの背後、その奥。遠くに見えるあの廃れた壊れかけの建物は、朱鷺坂駅に酷似してはいないだろうか。笑い飛ばすような雰囲気でもなかった。
 恐る恐る、うがうように彼を見上げる。しかしさんさんと照りつける太陽の光を背後から浴びるKPCの顔は、逆光で全く見えなかった。

 「世界に2人きりみたいじゃないか?…冗談だ、忘れてくれ」

 その声音には、恐ろしく彼に似合わない軽快さがあった。